特別編第17話 《火口からの脱出》
「ビャク……来てくれたのか」
『ゴオオッ!?』
あれほど熱さを嫌がっていたにも関わらずにナイから「犬笛」で呼び出されたビャクは火口に辿り着き、マグマゴーレムの大群を前にするナイを見て状況を把握する。
ビャクは自分の主人を取り囲むマグマゴーレムの大群に牙を剥け、注意を引くために鳴き声を上げて呼び寄せる。その咆哮は大型の魔物にも匹敵する迫力を感じた。
「ガアアアアアアッ!!」
『ゴアッ……!?』
あまりのビャクの迫力にマグマゴーレムの大群は戸惑い、ビャクの身体が何倍にも大きく見えた。唐突に現れたビャクに対してマグマゴーレムは警戒心を露にするが、その隙を逃さずにナイはビャクの元へ移動する手段を考え、ここで彼は岩砕剣と自分の足場を確認した。
(やってみるしかない、か)
ナイの岩砕剣は地属性の魔力を送り込む事で刃に重力を加える事ができる。つまりは一瞬だけではあるが剣の重量を増幅させる事ができるが、それを利用してナイはこの状況を脱する方法を思いつく。
(これしかない!!)
持ち前の怪力を生かしてナイは岩砕剣を振り上げると、魔法腕輪に嵌め込んだ地属性の魔石から岩砕剣に魔力を流し込む。その結果、刀身に紅色の魔力を宿った岩砕剣は重量を増していく。
最大限にまでナイは岩砕剣に魔力を送り込んで重量を増加させると、渾身の力を込めて地面に向けて岩砕剣を叩き込む。その姿を目撃したビャクはナイの姿がまるで巨大な鬼のような姿に見えた。
「だぁああああっ!!」
『ゴアアッ!?』
「ウォンッ!?」
ナイが振り下ろした岩砕剣によって火口付近の地面に亀裂が生じると、広範囲に罅割れは広まってマグマゴーレム達が亀裂の中に飲み込まれる。マグマゴーレムは見た目通りに重量もあるため、罅割れた地面ではマグマゴーレムの重量に耐え切れずに彼等は次々と亀裂に飲み込まれていく。
『ゴガァアアアッ――!?』
「……さよなら」
崩壊した地面に飲み込まれていくマグマゴーレムの大群に対してナイは一言だけ言い残すと、彼は跳躍の技能を生かして完全に地面が崩壊する前に脱出を図る。
マグマゴーレム程の重量がないナイは罅割れた地面の上を飛び回り、どうにかビャクが居る場所にまで辿り着く。ビャクはナイが自分の元に降り立つと、すぐに背中に乗るように促す。
「ウォンッ!!」
「よし、すぐに皆と合流して逃げよう!!」
ナイはビャクの背中に乗り込むと先に下に降りているはずの仲間達の元へ向かう。この時に100体近くのマグマゴーレムは崩壊した地面と共に再び火口の中に沈んでいく――
――その後、ナイ達は無事に仲間と合流して急いで山の麓にまで避難する事に成功した。幸いにもマグマゴーレムの大群は火口に落ちた後は姿を現す様な事はなく、無事に全員が避難する事に成功した。
「はあっ、はあっ……し、死ぬかと思った」
「さ、流石にあの数のマグマゴーレムはどうしようもできないよ……」
「そ、そうですね……うっ、脇腹が」
「暑い……もうこのローブを脱いでいい?」
「い、いや駄目だ……もう少し離れてからにしてくれ」
「ワフッ……(流石に疲れた)」
「ぷるんっ(熱くて溶けそう)」
「ドゴン(大丈夫?)」
安全な麓にまで到着した途端にナイ達はへばってしまい、流石に全員の体力も殆ど残っていなかった。特に100体のマグマゴーレムを相手にしたナイは精神的にも肉体的にも限界が近く、ビャクの背中の上でへたばってしまう。
奇跡的に生き残る事は成功したが問題は山積みであり、一応は今回の任務である火属性の魔石の回収には無事に成功した。しかし、今後もグマグ火山から火属性の魔石を採取する場合、あのマグマゴーレムの大群をどうにかしなければならない。
「あのマグマゴーレムもきっと火竜が居なくなった事で増えつつけていたんだろう……火竜が健在の時は餌として食われていたマグマゴーレムが今は一気に数を増やして火山を支配しているんだ」
「で、ですけどどうして急にあんなに現れたんでしょうか……」
「恐らくはドゴン君のせいだね。ドゴン君が倒したダークゴーレムを火口に投げ飛ばしたせいで火口の中に眠っていたマグマゴーレムを起こしたんだ」
「ドゴン!?(そうなの!?)」
ドゴンは自分のせいでナイ達を窮地に陥った事に衝撃を受けるが、今回の事態はあくまでも事故でアルトもまさか火口にマグマゴーレムの大群が眠っているなど思いもしなかった。
「まあ、必要分の魔石を採取する事はできた。マグマゴーレムの大群もこちらが刺激しなければ襲ってくる事はないだろう」
「でも、また火山を降りてきたらどうするの?」
「大丈夫さ、マグマゴーレムが活動できるのは火山の付近だけ……あまりに火山を離れ過ぎるとマグマゴーレムが主食にしている火属性の魔石は取れないからね」
「そ、それならいいんですが……」
マグマゴーレムは火属性の魔石や溶岩を餌としている以上、グマグ火山から遠くに離れる事はない。しかし、今後は火山で採掘を行う時はもう火口には近づかない方が妥当なのは間違いなかった――
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