特別編第26話 《本気にさせたな?》
「回転鋏!!」
「くっ!?」
空中に浮かんだナイに向けて折り重なった鎖の魔剣が迫り、手にしていた旋斧でナイは攻撃を受ける。しかし、足場がない空中では攻撃を受けても踏ん張る事ができず、衝撃を受けたナイは地面に叩き付けられそうになった。
しかし、地面へ墜落する寸前にナイは受身を取って衝撃を和らげる。それを見たフィルは余裕の笑みを浮かべ、追撃の好機を逃さずに続けて攻撃を繰り出す。
「投擲鋏!!」
「うわっ!?」
倒れたナイに目掛けてフィルは双剣を投げ放つと、迫りくる二つの刃を見てナイは咄嗟に旋斧だけではなく、岩砕剣を抜いて両手で弾き返す。
「このっ!!」
「ちっ……流石にこの程度ではやられませんか」
二つの大剣を手にしたナイを見てフィルは舌打ちしながらも鎖を引き寄せて双剣を回収すると、ここまでの攻防を見ていた他の人間達は驚嘆の声を上げる。
「やるじゃないかい、あの坊や……ナイを相手によく戦っているよ」
「ううっ……ナ、ナイ君は大丈夫かな?」
「見た所、一方的にあの男の人が押しているわね……でも」
観戦していたテンは素直にフィルの実力に感心する一方、モモは心配そうな表情を浮かべてナイを見守る。ヒナもフィルが優位に立っているように見えるが、何故か彼女はナイがフィルに敗れる姿が想像つかない。
他の者たちも一見はフィルが押しているように見えるにも関わらず、ナイの真の実力を知る者はここまでの攻防を見ても彼が負けるとは思えない。むしろ、ここからが本番だと思っていた。
「中々やりますわね、彼……ですけど」
「ああ、そろそろナイも動くだろう」
「……ここからが見ものだな」
ドリスもリンもバッシュでさえもフィルの実力は認めるが、それでも彼がナイに勝てるとは思っていなかった。確かにフィルは黄金級冒険者に恥じぬ強さを見せつけた。だが、彼を相手にしているのは間違いなく国内でも「最強」の座に近い剣士だという事を忘れてはならない。
「……爺さん、俺は寝るわ。終わったら起してくれ」
「ん?お主、試合を見ないのか?」
「これ以上は見る必要ねぇよ……どうせすぐに終わる」
「えっ……?」
フィルと因縁があるガオウでさえもこれ以上に勝負は長続きしないと判断し、これ以上は見る必要はないと判断して彼は先に船に乗り込む。そんなガオウの態度にハマーンとリーナは呆気に取られるが、すぐに二人は視線をナイ達へ戻す。
両手に旋斧と岩砕剣を手にしたナイはフィルと向き合い、彼が手にしている「鎖の魔剣」を観察する。予想以上にあの鎖が厄介でナイの間合いが届かない場所からフィルは攻撃を仕掛けてくる事から苦戦してしまった。
「どうしましたか?降参するなら今の内ですよ。所詮、英雄といってもこの程度の……」
「降参はしないよ……そろそろ終わらせるよ」
「何っ……!?」
ここまで優勢に戦っていたフィルは余裕の態度を取るが、そんな彼に対してナイは覚悟を決めた表情を浮かべてゆっくりと歩む。自分に近付いてくるナイを見てフィルは何故か悪寒を覚え、急に彼の身体が何倍にも大きくなったように感じられた。
(な、何だこいつの迫力は!?馬鹿なっ……この僕が圧倒されているだと!?)
自分よりも小柄なはずのナイが唐突に大きくなったように錯覚したフィルは冷や汗を流し、彼は反射的に鎖の魔剣を手放して自分が最も得意とする技を繰り出す。
「はああああっ!!」
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
「か、風が!?」
両手で鎖を握りしめたフィルは本物の鎖鎌の如く、左右で剣を高速回転させる。しかも回転する事に刃は加速していき、扇風機のように風圧を発生させて観戦していた人間達も慌てて距離を取る。
あまりの回転速度に刃は目では捉えきれず、この状態で攻撃を繰り出されれば凄まじい加速が加わる。この技でフィルはかつて赤毛熊を一撃で殺した事があり、彼が繰り出せる最高の技だった。
「喰らえっ……撃鋏!!」
「っ……!!」
フィルは右手で高速回転させていた剣を繰り出すと、ナイの元に目掛けて凄まじい速度で刃が向かう。それでも人並外れた反射神経でナイはフィルが攻撃を繰り出す動作を見切って彼が剣を投げる前に回避行動に移っていた。
「くっ!!」
「避けても無駄だ!!」
初撃はどうにか躱したナイだったが、それを予想していたフィルは今度は反対の左手で回転させていた剣を放つ。回避した直後に次の攻撃が繰り出され、造船所に金属音が鳴り響く。
「ふんっ!!」
「なぁっ!?」
二回目の攻撃に対してナイは旋斧を構えると、正面から刃を受け止めるのではなく、旋斧の刃を利用して上手く攻撃の軌道を受け流す。その結果、鎖の魔剣は勢い余ってあらぬ方向に跳んでしまい、フィルの手元から離れてしまう。
自ら武器を手放した形になったフィルは唖然とした表情を浮かべるが、ナイは空中に弾かれた鎖の魔剣を見て両手の大剣を手放して手を伸ばす。すると空中から落下してきた鎖の魔剣を彼は見事に掴み取り、それを見たフィルは顔色を青ざめた。
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