特別編第11話 《新種のゴーレム》

「ゴハァッ……!?」

「ふうっ……大丈夫、ナイ君!?」

「あ、うん。平気だよ」

「た、倒したのかい?」



リーナの渾身の一撃を受けたゴーレムは地面に倒れ込んで動かなくなると、すぐに彼女は岩の破片を受けたナイの元に駆けつける。一方でアルトと他の者はゴーレムの様子を確認して死んでいるのかを確かめた。


ゴーレム種の共通の弱点は体内の核を破壊されると活動を停止する事であり、先ほどリーナが破壊したゴーレムの胸元の魔石が核だとしたらゴーレムが起き上がる事は有り得ない。用心しながらヒイロとミイナはゴーレムに剣を構えると、動かないのを確かめるために剣先でつつく。



「……反応がない、多分だけど死んでると思う」

「そ、そうですね……どうしますか?」

「ふむ、とりあえずはこいつがゴーレムなのかを確かめよう」



アルトは収納鞄から自分の水筒を取り出すと、彼は慎重にゴーレムに目掛けて中身の水を放つ。仮にゴーレム種ならば水の類を与えれば身体が溶けるはずだった。


水筒の水をゴーレムの頭部に振りかけた瞬間、水が当たった箇所がまるで泥のように変化して頭部が溶けて地面に染み込んでいく。それを確認したアルトは間違いなくゴーレム種だと確信するが、全身が黒色のゴーレムなど彼でも見た事も聞いた事もない。



「このゴーレム……普通のゴーレムじゃなさそうだ。もしかしたら亜種かもしれない」

「ゴーレムの亜種という事は……マグマゴーレムみたいな存在でしょうか?」

「ああ、その通りだ。さっきのゴーレムの動きを見ただろう?基本的にはゴーレムは身体が大きくて鈍重だが、このゴーレムの場合は体型は小さいし、動きも速かった」

「た、確かに……」



他のゴーレム種と比べるとリーナが倒したゴーレムは体型は細身で身長も2メートルにも満たない。しかし、小さい分だけ動作も素早く、それにミノタウロス級の怪力を誇る。


リーナが一撃で倒したので他に能力があるのかは不明だが、普通のゴーレムと違う点は弱点である核が胸元の部分に露出している事だった。そう考えると他のゴーレムと比べても倒しやすい敵かもしれないが、咄嗟に岩の破片を利用して周りの敵を攻撃するだけの高い知能も持ち合わせていた。



「まさか、これが火山に現れた新型の魔物の正体でしょうか?」

「その可能性はあると思う。恐らく、火竜が居なくなった事で火山の環境が変化した事で誕生した新種のゴーレムかもしれない」

「火竜がいなくなったせいで……」



火竜は死して尚も様々な影響を残し、この新種のゴーレムは火竜という存在が居なくなった事で火山の環境が変化して誕生した未知の魔物だとアルトは推測する。その話を聞いたナイは周囲を見渡して他にもゴーレムが隠れているのかと不安を抱く。



「これは参ったね、こんな魔物がいるようなら普通の兵士だと太刀打ちできない。今回は何とかなったけど、ここは立ち入りを禁止した方がいいかもしれない」

「うん……普通のゴーレムよりも手応えがあったと思う。僕の螺旋槍でも貫けない敵なんて久しぶりだよ」

「つ、貫こうとしてたんですか?」

「黄金級冒険者のリーナにそこまで言わせるという事は……危険度も相当高いのかもしれない」



リーナの攻撃はゴーレムの核を破壊するだけに留まり、彼女からすればゴーレムの肉体を貫く勢いで突き出した。しかし、リーナの実力を以てしてもゴーレムを貫通させるほどの威力の攻撃は繰り出せなかった。


黄金級冒険者のリーナが手こずるようでは王都の兵士では相手にはならず、冒険者の中でも階級が低い人間は太刀打ちできないだろう。少なくとも王国騎士級の実力を誇る人間でなければゴーレムを倒す事は難しいと考えるべきかもしれないとアルトは思う。



「……これ以上の長居は危険だ。一旦、麓に戻って合流しよう。ビャク君達も心配だからね」

「ドゴンがいれば大丈夫だと思うけど」

「確かにそうかもしれないが、ともかくこれ以上の採掘は止めておこう。火口付近の方が良質な火属性の魔石が採れるとしてもまた襲われたら困るからね。今度からはもっと麓の近くで採掘をしよう」

「仕方ありませんね……」



火山の火口以外でも魔石の採掘はできるため、アルトは今度から火口以外の場所で採掘を行う事を提案する。火口の近くの方が良質な火属性の魔石が採掘しやすいが、ゴーレムにまた襲われたらナイ達はともかく非戦闘員のアルトの身が危ない。


アルトが安全な場所に残ってナイ達が火口に戻って採掘を続けるという手もあるが、次に出現するゴーレムが単体とは限らず、群れで出現して襲い掛かられたらいくらナイ達でも無事では済まないかもしれない。そのように判断したアルトは安全性を重視して今後は火山の火口から離れた場所で採掘を行う事を決めた――

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