特別編第30話 《ポイズンタートル》
「この魔物の名前は……ポイズンタートルか、いかにもな名前だな」
「記録によればポイズンタートルは餌を捕食するまでは煙を吐き出し続けるようです。ちなみに一説によればこの煙はポイズンタートルのはい……」
「いや、それ以上は聞きたくない!!」
話が長くなりそうなのでイリアの説明をアルトは遮ると、彼は図鑑を確認してポイズンタートルを見つけ出すための手掛かりを探し出す。
「ポイズンタートルを見つけ出す方法は……感知系の技能を持つ人間なら探し出せるのか」
「ポイズンタートルは普通の魔物と比べても大型で生命力に溢れる存在らしいですからね。気配感知や魔力感知の技能を持つ人間が探すのが得策でしょう」
「となると……頼れるのはやはり彼か」
感知系の技能を持つ人間ならばポイズンタートルを見つけ出す可能性が一番高く、すぐにアルトは二つの感知系の技能を持つ人間の心当たりを思いつく。
「という事で話は聞いていたね、ナイ君。君の力が必要だ、どうか頼むよ」
「あ、うん……分かったよ」
「ううっ……気持ち悪いよう」
医療室の中にはリーナに膝枕を行うナイの姿があり、実はリーナも毒煙を吸い込んで体調不良を引き起こしていた。但し、彼女の場合は甲板に倒れているに人間を運び出す際に毒を吸い込んでしまい、現在はナイに介抱してもらっていた。
今の段階で動ける人間は実はかなり限られており、リーナ以外にもドリスやガオウも気分を害して横たわっていた。この二人もリーナと同様に甲板に倒れていた人間を救い出すために無茶をしてしまい、とても戦える状況ではない。
「ううっ……ふがいないですわ」
「ちくしょう……」
「ふむ……この二人は駄目ですね、とても動けそうにありません」
「イリア、君の薬で彼等を治せないのかい?」
弱り切っているドリスとガオウを見てイリアは二人が戦える状態ではない事を確認すると、ここでアルトがイリアならば毒を無効化する解毒薬を作れるのではないかと問う。他の者もイリアならば解毒薬を作れるのではないかと期待するが、イリアは黙って首を振った。
「毒の成分を詳しく調べないと解毒薬は作り出せません。一応は毒を調べる器材はありますけど、図鑑によればこの毒は自然と消えるらしいです」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、この毒は身体の自由は奪いますが命を奪う程の効力はありません。毒煙が立ち込めていない場所に1時間も身体を休めれば感覚は取り戻せるはずです」
「1時間か……」
「といっても1時間もこの船が安全とは言い切れませんけどね。こうしている間にも船に毒煙が迫っていますから」
現在の飛行船は周囲が「毒霧」に覆われ、船内にも毒霧が流れ込んできていた。一応は全ての窓を塞ぎ、更には通路の方には本来ならば飛行船を浮上させるために用意した風属性の魔石を利用して毒煙が入り込めないように風圧の力で毒煙を遮断している。
風属性の魔石があれば新鮮な空気も作り出せるので今の所は医療室は安全だが、逆に言えば風属性の魔石が切れれば船内に毒霧が蔓延して全員の命が危うい。一応はまだ魔石には余裕があるが、早々にポイズンタートルを始末しなければ飛行船に搭乗している全員の命が危ない。
「ポイズンタートルを始末するしかないという事か。だが、こんな毒霧が蔓延している外でどうやって探し出せばいいんだ?」
「安心して下さい、様々な状況を想定して私は普段から色々と道具を持ち込んでいます。今回はこれを使って下さい」
「え、これって……白面の仮面!?」
イリアは自分が所持している
「この仮面の効果は皆さんもよく知っているでしょう?白面の暗殺者は身体に毒が侵されても、この仮面を身に付けている間は毒が抑えられます。この仮面を身に付けるだけで身体の中で抗毒作用が反応してあらゆる毒の進行を限りなく抑える事ができます」
「な、なるほど……つまり、この仮面を身に付ければ毒霧の中でも自由に動く事ができるのか」
「そういう事になりますね。それに私の改造も加えてますので簡単に外れる事はありませんよ。ですけど、仮面の数は4つしかありませんので外に出れる人数は4人という事になります」
「たったの4人、か……」
イリアの話を聞いたアルトは難しい表情を浮かべ、この毒霧を生み出すポイズンタートルがどの程度の力を持っているのかは不明な事もあって余計に不安を抱く。
仮面の数は4つ、即ち外に出向く事ができる人間は4人だけとなる。そして感知系の技能を持ち合わせるナイは調査に出向く事は確定しており、残りの3人はまだ毒霧にやられていない面子から決める必要があった。
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