特別編第23話 《貧弱の英雄VS黄金級冒険者》
「黄金級冒険者はそんな簡単になれる事はないのは君も分かってるでしょ?幸運だけで黄金級に昇格できる人なんていない、冒険者ギルドが黄金級に相応しい人物だと判断したからガオウさんは黄金級冒険者に昇格したんだよ」
「何を偉そうに……冒険者でもない癖に口を挟まないでくれますか?」
「確かに僕は冒険者でもなんでもない、だけどガオウさんの実力はよく知っている……君だってガオウさんの実力を知っていればガオウさんが幸運で黄金級冒険者に昇格したなんて言うはずないよね」
「ふんっ……」
「坊主、もういいよ。ありがとな」
ガオウは自分の実力を高く評価するナイの発言に少し照れくさそうな表情を浮かべ、彼の肩に手を置いてフィルと向き合う。ガオウはフィルと向き合うと、彼に対して堂々と言い放つ。
「俺の実力に疑問があるなら今ここで証明してやってもいいぞ。だけど、お前が俺に一度でも勝てたか?」
「それは昔の話だ!!今なら僕の方が強い!!」
「ほう、ならやるか?お互いに今の実力を確かめ合おうじゃないか」
「これこれ、止めんか……」
「け、喧嘩は駄目ですよ!!」
フィルはガオウの言葉を聞いて激高するが、慌ててハマーンとリーナが間に割って入る。しかし、興奮したフィルは背中に抱えている「双剣」に手を伸ばそうとした。それを見たガオウも腰に取り付けた鉤爪に手を伸ばすが、この時にナイが二人の腕を掴む。
「二人とも落ち着いて下さい」
「うおっ!?」
「邪魔をする……ぐあっ!?」
ナイに腕を掴まれたフィルとガオウは驚いたが、すぐにフィルの方は彼の腕を振り払おうとした。しかし、あまりの握力にフィルはナイの腕を引き剥がすどころか腕を動かす事もできない。
見た目は華奢な少年にしか見えないのにフィルはナイの腕がまるで自分よりも巨大な大男に掴まれた様な錯覚に陥り、彼は自分とナイの腕力の差を思い知らされる。
(そ、そんな馬鹿な……何だ、こいつの力は!?)
自分の腕を掴んで離さないナイに対してフィルは動揺を隠しきれず、その一方でガオウの方も興奮が冷めて慌ててナイを諭す。
「わ、悪かった……ちょっと熱くなっただけだ。だから腕を離してくれるか?」
「本当ですか?」
「あ、ああ……俺も頭に血が上り過ぎた」
「そうですか、ならもう喧嘩は駄目ですよ」
「ぐうっ……い、いい加減に離せっ!!」
ナイは二人の腕を離すとガオウは安堵するがフィルの方は自分の腕に残ったナイの指の痣を見て顔色を青ざめ、その様子を見守っていたハマーンとリーナもは冷や汗を流す。
「ナ、ナイ君……もしかして怒ってる?」
「え?いや、怒ってはないけど……」
「全く、火竜を倒して以来に凄味が増したな」
「くっ……!!」
「おい、フィル……これで分かったか?この坊主はこの船に乗っている誰よりも強いんだ。そこの所を弁えろよ」
自分の腕を抑えるフィルに対してガオウは暗にナイにこれ以上にちょっかいをかけないように忠告するが、フィルとしては自分の腕に痣を残したナイに対して怒りを抱く。
これまでにフィルは人間を相手に力負けした事はなく、それだけに人間でしかも自分とほぼ同年代ぐらいの相手に力負けしたという事実を認めるわけにはいかず、彼はナイに対して宣言する。
「――決闘だ!!今ここで僕と戦え!!」
そのフィルの発言は船上だけではなく、造船所に響き渡る程の大声だった。その彼の宣言を聞いてナイ達だけではなく、船に乗り込もうとしていた他の人間も驚いた表情を浮かべた。
「なっ、この馬鹿……何を考えてるんだ!!」
「だ、駄目だよ!!受けたら駄目だからね、ナイ君!!」
「こら!!お主、何を言っておるのか分かってるのか!?こんな時に争うな!!」
「…………」
「どうした、僕は決闘を申し込んだぞ!!受けるのか受けないのか答えろ!!」
決闘を申し込んできたフィルに対してナイはどのように反応すればいいのか困ったが、フィルは彼を挑発するように背中の双剣に手を伸ばす。
この世界における決闘とはお互いの誇りと命を賭けた試合を申し込む事を意味しており、決闘を申し込んだ人物と受け入れた者は勝負で命を落としたとしても相手側は罪には問われない。勿論、正式な決闘ならば立会人も用意しなければならず、その立会人は公平な立場の人間しか引き受けられない。
今から飛行船が出発するという時に決闘を申し込んできたフィルに対して他の者は止めようとするが、ここで造船所内に居た人物が間に割り込む。
「ほう、決闘か!!それならば俺が立会人になろう!!」
「えっ……お、お父さん!?どうしてここに!?」
「ア、アッシュ公爵!?」
「こらこら、話をややこしくするでない!!」
船に乗り込んできたのは今回の遠征には参加しないはずのアッシュであり、どうして彼がここに居るのかと娘であるリーナは戸惑うが、アッシュはナイとフィルを交互に見て何かを悟ったように頷く。
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