特別編第35話 《失態》

「フガァアアアッ!!」

『うおっと!?食われてたまるかよ!!』



ガオウに目掛けてポイズンタートルは首を伸ばして飲み込もうとしてきたが、鋭い反射神経でガオウはポイズンタートルの頭の上を跳んで回避した。


攻撃を躱されたポイズンタートルはそのまま頭を落として地面に倒れていた樹木に嚙り付き、鋭い牙と凄まじい咬筋力で噛み砕く。その光景を見てナイ達はもしもポイズンタートルに喰われれば自分達など一瞬で肉塊ミンチにされる事を思い知らされる。



『くそ、噛みつく力は火竜級か……』

『これは思っていた以上に危険な相手だな……』

『でも……やるしかありません』



ポイズンタートルを倒さなければ毒霧は収まらず、こうして戦っている間にも船に残った者達は危険に晒されている。ナイは手にしていた旋斧を背中に戻すと、旋斧よりも硬度が高い岩砕剣を構えた。


先ほどガオウは攻撃を仕掛けた時はポイズンタートルの皮膚に傷一つ与えられなかったが、ナイの剛力と岩砕剣の硬度ならば損傷を与えられる可能性は十分にある。ナイは岩砕剣を握りしめると、二人に援護を申し込む。



『今度は俺が攻撃を仕掛けます。二人はポイズンタートルの注意を引いてくれますか?』

『それは構わないが……何処を攻撃するつもりだ?』

『頭です。一瞬でいいので相手の視界を封じてください』

『なるほど、頭か……よし、任せたぞ』



ガオウとリンはナイの提案を聞き入れ、彼が攻撃を仕掛けるために自分達がポイズンタートルの注意を引く事に集中する。二人を信じてナイも岩砕剣を握りしめると、確実にポイズンタートルを仕留めるための準備を行う。



(一撃で倒す……それしか方法はない)



ナイは意識を集中させて全身の聖属性の魔力を活性化させ、限界まで身体能力を引き上げる「強化術」を発動させる。更に岩砕剣には魔法腕輪を通して地属性の魔力を流し込み、限界近くまで岩砕剣に重量を増加させる。



(坊主、集中しているな……次の攻撃で仕留める気か)

(本当にこれほどの敵を一撃で仕留められるのか?いや、ナイならばできるはずだ)



ガオウとリンはナイの変化に気付いて彼が次の攻撃で確実に仕留めるつもりだと気付き、そのためには自分達がポイズンタートルの注意を引かなければならない。そう考えた二人はお互いに視線を躱し、同時に動き出す。



『俺は左目、そっちは右目だ!!』

『分かった!!』

「フゴォッ……!?」



ナイが動くためにはガオウとリンがポイズンタートルの注意を反らす必要があり、二人は左右に分かれるとポイズンタートルの両目を同時に狙う。


リンは鞘に剣を収めた状態で風属性の魔力を集中させ、ガオウは持ち前の跳躍力を生かして再び直接眼球を斬りつけようと機会を伺う。しかし、この時にポイズンタートルも二人の行動を見て危険を感知すると、予想外の行動を取る。



「フゴォオッ――!!」

「なぁっ!?」

「首がっ……!?」

「っ……!?」



ポイズンタートルは本物の亀のように首を甲羅の中に、これによって3人は攻撃対象を見失ってしまう。首を甲羅の中に隠されては注意を反らす事も直接に頭を攻撃する事もできず、3人は意表を突かれて動きを止めてしまう。


更にポイズンタートルは首を引っ込めた状態で、再び身体を回転させて尻尾を薙ぎ払う。またもや迫りくる尻尾に対してリンとガオウは飛び上がって攻撃を回避するしかなかった。



『くっ!!』

『ちっ!!』



ガオウとリンはどうにか反応して避ける事には成功したが、この時に何故かナイだけは跳躍せずに驚いた表情である方向を見つめていた。それは木々の間に挟まっているフィルであり、彼は意識を取り戻したのか木々を抜け出そうとした時に迫りくる尻尾を見て悲鳴を上げる。



『ひいいいっ!?』

『はっ!?』

『なっ!?』

『フィルさん!!』



既に空中に浮かんで回避行動に移っていたガオウとリンは何も出来ず、フィルを守る事ができるのは地上にいるナイだけであった。ナイは迫りくる尻尾に対して岩砕剣を振りかざし、強化術を発動した状態で岩砕剣を振り下ろす。



『だああああっ!!』

「フゴォオオオッ!!」



岩砕剣の一撃がポイズンタートルの尻尾に衝突した瞬間、激しい金属音が鳴り響いてナイの身体が吹き飛ばされる。この時にフィルも一緒に巻き込まれるが、ポイズンタートルの尻尾も動きを止める。


ナイの渾身の一撃によって尻尾の勢いを止める事には成功したが、まともに衝撃を受けたナイは吹き飛び、それに巻き込まれたフィルも共に地面に転がり込む。それを見ていたガオウとリンは表情を青ざめた。



『ナイ!?無事か!!』

『坊主!!くそガキ、生きているか!?』

『あ、ああ……ど、どうして……』

「がはぁっ……!?」



吹き飛ばされた際にナイは仮面が何処かに吹き飛んでしまい、そんなナイの前にフィルは唖然と彼の顔を見下ろす。ナイが必死に庇ったお陰でフィルは軽傷で済んだが、その代わりに彼を庇ったナイは致命傷を負ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る