特別編第40話 《貴重素材の入手》

――ポイズンタートルの討伐に成功した後、すぐにポイズンタートルの足止め役を行っていたガオウとフィルの救出活動が行われた。二人とも奇跡的に生き延びており、相当な大怪我を負っていたが命に別状はなかった。


ガオウもフィルも意識不明の重体ではあるが、イリアの薬によって二人の怪我は治っており、しばらく休めば直に目を覚ますという。他に毒霧の影響で体調不良を起こしていた者達も時間経過で身体から毒素が抜けて動けるようになった。


討伐したポイズンタートルの死骸はあまりにも巨大すぎてマル湖から引き上げる事はできず、仕方がないのでそのまま放置する事に決まった。また、ポイズンタートルの死骸を調べたところ、ポイズンタートルの背中の甲羅から希少な素材が発掘された。



「ほら、これを見てくださいよ!!この亀の背中、ミスリル鉱石が採れますよ!!」

「ミスリル鉱石?そうか、だからこんなに硬かったのか……」



ポイズンタートルはゴーレムのように全身に岩石のように硬い外殻で包まれており、この外殻を引き剥がすと魔法金属ミスリルの原石であるミスリル鉱石と呼ばれる代物だと判明した。


ナイ達の攻撃を受けてもポイズンタートルが大きな怪我を負わなかった理由はこの全身を覆い込むミスリル鉱石のお陰であり、魔法金属の素材としても利用される頑丈な鉱石だったせいで攻撃が碌に通じなかった事が発覚する。



「これだけのミスリル鉱石があれば色々と利用できますよ!!何としても持ち返りましょう!!」

「待て待て……これだけのミスリル鉱石を全て持っていけるはずがないだろう」

「なら持っていける分だけ持って行きましょう!!それにこれだけの鉱石があればグツグ火山の鍛冶師達も快く燃料を分けてくれますよ!!」

「うむ、それはあり得るかもしれんな……」



イリアの言葉にハマーンも賛同し、これから飛行船はグツグ火山に立ち寄って燃料の補給を行わなければならない。しかし、何の手土産も持たずにグツグ火山に立ち寄っても火山を管理するドワーフの鍛冶師達に反対される可能性が高い。


だが、魔法金属の素材となりえる鉱石を大量に持ち込めばグツグ火山の鍛冶師達も快く歓迎する可能性もあり、今日の間はナイ達はマル湖で一夜を明かして身体の回復とついでにポイズンタートルから素材回収を行う――






――夜を明けると飛行船は再び動き出し、次の目的地の途中にあるグツグ火山へと向かう。移動の際中にナイはイリアから身体検査を受けると、特に身体に異常はない事を再確認される。



「うん、怪我はしっかりと治ってますね。流石は私の緑聖水です、完璧に治ってますよ」

「あの薬、本当に凄いですね。毒を中和する効果もあるなんて……」

「まあ、正確に言えば身体の免疫力を強化する効果があるんですよ」



ポイズンタートルの戦闘の際にナイは仮面を失い、リンが船に送り届けるまでの間に毒霧を吸い込んでいた。しかし、ナイは意識が戻った時は少し身体が重く感じる程度で自分の意志で動く事ができた。


最初はナイは緑聖水には毒も無効化する成分が含まれているのかと思ったが、イリアによると緑聖水は肉体の回復力を高めるだけではなく、病気や毒などの免疫力を強化する効果があるという。



「ナイさんは毒耐性の技能を持っているんですよね?だから、緑聖水で免疫力が強化された時に毒に対する耐性も強化されて毒霧の影響を受けなかったんですよ。流石に普通の人が緑聖水を飲んでもナイさんのように毒を無効化できるとは思えませんね」

「なるほど……あの薬、余っていたら貰えますか」

「安心して下さい、もう少しでもっといい薬ができますから……ひひひっ」

「そ、その不気味な笑い方は怖いんですけど……」



医療室にてナイは身体検査を終えると彼はベッドに横渡っているガオウとフィルを伺う。二人ともまだ意識は戻っておらず、自分を助けるために無茶をさせた事に心を痛める。



「ガオウさんとフィルさんは……まだ目を覚まさないんですか?」

「大丈夫ですよ。その内にきっと目を覚ましますから……心配する必要はありません」

「そうですか……」



二人が目を覚ました時にナイはお礼を告げる事を心に決め、二人に頭を下げると医療室を後にした。ナイがいなくなった後、イリアは倒れている二人に話しかける。



「行きましたよ、本当はもう起きてるんですよね」

「ふうっ……悪いな、嬢ちゃん」

「…………」



イリアが話しかけるとガオウは目を覚まし、腕を回して体の具合を確かめる。その一方でフィルの方は瞼は開いたが何も口にせず、黙って二人から視線を逸らす様に顔を横に向けた。



「ちっ……おい、いつまで不貞腐れてるんだ。起きたら坊主に礼を言えよ」

「……うるさい」

「たくっ、本当にガキだなてめえは……ふああっ、俺はまだ眠いからもう少し眠らせてもらうぜ」

「寝るんなら自分の部屋で寝てくださいよ、全く……」



二人とも既に意識は戻っていたが、ガオウはまだ身体の疲れがあるのでベッドに横たわり、フィルの方はナイに合わせる顔が無いので仮病で彼から避けていた。


フィルも先のポイズンタートルの戦闘でナイに命を救われ、そのせいで彼に対してこれまで通りの態度が貫けなかった。自分の失態でナイを死にかけさせたという負い目があり、彼は涙を流しながらベッドの上で横になる――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る