特別編第16話 《相棒》

「ゴアアッ!!」

「あぶなっ!?」



考えている間にもナイの元にはマグマゴーレムの大群が迫り、その1体がナイの目前にまで迫ると抱きつこうとしてきた。溶岩の外殻で構成されているマグマゴーレムに抱きつかれればいくら「熱耐性」の技能を持つナイでもひとたまりもなく、どうにか「跳躍」の技能で後ろに跳んで回避する。


マグマゴーレムは動きは鈍いので本来ならばナイが捕まる事は有り得ない。しかし、100体という数の暴力でマグマゴーレムはナイの元へ迫り、徐々にナイは逃げ場を失っていく。



「はあっ、はあっ……流石にこれ以上はきついかな」

『ゴアアッ……!!』



火口にて100体のマグマゴーレムに追い詰められたナイは汗を流し、この汗は冷や汗なのかそれとも高温による汗なのかはもう本人にも分からない。普通の人間ならば火口の熱気とマグマゴーレムの放つ高熱によって耐え切れずに死んでいてもおかしくはない。


四方八方をマグマゴーレムに取り囲まれたナイはもう逃げ場はなく、これ以上の逃走は不可能だと判断したナイは岩砕剣を構える。武器を手にした彼を見た途端、マグマゴーレムは一斉に襲い掛かってきた。



『ゴオオッ!!』

「うおおおおっ!!」



ナイは全力で岩砕剣を振りかざすと、正面から飛んできたマグマゴーレムに目掛けて大剣を振り払う。下手に切り付ければマグマゴーレムの肉体を切り裂いてしまう恐れがあり、敢えて大剣の刃の腹の部分を叩き付けて吹き飛ばす。



「おらぁっ!!」

「ゴアッ!?」

「ゴガァッ!?」



マグマゴーレムを吹き飛ばす際についでに他の個体も巻き込み、一度の攻撃で二体のマグマゴーレムをぶっ飛ばす。それでも敵の数は100体のため、残った98体のマグマゴーレムがすぐに迫ってきた。



「ゴオオッ!!」

「くっ……このぉっ!!」



拳を振りかざして殴りつけようとしたマグマゴーレムに対してナイは岩砕剣を突き立て、刃を腹部に貫通させる。この状態でナイは剛力を発動させて大剣にマグマゴーレムが突き刺さった状態で振り回す。



「おらおらおらおら!!」

「ゴアアッ!?」

「ゴウッ!?」

「ゴオッ!?」



大剣にマグマゴーレムを突き刺した状態でナイは身体を回転させ、あまりの勢いに大剣に突き刺さっていたマグマゴーレムは腹部から刃が抜けて火口に落とされてしまう。


いくら切りつけようと体内の核を破壊しなければゴーレムを倒す事はできないため、ナイは1体1体を確実に倒す事よりも、今は生き延びる事を優先して敢えて倒しにはかからない。下手に倒そうとすれば時間もかかるし、他の個体に狙われやすい。



(無理に倒す必要はない、時間だけを稼げ!!)



マグマゴーレムを打ち倒しながらも止めを刺さず、ナイは相棒が来てくれる事を信じて戦い続ける。しかし、遂にはナイは火口の付近まで追い詰められてしまい、今度こそ逃げ場を失ってしまう。



「ゴオオッ!!」

「くっ……ここまでか」



これ以上に下がれば火口の溶岩に落ちてしまう場所にまでナイは追い詰められ、一際大きなマグマゴーレムがナイの元へ迫る。これ以上の時間稼ぎは不可能だと判断したナイは岩砕剣を正面に構えると接近してきたマグマゴーレムに対して刃を振り下ろす。



「ゴオオッ!!」

「だああっ!!」



正面から突っ込んできたマグマゴーレムに対してナイは岩砕剣を勢いよく振り下ろし、バル仕込みの「剛剣」の剣技で見事にマグマゴーレムの肉体を真っ二つに切り裂く。


身体を左右に切り裂かれたマグマゴーレムは悲鳴を上げる暇もなく地面に倒れ込むが、この時にマグマゴーレムの肉体から溶岩が噴き出してナイの元へと飛び散る。



「あちちっ!?くそっ……ごめん、アルト!!」



事前にナイはアルトから熱耐性が高いローブを受け取って身に付けていたが、咄嗟に溶岩がこびり付いたローブを脱ぎ捨ててしまう。いくら熱耐性があると言っても溶岩には耐え切れず、そのままアルトの貰ったローブは燃え尽きてしまう。


マグマゴーレムを倒す際は溶岩が散らばる可能性を考慮してナイも慎重に戦っていたのだが、ローブを失った事で溶岩が身体に浴びればナイもどうする事もできない。いくら熱耐性の技能があろうと溶岩を浴びればひとたまりもなかった。



『ゴオオオッ!!』

「ははっ……あと、99体ぐらいか」



ナイが倒した1匹を除いたとしても99体のマグマゴーレムが残っており、これらの敵を損傷を受けずに倒す事など不可能に等しい。しかし、ナイは生き延びるために岩砕剣を構えて戦おうとした時、少し遠くの方から鳴き声が響く。




――ウォオオオンッ!!




その声を聞いた途端にナイは無意識に笑みを浮かべ、山の麓からわざわざ駆けつけてくれたの姿を確認するために顔を上げる。そこには狼車を麓に残して駆けつけてくれたビャクの姿が存在した。

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