特別編第19話 《それぞれの準備》
「――おらぁっ!!」
「わあっ!?」
「きゃんっ!?」
「おおっ、またテンの勝ち〜!!」
聖女騎士団の管理する訓練場にてヒイロとミイナはテンに指導を受けていた。指導と言っても実際の所は一方的に組手を仕掛けられたのだが、二人がかりでもテンには敵わなかった。
「くっ……あ、相変わらずの馬鹿力ですね」
「むうっ……そろそろ勝てると思ったのに」
「ふん、あたしの事を甘く見るんじゃないよ!!腐ってもあたしは団長なんだよ、あんたらみたいなひよっ子に負ける程に腕は落ちてないよ!!」
「テンは容赦ないな〜」
テンに敗れたヒイロとミイナは悔しそうな表情を浮かべるが、そんな二人に対してテンは堂々と胸を張る。そんな3人の様子を他の騎士団員も見つめて話し合う。
「あの二人も前よりは腕を上げたようだが、まだテンには及ばないか」
「テンの奴も勘を取り戻してからはたくましくなった。まだ昔ほどではないが、それでも全盛期の力を取り戻しつつある」
「そうですね、とはいってもヒイロとミイナにも勝ち筋はありました……あの二人がテンに勝てないのは実力の問題だけではありません」
聖女騎士団の中でも上位の実力者であるレイラ、ランファン、エルマの3人はテンとミイナとヒイロの戦いを見て各々が感想を言い合う。
レイラの見立てではヒイロとミイナは腕は上げてはいるがテンには及ばず、ランファンによればテンも全盛期だった頃の実力を取り戻しつつある。しかし、エルマから見ればヒイロとミイナがテンに勝てない理由は別にあるという。その理由はテンの口から直接語られた。
「あんたらがあたしに勝てない理由、それは勝利への執着心が足りないからだよ」
「しゅ、執着心?」
「どういう意味?」
「知り合いと戦うからってあんた等は無意識に力を抑えてるんだよ。その証拠にヒイロ、どうしてあんたはお得意の魔法剣を使わないんだい?ミイナ、あんたがよく使う斧も何で使わなかったんだい?」
テンの指摘にヒイロとミイナは驚き、今回の訓練はあくまでも組手であって別に本気で殺し合うわけではない。魔法剣にしろ、魔道具にしろ、そんな物を使用すればいくらテンでも命が危ない。
しかし、テンからすればヒイロとミイナの気遣いは彼女にとっては侮辱でしかなく、自分よりも実力が上の相手に手加減して勝つつもりなのかと怒鳴りつける。
「いいかい、あんたら!!あたしは強いんだ、あんたらみたいなひよっ子に心配される謂れはないよ!!l戦うんだったら全力で来な!!」
「そんな無茶苦茶な……」
「本当に死ぬかもしれないのに……いいの?」
「いいからさっさとかかってきな!!」
テンの言葉にヒイロとミイナは顔を見合わせ、二人は覚悟を決めた様に各々の武器を取り出してテンに全力で向かう――
――同時刻、アッシュ公爵の屋敷ではリーナは父親のアッシュと訓練用の武器で戦っていた。普段から時間がある時はアッシュはリーナの指導を行っていたが、最近は増々腕を上げたリーナに対してアッシュは手加減抜きで戦う。
「やあああっ!!」
「ふっ、中々の槍捌きだ。だが、その程度では俺には勝てんぞ!!」
「うわぁっ!?」
槍を回転させながら繰り出してきたリーナに対してアッシュは冷静に槍を躱し、薙刀を振り払う。リーナは獣人族並の身軽さでアッシュの薙刀を回避すると、即座に距離を取って槍を構える。
「お前の螺旋槍は確かに凄まじい威力だ。だが、回転する際に意識を集中し過ぎて槍を繰り出す際に隙が生じる」
「ううっ……分かってたのに上手くいかないよ」
「嘆く暇はないぞ!!そんな調子ではお前の想い人を守れないぞ!!」
「っ!?」
父親の言葉にリーナは目を見開き、いくら尊敬する父親と言えどもナイの事を口にした彼に対してリーナは黙ってはいられず、今まで一番の速さで槍を繰り出す。
「ナイ君は……僕が絶対に守る!!」
「ぬおっ!?」
予想外のリーナの行動にアッシュは咄嗟に薙刀を構えるが、この時にリーナは駆け出しながらも槍を高速回転させ、更に彼女は攻撃の瞬間に加速してアッシュに思わぬ一撃を食らわせた――
――その頃、王城の研究室にてイリアが新薬の開発を行っていた。彼女は上級回復薬を上回る薬を作り出すために実験を行い、最近の彼女が目に付けたのは陽光教会が生産している「聖水」と呼ばれる代物に目を付けていた。
この世界の聖水とは文字通りに聖属性の魔力を宿す液体であり、これを利用すれば「呪詛」の類を浄化できる。呪詛とは例えば死霊使いが使役する「死霊人形」などの存在に聖水を与えれば死霊人形に宿った闇属性の魔力が打ち消され、場合によっては浄化する事もできる。また、アンデッドや
この聖水は回復効果もあるが回復薬と比べて即効性はなく、その代わりに聖属性の魔力を一時的に高める効果がある。つまりは聖属性の魔力を使用する魔法を強化する効果もある事を示す。
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