特別編第21話 《飛行船の試運転》

――グマグ火山にてナイ達が回収した火属性の魔石の原石の火口が終了し、飛行船を動かすのに十分な量の燃料は確保できた。その後は飛行船の最後の調整を行い、遂に飛行船の試運転が行われた。


旧式の飛行船フライングシャーク号とは異なり、新型の飛行船スカイシャーク号には魔導大砲という兵器も搭載されている。謂わば戦闘を考えられて作り出された飛行船といっても過言ではない。


この飛行船を作り出すのに1年以上の時を費やし、開発の途中で何度か問題は発生したがそれらを乗り越えて遂に飛行船は始動する。飛行船スカイシャーク号は旧式のフライングシャーク号とは違い、何処でも着地できるように作り替えられていた。



「ではこれより試運転を行う!!お前達、準備はいいな!?」

『おおっ!!』



スカイシャーク号の操縦席にはハマーンが乗り込み、彼も今回の遠征に参加する事は決まっていた。彼は飛行船を動かした実績があり、それに飛行船が壊れた時に対処できるのは飛行船の開発を任せられた彼と、彼の弟子達しかいない。



「燃料準備良し!!いつでも出発できます!!」

「うむ……」



部下からの報告を受けてハマーンは頷くと、まずは造船所から飛行船を飛ばすために遂に飛行船を動かす。ハマーンは舵輪を手にした状態で緊張感のあまりに汗を流し、部下に命令する。



「発進!!」

『発進!!』



ハマーンが発進を命じると飛行船は遂に動き出し、ゆっくりと船の外側に取り付けられた風属性の魔石が作動して船体が風の力で浮き上がる。この時に造船所の天井が左右に開かれ、空へ向けて飛行船はゆっくりと浮上する。



「浮上、成功しました!!」

「続けて飛行船後部の噴射機を作動します!!」

「よし、急げ!!」



浮上に成功するとハマーンは安堵するが、ここからが一番重要な段階へと移行する。現在の飛行船は外部に取り付けた風属性の魔石が発生させた風圧で浮いているだけに過ぎず、この状態のままでは浮いているだけで移動はできない。


ここから先は飛行船の後部に取り付けられた噴射機を利用し、移動方向を定めて船を動かす必要があった。噴射機の動力は火竜の経験石であり、この経験石にナイ達が回収したグマグ火山の火属性の魔石を利用して魔力を送り込む。火竜の経験石が魔力を取り込むと、それを増幅させて噴射機から凄まじい勢いで火属性の魔力を吹き出してロケット噴射の如く飛行船は移動する仕組みだった。



「燃料の準備完了しました!!」

「よし、では……目標はグマグ火山じゃ!!」

「えっ!?し、しかし今回の実験は王都の外に着地させるだけでは……」



ハマーンの指示を受けて部下達は戸惑い、今回の試運転はあくまでも飛行船が動かせるのかを試すだけであって王都から遠く離れる予定はない。しかし、敢えてハマーンは王都から遠く離れた場所を目的地と定めて移動を試みる。



「責任は儂が取る!!目的地をグマグ火山に定めよ!!」

「は、はい!!」

「進行方向に向けて船を旋回させます!!」



船に乗っていた航海士が地図と方位磁石を確認し、現在地とグマグ火山が存在する場所を確認して船の向きを変える。船が旋回する際は船の側面に取り付けられた風属性の魔石を利用し、こちらも風圧の力を利用して船の向きを変える。



「方向転換完了しました!!」

「よし、では……加速しろ!!」

『了解!!』



グマグ火山に向けて飛行船は方向を定めると、ハマーンの号令の元で遂に噴射機を作動させる。そして遂に噴射機から凄まじい火属性の魔力が解き放たれ、飛行船は一気に加速して王都の上空から移動を行う。



『うわぁあああっ!?』

「ぐぅうっ!?」



噴射機が作動した事で飛行船は一気に加速し、この際に船の乗っていた者達は船内で悲鳴を上げる。予想以上の移動速度で船の中に人間も戸惑うが、操縦席のハマーンはしっかりと舵輪を掴んで離さない。


王都からグマグ火山へ移動する場合は足が速い馬に乗って移動しても三日は掛かる距離は存在するが、飛行船は移動を開始してから30分もかからずに目的地であるグマグ火山の上空へ辿り着いた。



「と、到着しました!!グマグ火山です!!」

「よし……速度を落とせ!!」

「は、はい!!」



目的地であるグマグ火山に辿り着くと、ハマーンはすぐに噴射機の勢いを徐々に弱めてやがて停止させる。旧式の飛行船でもグマグ火山に移動するには1時間は掛かったが、新型の飛行船はその半分の時間で到着する事に成功した。



「飛行船の様子はどうじゃ!?」

「噴射機の方が大分加熱してしまいましたが、まだ動かせそうです!!王都に帰還するまでは持つと思います!!」

「そうか……ならば王都に帰還するぞ」



新型の飛行船は旧式の飛行船の倍近くの移動速度を誇る事が判明し、グマグ火山まで移動しても特に問題が起きない事は判明した。当初の予定では王都から少し離れた場所に移動するだけだったが、グマグ火山まで移動しても大丈夫な事が判明した以上は予定を早めてアチイ砂漠へ向かえそうだった――

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