特別編第20話 《聖水×上級回復薬×仙薬》
「ふっふっふっ……もう少しで完成しますよ、最高傑作(予定)が!!」
「や、やっとかい……」
研究室にて実験を行っていたのはイリアだけではなく、彼女の手伝いとして半ば強制的にアルトも実験に付き合っていた。彼も出発前に色々と準備があるので忙しいはずなのだが、イリアはアルトの都合を無視して彼に実験を突き合わせる。
イリアほどではないアルトも薬学の知識はあり、彼女の実験の手伝いをされていた。本来であればイリアの師であるイシ当たりが適任なのだが、彼は今は別件で忙しくて手が貸せない状況だった。
「ほら、アルト王子!!へばってないで最後の工程ですよ!!」
「最後の工程と言われても……今度は何をするつもりだい?」
「和国の仙薬の製造法を参考にして今度は丸薬に造り替えます!!」
「そ、そんな事ができるのかい?」
「できるんじゃなくて作るんです!!」
ここまでの実験でイリアが作り出したのは「聖水」と「上級回復薬」の薬を兼ね合わせた薬であり、その薬を更に和国の仙薬と同じ方法で「丸薬」へと造り替える事を宣言する。
聖水と上級回復薬の効果を併せ持ち、更には和国の仙薬(丸薬)のように持ち運びやすく、簡単に飲みやすい薬を作り出すのがイリアの目的だった。この薬が完成すればイリアの生涯の目標である「精霊薬」の製造に一歩近づく。
「さあさあ、今夜は徹夜ですよ!!」
「こ、今夜も徹夜なのかい……全く、君は普段は軟弱なのにどうして実験の時は体力が無限大になるんだい」
「ほらほら、泣き言を言ってないで手伝ってください!!そうでないと私の特性のドーピング薬を飲ませますよ!?」
「お、横暴過ぎる……」
仮にも王子であるアルトをイリアはこき使い、飛行船が出発する前に彼女は何としても新薬を開発するために実験を続けた――
――その一方でナイの方は商業区にてモモとヒナと共に買い物に付き合っていた。買い物といっても二人の仕事の手伝いであって遊びに来たわけではなく、食材の階だしのために訪れていた。
剛力の技能を持つナイを頼りにヒナとモモは次々と食材を買い込んでいくが、この時に香辛料の類が随分と高騰化している事にヒナは不満を告げる。
「ちょっと叔父さん!!どうしてこんなに香辛料が高くなってるのよ!?ぼったくりじゃないの?」
「いや、悪いがこの値段が今の適性価格なんだよ。うちが取り扱っていた香辛料は殆どが巨人国から輸入していた物だからね……その巨人国の輸入品が今は手に入らない状況だから値段の方も高くしないとうちも生活できないんだよ」
「そうなんですか……ヒナさん、こればかりは仕方ないよ」
「え〜……これじゃあ、色々と料理できないよ〜」
「むううっ……分かったわよ、この値段で買うわ!!」
王国に暮らす人々が利用する香辛料は巨人国から輸入される香辛料が大半を占め、現在はアチイ砂漠に出現した魔物のせいで香辛料の類も碌に輸入できない状況だった。現在は香辛料の価格が高騰化しているが、その内に全く香辛料が手に入らない事態に陥るかもしれない。
状況が状況なのでヒナも店主には強く言い出せず、仕方なく彼女は高い金を払って必要な分の香辛料を購入する。しかし、こんな状況が何時までも続けば白猫亭の経営が傾いてしまう。
「全くもう!!土鯨だかなんだか知らないけどそいつのせいで大損よ!!ナイ君、絶対に土鯨を倒してきてね!!」
「う、うん……頑張るよ」
「ナイ君、気を付けてね。本当なら私達も一緒に行けたらいいけど……」
「それは駄目よ、今は一番忙しい時期なんだから今度ばかりは一緒に行く事はできないわ」
モモとしてはナイのために飛行船に同情したい所だが、彼女はあくまでも一般人なのでそれは認められない。いくらモモがテンに鍛え上げられて凄腕の治癒魔法の使い手だとしても一緒に連れて行く事はできない。
それにナイとしてもモモをわざわざ危険な場所には連れて行く事はできず、彼女を安心させるためにナイはモモと約束する。
「大丈夫、必ず戻ってくるからモモはここで待っていて……戻って来た時、モモの美味しい手料理を食べたいな」
「う、うん!!分かったよ!!腕によりをかけて作るからね!!」
「ナイ君……本当に気を付けてね。必ず戻ってくるのよ」
「約束するよ」
ヒナとモモはナイの言葉を聞いて安心するが、ナイとしても今度の遠征では不安な点があった。これまでにナイはゴブリンキングや火竜、他にも様々な脅威と相対してきたが、今回の敵は過去最大の敵になりうるかもしれない。
本当ならば気軽に生きて戻るという約束をしてはいけないかもしれない。しかし、二人を安心させるためにナイは必ず生きて戻る事を告げる。
(必ず生きて帰るんだ)
心の中でナイは生きて帰って約束を果たす事を誓い、そして時は流れて遂に飛行船の出発の日を迎えた――
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