特別編第14話 《マグマゴーレムの大群》

「全員、逃げるんだ!!」

「ドゴン!?」



アルトの声を聞いた者は即座に火口から這い上がってくるマグマゴーレムから逃れるために駆け出す。ドゴンも慌てて大量の火属性の魔石の原石を袋詰めにして後を追う。


火口から大量のマグマゴーレムが出現してナイ達の元へ迫り、彼等が火口から離れた後も追いかけるのを止めない。その数は10や20ではなく、下手をしたら100体近くのマグマゴーレムがナイ達の後方から迫る。



『ゴァアアアアッ!!』

「ひいいっ!?こ、こっちに来てます!!」

「狙いは明らかに僕達のようだねっ!!」

「さ、流石にあんな数は倒しきれないよ!?」

「ナイでも無理?」

「無理だよ!!あれは流石に倒しきれない!!」



迫りくる100体近くのマグマゴーレムの大群を見て流石のナイ達もどうしようもできず、これだけの数のマグマゴーレムを倒す手段を持ち合わせていない。マグマゴーレムの大群は火山を降りるナイ達に対して自分達は身体を転がせながら追いかけてくる。



『ゴォオオオオッ!!』

「うわぁっ!?こっちに転がってきます!!」

「なるほど、動きは遅くても坂の上から転がり込む事で移動速度を上げて……」

「冷静に観察している場合ですか!?こっちに迫ってるんですよ!?」

「まずい、このままだと追いつかれるよ!!」



身体を球体のように丸めて坂を転がり落ちてくるマグマゴーレムの大群に対して、ナイ達はこのままでは逃げ切れずに押し潰される事は確実だった。


どうにか手を打たなければ100体のマグマゴーレムに押し潰される事は間違いなく、ここでリーナが蒼月を構えてナイに声をかける。



「ナイ君!!ここは僕達の力を合わせて防ぐしかないよ!!」

「力を合わせる?」

「僕が蒼月で氷壁を作り出すから、ナイ君も一緒に手伝って!!」

「氷壁……なるほど、分かった。やってみる!!」



リーナの言葉を聞いてナイは旋斧を引き抜くと、彼女は蒼月を地面に突き刺す。蒼月の能力は斬りつけた箇所を凍結させる以外にも、氷その物を生み出す力で壁などを作り出せる。


蒼月が突き刺した箇所の地面から氷柱を想像させる氷の塊が誕生し、それを壁代わりに利用して坂から転がり落ちるマグマゴーレムを防ごうとリーナは身構える。しかし、高熱を発しながら身体を高速回転させて落ちてくる大量のマグマゴーレムを防ぎ切れる保証はない。



「ナイ君、今だよ」

「はぁあああっ!!」



ナイはリーナが生み出した氷柱の氷壁に対して旋斧を振りかざし、魔法腕輪に装着していた水属性の魔石を刃に送り込む。すると旋斧の刀身が青色の光に包まれ、氷壁に突き刺すように叩き込む。


氷壁に旋斧が突き刺さった瞬間に水属性の魔力が直接に流し込まれ、更に氷壁は巨大化して坂から転がり落ちてくるマグマゴーレムの大群を防ぐ。



『ゴアアッ!?』

「ううっ!?」

「くぅっ……リーナ、踏ん張って!!」

「ドゴン、氷壁を支えるんだ!!」

「ドゴォンッ!!」



氷壁にマグマゴーレムが衝突すると氷に亀裂が生じて壁が傾くが、即座にアルトがドゴンに氷壁を支える様に命じる。ドゴンは氷壁を抑え込むとしばらくの間は氷壁に次々とマグマゴーレムが衝突して衝撃が伝わっていく。


ナイ、リーナ、ドゴンの3人がかりでマグマゴーレムの大群を抑えつけるが、徐々に氷壁に集まったマグマゴーレムの高温によって氷が溶け始めていく。このままでは氷の壁が崩壊してマグマゴーレムがナイ達の元へ押し寄せるのは時間の問題だった。



「だ、駄目だ……数が多すぎる!!」

「も、もうこれ以上は持たないよ……!?」

「が、頑張ってください!!」

「私達も一緒に支える……それしか方法はない」

「頑張るんだ皆!!ここで諦めたら終わりだぞ!!」



全員で氷壁を抑え込むが100体のマグマゴーレムが氷壁に集まり、氷を溶かそうと押し寄せる。徐々に氷越しに魔力を流し込む旋斧の光も薄れていき、ナイは水属性の魔石の魔力が消えかけている事に気付く。



(まずい、もう魔力が……リーナも限界だ!!)



蒼月で氷を維持するリーナの顔色も悪く、このままでは彼女も旋斧も持たずに氷壁が崩壊してしまう。絶体絶命の窮地に立たされたナイはどうにか打開策を考えるが、手持ちの装備では何も打つ手がない。



「ア、アルト王子!!何か道具を持ってきていないんですか!?」

「そうだ、出発する前に色々と持ってくると言ってなかった!?」

「はっ……忘れていた。こんな時のために僕は色々と持ってきてたんだ」



ヒイロの言葉を聞いてナイはアルトが出発前に色々な準備をしていた事を思い出し、彼に話しかけるとアルトはすぐに自分の収納鞄に手を伸ばす。


この状況を打破できるのならばと藁に縋る思いでナイ達はアルトが何を取り出すのか期待するが、彼が取り出した代物を見て全員が呆気に取られる。アルトが取り出したのは「笛」だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る