特別編第32話 《ポイズンタートル討伐隊》

「言っておきますけど私は参加しませんよ。毒に侵された人たちの治療もしないといけませんし、そもそも一緒に付いて行ったところで何の役にも立ちませんからね」

「僕も力になれる自信はないな……」

「となると、俺の出番だな」

「いいえ、ここは僕が!!」



薬師(医者)であるイリアは当然ながらに参加はできず、アルトも戦闘には役立つ自信はないために同行は断念する。黄金級冒険者のガオウとフィルは乗り気であり、討伐部隊の指揮を任されているバッシュは離れる事はできない。



「よし……ではナイ、フィル、ガオウ、リン、この4名にポイズンタートルとやらの魔物の討伐を命じる。各自、準備が整い次第に出発してくれ」

「はい!!」

「はっ!!」

「はっ……足を引っ張るなよ、?」

「ぐっ……余計なお世話だ!!」



討伐隊の面子が決定すると、イリアはそれぞれに仮面を渡す。この時に彼女はナイにだけ緑色に光り輝く液体が入った小瓶を渡す。



「あ、そうだった。ナイさん、これを持って行ってください」

「えっ……これは?」

「私の新しい薬の試作品です。回復薬と聖水の効果を併せ持つ「緑聖水」です」

「りょくせいすい……?」

「おいおい、イリア……その薬は確か試作段階と言ってなかったかい?」



イリアの渡した薬を見てアルトは心配そうな表情を浮かべ、まだ試作段階の薬をナイに託すのはどうかと思うがイリアが訂正する。



「この薬の効果は既に実証されています。私自身が試していますからね、それに試作段階というのは新しい薬の方です。この緑聖水を更に改造を加えた薬はまだ未完成なだけであって、この緑聖水自体はもう完璧に完成しています」

「何だかよく分からないけど……これを飲めばどうなるんですか?」

「効果自体は普通の回復薬のように怪我を治します。但し、普通の回復薬と違う点はこれを飲めば聖属性の魔力も回復します。聖水も含まれてますからね、聖属性の魔力が消費したら飲んでください」

「へえ、そいつは便利そうだな」



緑聖水は身体の怪我を治すだけではなく、聖属性の魔力を回復させる効果も含まれており、これを利用すれば例えばナイが扱う「強化術」などで聖属性の魔力を消耗しても回復する事ができる。


但し、今回のイリアが用意できた緑聖水は1本だけであり、ナイの分だけしか用意していない。ナイは有難くイリアから受け取った小瓶を懐にしまい込むと、改めて準備を整えてから甲板へと向かう――






――討伐隊が甲板に移動すると、最初の頃よりも霧が濃くなっていた。これでは周囲を見渡す事も困難であるため、ここから先はリンが風属性の魔法剣で対処を行う。



『ふっ!!』

『おおっ……凄い、霧が一気に晴れた』

『流石だな、銀狼騎士団の副団長さん』

『す、凄い……』



リンが魔剣を振り払うだけで甲板に立ち込めていた霧が吹き飛ばされ、周囲の状況を把握できるようになった。しかし、いくら風の力で霧を吹き飛ばそうとすぐにまた霧が押し寄せて視界が封じられてしまう。


風圧で霧を一時的に掻き消しながらナイ達は行動を開始し、まずは対岸に移動するために小舟を下ろす。小船に全員が乗り込むとここから先はマホが示した方向を頼りに移動を行う。



『どうだ、坊主?何か感じたか?』

『今の所は特に……怪しい気配はありません』

『気配を感じないだと?マホ魔導士は船からでもはっきりとポイズンタートルの魔力を感知したのに?』

『よせ、マホ魔導士の感知能力と比べるな』



船を降りてもナイはマホのようにポイズンタートルの位置までは分からず、純粋な魔術師であるマホと比べるとナイの魔力感知の能力は劣っていた。その事にフィルは小馬鹿にしたような態度を取るがすぐにリンが注意する。


討伐隊はマホが示した方向を頼りに対岸に移動し、遂には陸地に到着する。この時にナイ達は陸の上に倒れている動物や魔物の姿を確認した。



「フガァッ……!?」

「フゴッ……フゴッ……」

『こいつらは……ボアか?』

『どうやら陸地の生き物も毒霧にやられているようだな……』

『何てことだ……』

『…………』



陸地に訪れて早々にナイ達はボアを発見し、魔物の中でも身体が大きい部類のボアでさえも毒霧の影響でまともに動けない様子だった。人間よりもずっと大きな生き物でも毒霧を吸い込めば無事では済まず、今の所は身体が痺れて動けない様子だった。


ナイ達はボアを素通りすると今度は倒れている小動物の姿を発見し、その中には一角兎などの魔物も含まれていた。この様子だとマル湖の周辺の良き者達は毒にやられていると考えられ、心なしか木々の方も萎れていた。



『これは……想像以上に酷い状況だな』

『おい、この樹を見ろよ……葉が全部落ちて枯れ木みたいになってやがる』

『何て事だ……おい、まだ魔力を感じないのか!?』

『ちょっと待って……集中しているから』



陸地の現状を確認して全員が焦燥感を抱き、このまま毒煙が蔓延すればマル湖の周辺の木々が枯れ果ててしまう。ナイはフィルに急かされながらも気配感知と魔力感知を発動させると、強い反応を感じ取った。

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