特別編第22話 《新たな黄金級冒険者》

――飛行船の試運転を無事に終え、後は討伐部隊の準備が済み次第に出発する事が決まる。しかし、冒険者ギルドの方から急遽新しい人員を加えたいという要望があった。


冒険者ギルドのギルドマスターであるギガンの推薦で新しく加わったのは最近に黄金級に昇格したばかりの冒険者だった。その名前は「フィル」と呼ばれ、彼は元々は他国の冒険者であったが半年ほど前に王都に訪れた。


フィルは他国では冒険者稼業を続けており、金級冒険者として活躍していた。そして王都に訪れてからは高難度の依頼を達成し続け、遂には黄金級冒険者に昇格を果たす。そして彼は驚くべき事にナイと同じく二つの魔剣を扱う。


そして飛行船の出発日を迎えると、飛行船には王国騎士団と冒険者が集まってナイはここで初めてフィルと顔合わせした。



「初めまして、貴方が有名な貧弱の英雄殿ですね」

「あ、どうも……えっと、フィルさん?」



飛行船に乗り込んだナイの元に金髪の青年が訪れ、エルフと見間違うほどに整った顔立ちをしていた。しかし、その体格の方は筋骨隆々で慎重も180センチはある。顔立ちは綺麗なのに大柄な体格の男性の登場にナイは驚く。


フィルと名乗る青年はナイに握手を求めると、ナイも手を差し出す。しかし、彼が手を差し出した相手はナイの後ろに続いていたリーナであった。



「これはリーナ先輩!!先輩もやはり同行されますか!!」

「え?あ、うん……よろしくね、フィル君」

「ええ、先輩が一緒だなんて心強いです!!」



リーナを相手にフィルは馴れ馴れしく握手を行い、しっかりと両手で彼女の右手を掴む。そんな彼の対応にリーナは苦笑いを浮かべ、一方でナイの方はリーナとフィルがどんな関係なのか気にかかる。



「あの二人は……」

「おっと、失礼しました。僕はリーナ先輩に憧れてこの王都に来まして……」

「あ、あはは……ちょっと照れるな」

「何を言うのですか、女性の中では最年少で黄金級冒険者に昇格を果たした先輩……そして僕も獣人国では最年少で黄金級冒険者に昇格を果たしました。これはもう運命といってもいいでしょう!!」

「運命って……」



いつまでもリーナの手を掴んで熱く話しかけるフィルの態度に流石のナイも口を挟もうとした時、ここで意外な人物が二人の間に割って入った。



「おい、くそガキ。先輩に迷惑を掛けてるんじゃねえよ」

「……おや、ガオウさん。こちらにいらっしゃったんですか?」

「何だ?その態度は……それが先輩に対する態度か?」

「ガオウさん?」



唐突に現れたガオウはフィルとリーナの手を離れさせると、ガオウの行動にフィルは忌々し気な表情を浮かべる。しかし、そんなフィルに対してガオウは鬱陶しそうに睨みつけてきた。


一触即発の雰囲気になった事にナイもリーナも戸惑い、二人がどのような関係なのか気になった時、ここで元黄金級冒険者のハマーンも訪れる。



「こりゃっ!!儂の船で喧嘩するな!!二人とも下ろすぞ!!」

「ちっ……爺さん、邪魔をするなよ」

「ハマーン技師……僕は何もしていませんよ」



ハマーンが登場した途端にガオウは面倒くさそうに顔を反らし、フィルの方も慌てて誤魔化す。どうやらリーナとハマーンにはフィルも気を遣うらしいが、何故かガオウに対してだけはフィルは他の二人と違って敬う素振りはない。



「あの二人、どういう関係なの?」

「それが僕にもよく分からなくて……でも、ガオウさんもフィル君も元々は獣人国にある冒険者ギルドで働ていたとは聞いた事があるよ」

「へえ、獣人国の……」



ガオウもフィルも元々は獣人国から訪れた冒険者であり、現在は王都に拠点を移して活動している。だが、元は同じギルドに所属していたという割にはガオウとフィルの間柄は随分と険悪だった。



「フィル、どうしてお主はガオウにそんなに突っかかる?」

「ふん……偶々王国で活動が上手くいって偶然にも黄金級冒険者に昇格できた男を先輩と敬う気はありませんよ」

「ちっ……」



どうやらフィルはガオウの事を嫌っているらしく、彼が王国で黄金級冒険者に昇格したという話を聞いても実力で勝ち取ったわけではなく、ただの幸運で黄金級冒険者に昇格したと思い込んでいるらしい。


そんなフィルの言葉にガオウは不機嫌そうに舌打ちするが、流石に今の彼の発言を聞いてナイも黙っては居られなかった。



「偶然という言い方はないんじゃないの?」

「……なに?」

「坊主?」



ナイが口を挟んだ事にガオウは意外な表情を浮かべるが、ナイとしてはガオウの実力は実際に戦った事もあるのでよく知っており、そんな彼の実力を疑う様な発言をするフィルに対してナイは黙ってはいられなかった。

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