特別編第28話 《グツグ火山》
飛行船スカイシャーク号の移動速度は旧式のフライングシャーク号の2倍は誇り、最初の目的地に定めた「マル湖」という湖まで瞬く間に辿り着く。
このマル湖はかつてイチノに向かう際にフライングシャーク号を着水させた場所でもあり、円形上の巨大な湖だった。スカイシャーク号は到着すると早々に船を下ろし、燃料の補給と飛行船に取り付けている風属性の魔石の入れ替えを行う。
「船長!!思っていたよりも噴射機の燃料の消費が激しいです!!やっぱり、移動速度に重点を置いたせいで燃料の方は前の飛行船よりも消費が早いようですぜ!!」
「ふむ、それは仕方あるまいな。こんな事を想定して燃料は余分に積んでおるが……」
噴射機の動力である火竜の経験石は2年前に討伐されたばかりの火竜の経験石を利用している影響なのか、旧式の飛行船と比べると火属性の魔力を吸い上げが激しい。その分に移動速度も上がるが想定以上に火属性の魔石の消費が激しかった。
一応は出発前にナイ達がグマグ火山にて良質な火属性の魔石を大量に集めてくれたが、この調子で消費すると燃料は一週間ほどで無くなってしまう。王都からアチイ砂漠に到着するまでは三日は掛かる事を想定すると、アチイ砂漠にて飛行船が活動できる時間は一日しかない。
「バッシュ王子、何処かで魔石を補給する事態に陥るかもしれませんがよろしいですかな?」
「アチイ砂漠では火属性の魔石は回収できないのか?」
「この飛行船を動かすには火山のような場所で発見される高純度の魔力を蓄えた魔石しか利用できないんじゃ」
「なるほど……だが、補給と言っても当てはあるのか?」
飛行船を動かすにはただの火属性の魔石では駄目らしく、火山のような熱帯の場所で採取できる魔石しか燃料として利用できない。しかし、アチイ砂漠に向かう途中で何処か火山のような場所があるのかをバッシュは問う。
ハマーンはすぐに航海士に地図を用意させて現在の自分達の位置を確認し、ここから一番近い火山は結局は「グマグ火山」だと判明する。だが、先日にマグマゴーレムの大群にナイ達が襲われたという話を聞いた時から今現在のグマグ火山に近付くのは危険過ぎた。
「グマグ火山に立ち寄れれば問題は解決するかもしれませんが、あの火山は現在はマグマゴーレムの大群が潜んでいる可能性が高い……となると、別の場所で魔石を確保する必要がありますな」
「ならば……この火山はどうだ?丁度、進行方向の途中にあるだろう?」
「ふむ……グツグ火山か」
バッシュは次の目的地の途中にある火山を発見し、この場所ならば魔石の補給場所として丁度いいのではないのかと思った。しかし、地図上に記されたグツグ火山を見てハマーンは眉をしかめる。
「どうした?顔色が優れないようだが……この火山はまずいのか?」
「いや、確かにこの火山なら飛行船の燃料になる魔石は手に入るでしょうな。しかし、この火山にはちと厄介な奴が住み着いておりましてな……」
「厄介だと?まさか、魔物が住み着いているのか?」
「ただの魔物なら良かったんですが……」
地図上に記されたグツグ火山を見てハマーンは頭を掻き、彼が何を気にしているのかとバッシュは疑問を抱くと、ハマーンの代わりに航海士が答える。
「実はこの火山には人が暮らしているんです。正確に言えばドワーフの集落があります」
「何だと?ドワーフが住み着いているのか?」
「はい、この火山はドワーフの集団が管理しています。だから火属性の魔石を補給する場合、彼等の協力が必要になるのですが……その、どうも普通のドワーフと違ってかなり金にがめつい奴等なんです」
「ほう……という事は魔石を買い取る場合は相当な金額を要求されるという事か」
「まあ、そうなりますな」
ハマーンはグツグ火山を見てため息を吐き出し、その様子を見てバッシュは彼とグツグ火山に暮らすというドワーフの集団と何か関係があるのかと思う。
今後の事を考えればグツグ火山に立ち寄ってドワーフの集落に赴き、彼等から火属性の魔石を購入するのが妥当だろう。しかし、グツグ火山に暮らすドワーフ達は王都に暮らすドワーフよりもがめつい性格らしく、相当な金銭を要求される可能性があった。
「王子様、交渉は儂がやります。しかし、もしも奴等が法外な値段を吹っ掛けてきたら……」
「構わん、国家の一大事だ。金の事は気にするな」
「そう言ってくれるとありがたいんですが……奴等、本当に遠慮しませんよ?相手がこの国を治める者だとしてもあいつらは気を遣いはしません」
「ほう……そこまで言われると逆に興味が湧いて来たな」
ハマーンの言葉を聞いて王国の領地に暮らしながらも王族の人間であろうと敬わないのは不敬だが、グツグ火山に暮らすドワーフにはそのような常識は通じないとハマーンは事前に注意する。
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