特別編第33話 《ポイズンタートルの居場所》
(この反応……森の中にいる生き物たちの中でも一番強い)
毒霧の影響でマル湖の周辺に広がる森で暮らす生き物たちは弱っている中、ナイはたった一つだけ大きくて強い反応を感じ取る。この毒霧が蔓延する森の中で最も強い気配と魔力を放つ生物を彼は探知した。
距離はそれほど離れてはおらず、恐らくは1キロほど離れた場所に潜んでいる。この時にナイは方向を確認してマホ魔導士が事前に告げた「北側」であると確認すると、自分が探知した反応がポイズンタートルだと確信する。
『こっちです!!付いてきてください!!』
『遂に見つけたか!!』
『よし、行くぞ』
『……ふんっ』
ナイが指示を出すと他の者たちも後に続くが、フィルだけは気に入らなそうな表情を浮かべていた。しかし、仮面で顔が隠れているせいでナイ達に気付かれる事はなかった。
『こっちの方です、まだ動きはありません』
『動いていないという事は俺達に気付いていないのか?』
『この毒霧のせいで敵も私達の姿が見えないんだろう』
『なんとも間抜けな奴ですね……自分の生み出した霧で敵の姿を捉えられないなんて』
ナイが感知した反応は微動だにせず、距離を縮めても特に動きはない。リンの予想ではポイズンタートルも霧のせいで自分達の姿を捉えられず、警戒心が薄れている可能性が高い。
ポイズンタートルからすれば毒霧を生み出した時点で地上の生物が毒で動けないと思っていても不思議ではなく、まさか自分の毒霧を無効化する道具を偶々持っていた人間が現れるなど想像もつかないだろう。だが、ナイ達の方も距離が縮まるにつれて緊張感が増していく。
『待て……おい、何か聞こえないか?』
『聞こえる?』
『何か音が聞こえたのか?』
移動の途中で人間よりも聴覚が優れている獣人族(犬型)であるガオウだけは何か音を聞き取り、彼は全員に静かにするように促す。ガオウの行動に3人は従うと、彼は頭に生えている獣耳に手を添えて音を聞き分ける。
『こいつは……悲鳴だな』
『ひ、悲鳴?』
『何の悲鳴だ?』
『おいおい……マジかよ、こいつはオークの鳴き声だ。多分、オークの奴が喰われてるぜ』
『オークが喰われているだと?はっ、相手も食事中という事か……』
オークの悲鳴を耳にしたというガオウの言葉にフィルは既にポイズンタートルが獲物を捕食していると判断する。確かに彼の予想は間違ってはいないだろうが、ガオウは聞こえてきたオークの悲鳴の数に顔色を青くする。
『おいおい、マジかよ……1匹や2匹じゃないぞ、こいつはオークの群れを捕食してやがる』
『群れを……捕食?』
『どうでもいい!!音のした方向はどっちだ!?』
『たくっ、うるせえガキだな……こっちの方からだ』
ガオウは音のした方向を指差すと、その方向はナイが感じ取った気配が存在した。どうやらガオウが聞き取ったオークの群れの悲鳴は、ポイズンタートルと思われる生物の気配を感じ取った場所だった。
(オークの群れをポイズンタートルが捕食しているのか……)
状況的に考えてポイズンタートルは既に毒霧に侵されて身体が動けないオークの群れを捕食している事は確定した。遂に正確な敵の位置を把握した途端、フィルは鎖の魔剣を握りしめて先走る。
『やっと見つけたか……先に行きます!!』
『なっ!?待て、勝手な行動は……』
『馬鹿野郎!!先走るんじゃねえっ!!』
『フィルさん!?』
フィルは鎖の魔剣を手にした状態で先に移動すると、他の3人は慌てて後を追いかける。フィルは他の誰よりも早くにポイズンタートルの元に辿り着き、始末する事で自分の手柄にしようと考えていた。
出発前にフィルはナイとの模擬戦で敗れて大勢の人間に無様な姿を晒してしまい、その事を彼は恥に思っていた。しかし、ここでポイズンタートルを仕留めれば自分の功績は認められ、他の者を見返す事ができる。そう考えたフィルは一足先にポイズンタートルの元へ向かう。
(ふん、何がポイズンタートルだ。厄介な能力は持っているようだが、この仮面があれば問題なんて……!?)
他の者に追いつかれる前にフィルはポイズンタートルを見つけ出して探し出そうとした時、唐突に霧の中から巨大な影が出現した。最初にその影を見た時はフィルは自分が大きな崖にでも突き当たったのかと思ったが、彼が見た影の正体は全身が緑色の苔のような物で覆われた巨大生物だった。
――フゴォオオオオッ!!
その生物は外見は亀と非常に似ているが、大きな違いがあるとすれば顔の部分は亀というよりも蜥蜴のような形をしており、更には背中の甲羅の部分はまるで火山を想像させる形をしていた。身体中の至る所に緑色の苔が生えており、尻尾も異様なまでに長い。
今までに見た事がない異形な形をした生物の登場にフィルは戸惑い、その一方で彼に追いついたナイ達も唖然とした。
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