特別編第25話 《鎖の魔剣》

「始めっ!!」

「うおおおおっ!!」

「っ……!?」



模擬戦が開始した瞬間にフィルは咆哮をあげると、彼は両手に持っていた双剣を掲げる。その行為にナイは戸惑うが、ただの気合を入れるための動作だったのか特に何も仕掛けては来ない。


距離を取った状態で動かないナイを見てフィルは笑みを浮かべ、彼は右手に持っていた剣の柄を手放すと、柄に伸びている鎖の部分を掴んで振り回す。まるで鎖鎌の如くフィルは片側の水晶の剣を振り回すと、勢いよくナイに目掛けて放つ。



「はああっ!!」

「なっ!?」



剣を投げ飛ばしてきたフィルにナイは驚くが、すぐに双剣同士を繋ぐ鎖の長さを把握して攻撃が届かない位置まで移動しようとした。だが、ここでナイの脳裏にミイナが愛用する「如意斧」が思い浮かぶ。



(まずいっ!!)



ミイナが扱う如意斧は彼女の意思に従って柄の部分を自由自在に伸ばす事ができる。直感でナイはフィルの双剣の柄に繋がれた鎖も如意斧のように長さを調整できるのではないかと考え、咄嗟に旋斧で投げつけられた剣を弾き返す。



「このっ!!」

「ちっ……まだまだ!!」



剣を弾かれたフィルは舌打ちするが、弾き飛ばされても彼が鎖を引き寄せると瞬く間に手元に戻る。この時にナイはしっかりと鎖の長さを把握し、間違いなく鎖の射程範囲が伸びていた。



(危なかった……もしも下がっただけだったら攻撃が届いていたかもしれない)



どうやらフィルの扱う双剣を繋ぐ鎖は長さを調整できるらしく、恐らくはミイナの如意斧と同じような能力を持つと思われた。しかし、フィルの「双剣の魔剣」は鎖をただ伸ばすだけではなく、他にも能力を隠し持っていた。


基本的に魔剣は一つの能力しか持ち合わせておらず、例えばヒイロやドリスの魔剣や魔槍は炎の力を宿し、テンの退魔刀は魔力を絶つ力を持つ。ナイの旋斧は各属性の魔法剣を扱えるが、それは旋斧が外部から魔力を吸収してその力を使いこなす能力を持っているだけに過ぎない(聖属性の魔力を与える事で自己修復も可能だが)。


しかし、フィルが所有する魔剣は元々は全く同じ能力を持つ魔剣が二つと、それを繋ぎ合わせる特別製の鎖型の魔道具を利用している。この魔道具はフィルの意思である程度の長さまで鎖を伸ばし、自由に操作する事ができる。そして鎖を双剣に繋げる事で彼の意思で自由自在に動かす事ができた。




――だが、それはあくまでも鎖型の魔道具の能力であって魔剣の真の能力ではない。フィルが手にした二つの魔剣の真の能力は相手が魔法や魔法剣を発動させた時に効果を発揮する。




フィルは鎖を利用して再び片方の剣を振り回し、距離を保った状態のまま動かない。ナイはフィルの様子を見て近付かなければどうしようもないと悟る。



(ここからだとこっちの攻撃が届かない……近付くしかないか)



生憎とナイには遠距離からの攻撃手段は持ち合わせておらず、一応は刺剣を投げつけるという方法もあるが、フィルが鎖で剣を回転させる姿を見て下手な飛び道具は通じないと判断した。


刺剣などの武器を投げつけてもフィルが回転させた剣で弾かれるのは目に見えており、それならば接近して直接斬りかかる方がいい。しかし、今回はあくまでも模擬戦であって決闘ではない。まさか本気でナイもフィルに斬りかかるわけにはいかず、思うように戦えない。



(近づかないといけないのは分かってるけど……上手く手加減できるかな)



仮にナイが全力の一撃を繰り出せばフィルの命が危うく、先ほど腕を掴んだ時にナイはフィルの腕力を把握していた。もしもナイが全力で攻撃を繰り出せばフィルが全力で防御しても彼の腕力ではナイの圧倒的な力には耐え切れずに攻撃を受けてしまう。



(とりあえず、気絶させるぐらいの力でいいかな)



剛力などの筋力を強化する技能は扱えず、当然だが強化術の類も使用するわけにはいかない。技能や魔法の力を頼らずにナイはフィルを倒すために近付こうとした。しかし、そんな彼に対してフィルは逆に動く。



「うおおおっ!!」

「えっ?」



まさかフィルの方が自分に近付いてくるとは思わず、ナイは一瞬だけ驚いたがすぐに武器を構える。この時にフィルは両手の双剣の柄を離すと、鎖を握りしめて同時に双剣をナイに向けて放つ。



「鋏断ち!!」

「うわっ!?」



まるで鋏の如く双剣がナイの左右から迫り、その攻撃に対してナイは反射的に跳躍して攻撃を躱す。ナイが跳んだ直後に二つの双剣の刃が衝突して火花を散らす。


空中に回避したナイを見てフィルは笑みを浮かべ、逃げ場のない空中ではナイは次の攻撃は避けきれない。フィルはナイが地面に降り立つ前に鎖を引き寄せると、今度は身体を回転させて双剣を重ね合わせた状態で振り回す。

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