特別編第15話 《魔笛》
「アルト王子、それは何なんですか……!?」
「魔笛だよ。この笛を吹けば特定の魔物を引き寄せる事ができる」
「魔笛……?」
アルトの説明を聞いたナイはシノビとハンゾウが飼育している魔獣の事を思い出す。シノビ兄妹が相棒として飼っている魔獣の「クロ」と「コク」は二人が持っている特殊な犬笛を利用する事で呼び出す事ができる。
今回のアルトが取り出した笛はシノビ兄妹が利用する笛と同様に魔物を引き寄せる効果があり、彼は取り出した笛を手にすると効果を説明した。
「この笛を吹けばゴーレムを引き寄せる事ができる……はずだ!!」
「はず、なんですか!?」
「分からないんだよ!!僕も今まで忘れてて使う機会がなかったんだ!!だが、これを使えばゴーレムの注意を引く事ができる……はずだ!!」
「そこは言い切ってほしかった……」
「で、でも……その笛を吹けばこのゴーレム達もどうにかできるの!?」
「ドゴン?」
不安を煽るような説明だったが、アルトの話が事実ならばゴーレムを引き寄せる笛を使えば氷壁に迫るゴーレムの大群を別の場所に注意を引く事ができるかもしれない。しかし、それは誰か一人を囮役として使う事を意味する。
「この笛を何処か別の場所で吹けばこのゴーレム達もそこへ誘導できるはずだ!!だが、そうなると誰かが囮役になる事に……」
「囮役って……これだけの数のマグマゴーレムを引き寄せるなんて無謀過ぎますよ!!」
「いや……どうにかなるかもしれない」
『えっ!?』
ナイはアルトの話を聞いてこの状況を打破する方法を思いつき、一か八かの賭けにはなるがナイはアルトから笛を受け取るとドゴンに声をかけた。
「アルト、信じるからね!!ドゴン君!!」
「ドゴン!?」
「俺を向こう側に思いっきり投げ飛ばして!!」
「ナイ君!?」
「いったい何を!?」
笛を手にしたナイはドゴンに自分をマグマゴーレムの大群の反対側に投げ飛ばすように指示をする。ナイの言葉にアルト達は戸惑うが、今は事情を説明する暇も惜しいのでナイはドゴンに頼み込む。
「ドゴン君!!早く俺を投げて!!」
「ドゴン……」
「ナイ君、駄目だよ!!危険過ぎる!!」
「大丈夫、俺を信じて!!」
リーナはナイの身を案じるがそんな彼女にナイは笑みを浮かべ、自分を信じる様に他の者も促す。そんな彼に対して他の者たちは何も言い返せず、仕方なくアルトもドゴンに命令を下す。
「やるんだ、ドゴン!!」
「ドゴォンッ!!」
「うわっ……!?」
「ナイ君!!」
ドゴンは即座に氷壁を抑えるのを止めてナイの身体を持ち上げると、氷壁の向かい側に押し寄せるマグマゴーレムの大群を確認する。ドゴンは持ち前の馬鹿力でマグマゴーレムの反対側、つまりは火口付近に目掛けてナイを投げ飛ばす。
「ドゴォオオンッ!!」
「うわぁあああっ!?」
『ゴアッ……!?』
勢いよく投げ飛ばされたナイはマグマゴーレムの大群を飛び越え、火口の近くまで投げ飛ばされる。この時にナイは旋斧を引き抜き、落下の寸前で風属性の魔法剣を発動させて勢いを殺す。
落下の直前でナイは風属性の魔力を旋斧に纏う事で墜落の際の衝撃を最小限に抑え込み、無事に着地に成功して安堵する。しかし、喜んでばかりはいられず、彼は笛を取り出してマグマゴーレムの大群を引き寄せる。
(上手くいってくれ!!)
ナイは笛を吹くと坂の方で氷壁に阻まれていたマグマゴーレムの大群が突如として振り返り、火口の付近で立っているナイの存在に気付いた。そしてマグマゴーレムは音に引き寄せられるように坂を駆けあがってナイの元へ迫る。
『ゴァアアアッ!!』
「うわぁっ……これはちょっとまずいかも」
坂を登って自分の元に迫る100体のマグマゴーレムを前にしてナイは冷や汗を流し、背中の岩砕剣に手を伸ばす。だが、いくらナイでもこれだけの数の魔物を相手に戦うのは厳しい。
マグマゴーレムは全身が溶岩で攻勢された最も危険なゴーレム種であり、いくらナイでも分が悪い相手だった。しかし、何も考え無しにナイも火口に戻ったわけではなく、彼は魔笛を確認すると懐にしまい込む。
(後はこれだな……頼むぞ、相棒)
ナイは懐から笛を取り出すと、それを勢いよく吹いて準備を行う。時間は掛かるだろうが必ず自分を助けに味方が来る事を信じてナイは岩砕剣を構える。
「ゴアアッ!!」
「ゴオオッ!!」
「ゴルァッ!!」
「こっちだ、化物共!!」
次々と火口に迫るマグマゴーレムに対してナイは岩砕剣を振り回し、誘導するように集めていく。旋斧はドゴンに投げ飛ばされる際に置いてきてしまい、今の彼に頼れるのは岩砕剣だけである。
だが、岩砕剣は硬度こそ世界最硬だがマグマゴーレムなどの相手とは相性が悪い。旋斧の場合は水属性の魔力を込める事でマグマゴーレムでも有効的な攻撃手段はあるが、岩砕剣の場合は地属性の魔力で刀身に重力を加える事で威力は上昇できるがそれだけではマグマゴーレムに対抗はできない。
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