特別編第12話 《最強のゴーレム》

――麓に戻った後、ナイ達はビャク達と合流すると火山から離れた場所で夜営の準備を行う。火山の近くは熱気が酷くて碌に休む事もできないため、ある程度は火山から離れた場所で休むしかなかった。


火山付近には野生の魔物の姿は殆ど見当たらず、恐らくは火山に出現した新種のゴーレムを警戒して火山付近の魔物は逃げ出した可能性もある。そのお陰でナイ達は魔物に襲われる事を警戒せずに身体を休める事ができた。



「例の新種のゴーレムについてだが……とりあえずは名前はダークゴーレムと名付けよう」

「ダーク……ですか?」

「ブラックじゃないの?」

「まあ、呼びやすい方がいいじゃないか。今後はあの個体の事をダークゴーレム、あるいはダークと呼ぶ事にしよう」

「ダーク、か。まあ、呼びやすい方がいいかもね」



新種のゴーレム改め、今後は火山に出現するゴーレムの事は「ダークゴーレム」という名前に統一する事が決まり、これからの事をアルトは話し合う。


ナイ達が火山に訪れた目的はハマーンに依頼されて火山で大量発生した火属性の魔石の回収のためである。飛行船を動かすには大量の火属性の魔石が必要であるため、持って帰れるだけ持って帰らなければならない。



「僕達の目的は火山で採掘できる火属性の魔石だが、できる限りは良質な魔石を多く持ち返りたい。しかし、火口の付近にはダークゴーレムが出現する事は確認された」

「これから黒色の岩壁や岩はダークゴーレムの可能性がある事を気を付けなければいけませんね」

「でも、そんなの見分けられるの?」

「う〜ん……僕も気配感知でもダークゴーレムは見抜けなかったしな」

「魔力感知の方も当てにできないと思う……火口付近には大量の魔石がたくさんあるせいで上手く魔力が感じ取れないんだよ」



ダークゴーレムを見分ける手段は今の所は存在せず、リーナの気配感知もナイの魔力感知の技能も当てには出来ない。ダークゴーレムはリーナが攻撃を仕掛けるまでは完璧に気配を殺して岩壁に擬態し、ナイの魔力感知も場所が大量の火属性の魔石が埋もれている場所のせいでダークゴーレムの魔力を感じ取る事は難しい。



「あの様子だと火口にどれだけのダークゴーレムがいるのか分からない。これからは火口近くの場所から火属性の魔石を採取しよう」

「ですけど、火口以外の場所で良質な魔石を採掘できるのですか?」

「そこは数で誤魔化すしかない……と言いたいが、僕達だけだと採掘できる量は限界がある。こんな事ならもっと人手を集めれば良かったな」

「仕方ないよ、他の皆も色々と準備があるし……」



白狼騎士団以外の王国騎士団は色々と仕事があり、アチイ砂漠の遠征の準備や王都の治安維持のために色々と忙しい。あのテンでさえも最近は碌に白猫亭に顔を出さずに真面目に仕事を行うぐらいである。


冒険者に力を借りるという手もあったが、ダークゴーレムの存在が判明した以上は生半可な実力者は呼び出す事はできず、そもそも王都に引き返して人手を集める方が時間が掛かる。しかし、この時にドゴンが何かを伝えようとアルトに声をかけた。



「ドゴン、ドゴン!!」

「ん?急にどうしたんだドゴン君?」

「お腹空いたの?」

「え、ゴーレムも食事するのですか……?」

「いや、ドゴン君の場合はペンダントの魔力で動いている。ふむ、何かを伝えようとしているみたいだ」



ドゴンは身振り手振りでアルトに自分の意思を伝えようとすると、鋭い観察能力を誇るアルトはドゴンが何を伝えたいのかを明確に理解した。



「なるほど、そういう事か」

「え!?分かったんですか?」

「ああ、どうやらドゴン君はゴーレムが現れても自分が何とかするから他の皆は作業に集中して欲しいそうだ」

「な、なるほど……確かにドゴン君が一緒なら心強いね」

「最強のオリハルコンゴーレム……味方としてこれ以上に心強い存在はいない、かも」

「ドゴンッ!!」



アルトの言葉を聞いてナイ達は納得すると、ドゴンは自分に頼れとばかりに力強く胸元を叩く。確かに先の採掘の時はナイが「採取」の技能で発見した火属性の魔石の原石をドゴンが運んで離れてしまったが、よくよく考えるとドゴンが残っていればダークゴーレムなど簡単に対処できたかもしれない。


ドゴンは古の時代に作り出された最強のオリハルコンゴーレムであり、そもそも竜種と対抗するために作り出された兵器でもある。同じゴーレムだとしてもダークゴーレムとは格が違い、ドゴンが傍にいればダークゴーレムが現れても彼が対処して他の者は作業に集中できる。



「よし、それなら明日からはドゴン君も一緒にまた火山へ向かおう。但し、くれぐれも無茶をしない様に気を付けてくれ」

「ドゴンッ!!」

「ウォンッ(頑張れよ)」

「ぷるぷるっ(僕達はお留守番してる)」



ドゴンを励ます様にビャクは彼の肩に手を置き、プルリンはドゴンの頭の上で応援する様に身体を跳ねる。何時の間にか3人(匹?)とも仲良くなっていたらしく、明日からは山の麓にビャク達は残ってナイ達はドゴンを連れて火口に再び戻る事が決まった――

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