特別編第34話 《怪獣》

『な、何だこいつは!?』

『馬鹿、声を出すな!!』

『もう遅い……気づかれているぞ』

『えっ……』



魔物というよりも最早「怪獣」という表現が正しく、遂にはポイズンタートルを発見したナイ達は声を漏らしてしまう。ポイズンタートルの頭がゆっくりとナイ達の方へ振り返り、遂に敵もナイ達の存在を視認する。


ポイズンタートルの全長は10メートルは軽く超えており、その大きさは火竜やゴブリンキングやゴーレムキングに次ぐ。しかもポイズンタートルの口元は血に染まり、歯の隙間にはオークの腕らしき物が挟まっていた。




――フゴォオオオオッ!!




ナイ達を視界に捉えた途端にポイズンタートルは鳴き声を上げ、背中の火山のような形をした甲羅の部分から白い煙を吹き出す。この煙の正体がマル湖の周辺を覆い込む「毒霧」で間違いなく、それを確認したナイ達は目の前の怪獣がポイズンタートルだと確信を抱く。



『ま、まさか本当にあの娘の話が本当だったとは……』

『これは大物だな……』

『あ、あっ……』

『フィルさん?どうしたんですか?』



ガオウとリンは冷や汗を流しながらも武器を構えるが、この時にフィルはポイズンタートルを前にして身体を震わせて武器も下ろしていた。その様子を見てナイは心配するが、彼は尻餅を着いてしまう。



『む、無理だ……こんな化物、倒せるはずが……』

『はっ!?おい、何を言ってんだ!!とっとと立ちやがれ!!』

『何をしている、殺されるぞ!?』

『フィルさん!!』



心が挫けたのか座り込んでしまったフィルを見てガオウは怒鳴り付け、リンは早く離れるように指示するが、既にポイズンタートルはフィルに目掛けて巨大な前脚で押し潰そうとしてきた。



「オオオオッ!!」

『ひいっ!?』

『馬鹿野郎、何をしてやがる!?』

『フィルさん、避けて!!』

『ちぃっ……!!』



フィルは押し潰されそうになりながらも身体が思うように動けず、それを見たリンが咄嗟に鞘から剣を抜く。リンはフィルに対して風属性の魔力で構成された斬撃を放ち、彼の背中に当てる事で吹き飛ばす。



『斬っ!!』

『ぐはぁっ!?』

『うおっ!?』

『リンさん!?』



リンの攻撃によってフィルは背中を斬りつけられるが、それを見たガオウとナイは驚いたが結果的には彼女の攻撃によってフィルは吹き飛び、ポイズンタートルが繰り出した前脚から逃れた。


もしもリンがフィルを吹き飛ばしていなければ彼は死んでいたのは間違いなく、上手く威力を調整していたのかフィルは背中を少し切られたが致命傷ではなかった。そして彼を助けた事でリンはため息を吐き出し、他の二人に注意を促す。



『大丈夫だ、今ので死にはしない。それよりも敵に集中しろ』

『お、おう……』

『また来ます!!』

「フゴォオオッ!!」



自分の攻撃を邪魔されたポイズンタートルは今度は尻尾を振り払い、周辺の木々を薙ぎ倒しながらナイ達の元へ放つ。せまりくる巨大な尻尾に対してナイ達は同時に空中に跳んで回避する。



『うひぃっ!?』

『くっ!?』

『うわぁっ!?』

「オオオオッ……!!」



ポイズンタートルは攻撃を躱されても構わずに一回転すると、ポイズンタートルの尻尾によって周辺の木々は全て破壊されてしまう。そのお陰で見通しが良くなり、余計な障害物も無くなった事で逆にナイ達は動きやすくなった。



『おいおい、なんて馬鹿力だ……こいつ、力はゴブリンキング級か?』

『だが、これで戦いやすくなった』

『フィルさんは……よかった、無事みたいです』

『ううっ……』



フィルは奇跡的にも倒れた木々に押し潰される事はなく、地面に落ちた木々の間にすっぽりと嵌まっていた。それを見たナイは安心するが、ポイズンタートルの方は自分の攻撃を躱したナイ達を見て増々に興奮する。



「フゴォッ……オォオオオオッ!!」

『はっ……あっちも完全にやる気になったみたいだな』

『これほどの巨体だったとは……倒すのに苦労しそうだ』

『でも、やるしかありません!!』



倒れたフィルは頼りにならない以上は3人だけでポイズンタートルに対処するしかなく、ナイ達はそれぞれの武器を構える。ポイズンタートルの方も木々を薙ぎ倒した事で思う存分に戦う事ができた。


先手を取られる形になったが今度はナイ達の方が動き出し、最初に仕掛けたのはガオウだった。彼はポイズンタートルの顔面に目掛けて直行すると、両手の鉤爪を振りかざして眼球を狙う。



『しゃあっ!!』

「フガァッ……!?」



ポイズンタートルの右目に目掛けてガオウは鉤爪を振り下ろすが、咄嗟にポイズンタートルは瞼を閉じてガオウの攻撃を受ける。ガオウの鉤爪は瞼に衝突した瞬間に火花が散り、驚いた彼は慌てて距離を取る。



『つうっ……なんて硬さだ!?並のゴーレムよりも硬いぞ!?』

『油断するな、次の攻撃が来るぞ!?』

『ガオウさん、避けて!!』



瞼の異常な硬さにガオウは戸惑い、攻撃を仕掛けたガオウの方が腕が痺れてしまう。ポイズンタートルの皮膚の硬さはロックゴーレムの外殻をも上回り、更にポイズンタートルは反撃を繰り出す。

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