特別編第38話 《魔導大砲》
「フガァアアアッ――!!」
「ほう、奴は泳げるのか……外見も亀に似ておるし、もしかしたら本当に亀の仲間かもしれんな」
『言っている場合ですか!?このままでは船が……』
「うむ、分かっておる。それよりも仮面を外したらどうじゃ?儂の傍に居る限りは毒霧の影響は受けんぞ」
マホの言葉を聞いてナイを抱えていたリンはやっと仮面を取り外す。その一方でマホはポイズンタートルの位置と船の向きを確認し、丁度ポイズンタートルが船の正面から迫ってくる形になっている事に気付く。
「ふむ、これは都合がいいな……リンよ、ナイを早く船内に移動させよ。そしてイリアに伝えてくれ、準備は整った」とな」
「え?それはどういう……」
「考えている暇はないぞ、儂が時間を稼ぐから早く報告に迎え……流石にこれだけの大物が相手だと儂も長くは持たん」
「は、はい……」
杖を握りしめたマホは船の船首へ移動すると、彼女は杖を掲げて魔法の準備を行う。それを見たリンはマホに何か考えがあるのだと判断して船内へ移動する。
リンが船内に移動したのを確認するとマホは改めてポイズンタートルと向かい合い、彼女はポイズンタートルが船に迫るまで時間を稼ぐために魔法を放つ。
「さて……何処まで時間を稼げるか」
杖の先端に風属性の魔力で築き上げた渦巻を構えると、彼女は杖を振り下ろす――
――その一方で船内の方では慌ただしくイリアとハマーンが動いていた。二人とも窓から迫りくるポイズンタートルの姿を確認しており、二人は船に搭載していた大砲のような形をした兵器の準備を行う。
「砲弾の装填は完了したぞ!!」
「よし、後は狙いを定めるだけですね。後は照準を定めて撃ち込むだけです!!」
「イリア魔導士!!それにハマーン技師、ここにいたのか……な、何をしているんだ!?」
船内に戻ったリンはナイを抱えた状態でイリアとハマーンを発見すると、二人が船の先端部にて大砲のような形をした兵器を前に佇んでいる姿に驚く。
二人がいる場所は丁度船の外側から見たら「鮫の紋様の口元」の部分に位置しており、砲門を開いて大砲が出現すると外側から見たら鮫の口から大砲が出てきたように見える。
「何って、見ての通りに私が考案した新型の「魔導大砲」を発射する準備ですよ」
「ま、魔導大砲?あれは失敗したのでは……」
「失敗しようと成功するまで繰り返すのが私の持論です!!ほら、リンさんも手伝ってください!!砲門から毒霧が流れ込まないように風で吹き飛ばしてください!!」
「私も!?」
「今は説明している暇はない、どうせこのままだと船は沈められるんじゃ……協力してくれ!!」
ハマーンは大砲を固定して照準を定めている間、イリアは発射の準備を整えてリンは彼女の言う通りに砲門から毒霧が入り込まないように魔剣を扱う。
「こ、これでいいのか!?」
「そうです!!その調子でお願いします!!」
リンは魔剣を抜いて風圧を発生させると、砲門から突風が発生して毒霧を吹き飛ばす。その間にイリアとハマーンは魔導大砲の準備を整え、遂に全ての準備が終わった。
「よし、後はこれを撃ち込むだけです!!これが当たればあんなデカブツ、一発でぶっ倒せますよ!!何しろ対竜種用に開発した新兵器ですからね!!」
「ほ、本当か!?」
「ですけどこの魔導大砲は一発撃てば過熱してしばらくの間は次の弾は撃ち込めません。なので外したらもう終わりです、だから外したら終わりだと思ってください!!」
「そういわれると緊張して上手く撃てんわい!!」
イリアが開発した新型の魔導大砲と呼ばれる兵器は、国内で開発された戦闘用の魔道具の中でも絶大な威力を誇り、元々は竜種に対抗するために最強の兵器である。
しかし、まだ試作段階の兵器なので一発撃ちこめば大砲が過熱して次の弾はすぐには撃ち込む事ができず、もう一度撃ち込む場合は一定の時間を置かなければならない。そんな時間をポイズンタートルが与えるはずがなく、最初の一発で当てなければ船は確実に沈められてしまう。
「一発です!!確実に一発で仕留めてください!!」
「だ、だからそう急かすな!!儂だって撃つのは初めてじゃぞ!?」
「初めて!?今までに撃った事はないのか!?」
「実験の時は私が撃ってましたけど、狙いがぶれて一度も当てた事がありません。ですけど、あれだけの巨体なら狙いが少しずれようと当たるはずです……多分」
「多分なのか!?」
「仕方ないでしょう!!まさかポイズンタートルがあんな化物だとは思わなかったんですよ!!」
魔導大砲を開発したイリア自身も大砲を狙い通りに当てた事はなく、上手くいくかどうかは分からないとの事だった。だが、魔導大砲以外にポイズンタートルを倒す可能性がある兵器は存在しないため、ここは一か八かでも賭けに出るしかなかった
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