特別編第31話 《厳選》

――マル湖の何処かにポイズンタートルが潜んでいる可能性があり、この毒霧を打ち消すにはポイズンタートルを討伐するしかない。そしてポイズンタートルを倒すためにはアイラの持ち込んだ仮面を利用するしなく、まだ毒に侵されていない人間が船長室に集められる。



「人数はこれだけか……」

「思っていた以上に少ないですね」

「仕方ないさ、むしろよくこれだけ残っていたと考えるべきだろう」



船長室に集まった人間の数は10人しかおらず、他の者は既に毒霧に侵されて身体が動けない状態だった。集まった人間の中にも毒霧を吸い込んで体調不調を引き起こしている人間もいるが、それでも身体が動かせるぐらいの軽い症状だった。



「ハマーン技師、具合はどうだ?」

「ちょいと身体が痺れるが……まあ、動けんほどではないな」

「師匠、無理はしないでください」

「馬鹿を言え、動けるのはもう儂等だけじゃぞ……とはいっても、こんな状態では儂では対して役に立てんだろうがな」



飛行船の船長であるハマーンさえも毒霧の影響で身体が思うように動かず、椅子に座り込んだ状態で顔色が悪かった。毒霧を吸い込んだ人間の殆どは意識不明か全身がまともに動けない状態だが、比較的にハマーンは他の者と比べても症状が軽く、意識もはっきりとしていた。


集まった人間はナイ、アルト、イリア、リン、バッシュ、ガオウ、フィル、そして魔導士のマホと彼女の弟子のエルマだった。二人も今回の遠征には参加しており、どちらも部屋で休んでいたので毒霧の被害は受けなかったという。



「まさか、儂等が船酔いして休んでいる間にそんな事が起きていたとはな……」

「ふ、船酔いしてたんですか?」

「うむ、まあ儂は平気だったがエルマの奴が酷くてな。介抱している間にまさかこんな事が起きておったとは……」

「も、申し訳ございません……師匠にご迷惑をおかけしました」



エルマの顔色は大分悪く、彼女は以前に旧式の飛行船に乗った時は船酔いは起こさなかったのだが、新しい飛行船は速度が速過ぎる影響で船の揺れも激しくて船酔いを引き起こしたらしい。


今現在は湖に浮かんでいるだけの状態なのでエルマも船酔いから回復したらしいが、それでも本調子とは程遠い。ハマーンも完全に体調を取り戻していないため、この二人は戦力としてはあまり期待はできない。



「エルマ、無理をするな。他の者と一緒に休んでいろ」

「い、いえ……確かに本調子ではありませんが、私は戦えます!!」

「すまんが儂の方は無理そうじゃな……だが、船の操縦ぐらいはできるぞ」



バッシュの言葉にエルマは自分は戦える事を告げ、ハマーンの方は戦うのは無理だが船を動かす体力は残っている事を告げる。そんな二人の言葉にバッシュは肩をすくめ、アルトの方は残された面子を確認してマホに振り返る。



「マホ魔導士、仮面の数は4つ……つまり、この中から4人選んで外にいるはずのポイズンタートルを倒す事になります」

「うむ、もう一人目は決まっておるな」

「はい、感知系の技能を持つナイ君は確定しています」

「ふんっ……」



アルトの言葉にフィルだけは鼻を鳴らし、既にポイズンタートルの討伐隊の中にナイが含まれている事に気に入らない様子だった。しかし、この場に存在する人間の中では「気配感知」と「魔力感知」を二つとも身に付けているのはナイしかいない。



「マホ魔導士も魔力感知でポイズンタートルを探し出せませんか?」

「うむ、実はもうだいたいの位置は見当がついておる」

「え、本当ですか!?」

「ここからでもよく分かるぐらいに強い魔力を感じる……だが、あくまでもだいたいの位置しか掴めん」



魔導士であるマホは優れた魔力感知の技能を持ち合わせており、船の中でもポイズンタートルと思われる魔力を感知してだいたいの位置は把握していた。しかし、流石に距離が離れているせいで正確な位置は分からず、それでもポイズンタートルの居場所を方向で示す事はできた。



「儂が感じる魔力は北側の方から感じられる。距離はそれほど離れてはいないと思うが……正確に感知するには儂が出向く必要があるな」

「待て……この状況で魔導士殿に動かれるのは困る。もしも敵が現れた場合、この船を守り通す事ができるのは貴方しかいない」

「それならば私に任せて下さい。マホ魔導士ほどではありませんが、私も風を操る事ができます。邪魔な毒霧など吹き飛ばして敵を見つけ出して始末して決ます」

「リン副団長か……確かに適任だな」



マホは船の守護のために離れる事はできず、その代わりに彼女と同じように風属性の魔法(正確に言えば魔法剣)が得意なリンがナイに同行する事を進言する。バッシュも彼女ならば適任と判断すると、残りの2人を誰にするべきか考える。

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