特別編第24話 《決闘》

「娘を見送ろうと立ち寄ったが、何やら面白そうな事が起きているようだな。それでお前はフィルと言ったか?」

「は、はい!!」

「なるほど、君が最近に黄金級冒険者に昇格したという少年か……噂はよく耳にしているぞ」

「本当ですか!?」



アッシュ公爵は王国内でも武闘派として名前が知られ、この国の大将軍であるロランにも匹敵する知名度を誇る。獣人国でもアッシュの名前は知れ渡っており、フィルも密かに彼の事を尊敬していた。


フィルを観察するようにアッシュはじっくりと彼の身体を見ると、今度はナイの方に振り返る。アッシュが自分を見つめてきた事にナイは戸惑うが、彼は面白そうな表情を浮かべてフィルとナイの肩を掴む。



「ふむ、大切な任務の前に決闘などというのは穏やかではないな。だが、お互いの実力を把握するために模擬戦を行う事は悪くはない」

「えっ……」

「模擬戦、ですか?」

「アッシュよ、何を言い出すんじゃ!?」

「お父さん、止めてよ!!出発前に喧嘩なんて……」

「いや、やらせてやったらどうだ?坊主もくそガキもお互いの実力を把握するのは悪くないだろ」



模擬戦という言葉が出た事でアッシュが二人を戦わせようとしている事は明白であり、ハマーンとリーナは止めようとしたがガオウは意外な事に賛成する。



「ガオウ!!お主もいったい何を言っておる!?」

「いや、これは重要な事だぞ爺さん。これから一緒に戦う仲間としてやっていく以上、お互いの実力は知っておいて悪くはないはずだ。そういいたいんでしょう、アッシュ公爵?」

「おお、君は話が分かるな。リーナ、これは必要な事なんだ。この二人をここで今戦わせて互いの実力を把握させる、文句はないな」

「そ、そんな……」

「……僕は構いませんよ」

「はあっ……」



話の流れを察してナイはアッシュがどうしてもフィルと自分を戦わせようとしている事を察し、ここまでくると断れそうな雰囲気ではない。仮に無理に断ればナイはフィルから臆病者扱いされるため、それはナイとしても気に入らない。



「よし、この船の上で戦うとなると色々と問題があるな……下に降りてから戦ってもらうぞ」

「お主、本当に戦わせるつもりか?出発前に二人が怪我をしたらどうする!!」

「大丈夫だ。万が一の場合は俺が止める。それにこれは決闘ではない、ただの模擬戦だ」

「はははっ……言葉は良いようだな」

「ナイ君……」



アッシュはナイとフィルを船の下に移動させると、二人の模擬戦を行う事が決定した。騒ぎを聞きつけた他の王国騎士達も集まり、見送りに来ていた人間も集まってきた。



「たくっ、いったい何の騒ぎだい?」

「何だか知らないけど、ナイと変な奴が戦うみたいだぞ?」

「えっ!?ナイ君が戦うの!?」

「ど、どういう事!?」



聖女騎士団の団長のテンと彼女の付き添いで来たルナ、モモ、ヒナの3人も見送りに訪れていた。他にも銀狼騎士団の副団長のリンと、黒狼騎士団の団長と副団長のバッシュとドリスも騒ぎを聞きつけてやってくる。



「これは何の騒ぎだ?」

「さあ……話を聞く限りだと、アッシュ公爵がナイさんと例の新しく黄金級冒険者に昇格した人を戦わせるようですわ」

「ほう……これは見ものだな」



本来ならば勝手な騒動を止めるべき立場の3人ではあるが、アッシュ公爵が関わっている事を知ると誰も咎める事はせず、それに3人ともナイの今の実力と新しく加入した黄金級冒険者の実力を把握したい理由もあって止めるような真似はしない。


だんだんと人集まってきた事にナイは少し緊張するが、フィルの方は既に戦闘準備を整えていた。彼は双剣に手を伸ばすと、まるで水晶のように美しい透明な刃が露わになった。



(何だ、あの剣……水晶で出来ているのか?)



水晶を想像させる美しい刀身の双剣を見てナイは戸惑い、そんな彼の反応を見てフィルは余裕の笑みを浮かべる。アッシュもフィルの剣が気になるらしく、彼の武器を見てナイに耳元で囁く。



「ほう……面白そうな物を持っているな。気を付けろ、あの剣は恐らくは二対で意味を成す魔剣だ」

「二対で……?」

「まあ、実際の所は分からないがな……だが、油断はしない方がいいぞ」



アッシュの言葉を聞いてナイは「二対」という言葉が気にかかり、この時にナイはフィルの武器をよく観察する。彼が所有するフィルの双剣は柄の部分が鎖で繋がっており、しかもかなりの長さを誇る。


鎖で柄同士が繋がった武器など使いにくいのではないかとナイは思うが、フィルは準備を終えると両手で双剣を握りしめてナイと向き合う。それを見たアッシュはナイに視線を向けると、この時にナイも旋斧を抜いて構えた。



「よし、二人ともこれだけは注意しておくが今から行うのは模擬戦だ!!決闘ではない、だからお互いの命を奪い合うような行為は許さんぞ!!」

「ええ、分かっていますよ」

「……はい」



念押しにこれから行うのは決闘ではない事をアッシュは注意すると、二人の準備が整ったのを確認してを開始した。

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