特別編第10話 《火山の生態系》
「まあ、魔物が居ない事は僕達にとっては都合がいい。だけど、これだったら人手をもっと連れて来れば良かったね」
「でも、アルトの
「確かにその通りだが、僕の収納鞄も容量に限界がある。それにさっきドゴンが見つけた様な大きな魔石の原石は持って帰れないからね」
アルトの所有する収納鞄は異空間に繋がっており、一定量の物体を異空間に預ける事ができる。しかし、収納鞄に入れられるのは鞄の蓋に入り込むだけの大きさであり、先ほどのようにドゴンが持ち返った巨大な魔石の原石は入れる事はできない。
ハマーンの希望はできる限りの多くの火属性の魔石の原石を持ち返る事であり、火山という環境と魔物との戦闘を行える人材をアルトなりに厳選して今回の面子を連れてきた。しかし、予想とは裏腹に火山には今の所は魔物らしき姿は見当たらない。
「前に戦ったマグマゴーレムも見かけないね。まあ、現れたら困るけど……」
「あいつ嫌い……戦う時、火傷しそうだから」
「私の魔法剣とは相性が悪いですし……」
「ふむ……そろそろ麓の方に戻ろうか。一旦、回収した魔石をビャク君の狼車に置いておこう」
一度の採掘だけでハマーンが希望するだけの火属性の魔石の原石は集めきれず、アルトは麓に残ったビャク達の元へ戻る事を提案する。ナイは返る前にできる限りの多めの魔石を持ち返ろうとすると、ここで彼は岩壁に埋まっている火属性の魔石の原石をまたもや発見する。
「ねえ、こっちの岩の中にまた魔石が埋まってるよ」
「あ、本当だ……あんまり大きくなさそうだし、これだったら僕の槍で削り取れるよ?」
「そうかい?それならその魔石を最後に取って帰ろうか」
ナイが発見した魔石の原石を見てリーナは槍を取り出し、彼女は岩壁から魔石の原石を掘り起こそうと槍を構える。ピッケルなどよりも使い慣れた槍の方が彼女にとってはやりやすく、リーナは槍で魔石の原石を掘り起こそうと岩壁を削り取る。
「せりゃあっ!!」
「おおっ、流石はリーナ」
「どんどんと削られていきますね……えっ?」
「……何だ!?」
リーナが目にも止まらぬ速さで槍を突き出し、岩壁を削り取って内部に埋もれているはずの魔石の原石を掘り起こそうとした。しかし、唐突に岩壁の一部に人面のような皺が浮き上がると、鳴き声を放ちながら岩壁から人型の岩の塊が出現した。
「ゴラァアアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「な、何ですか!?」
「ゴーレム!?」
「いや……これはただのゴーレムじゃないぞ!?」
岩壁から出現した岩の塊のような人型の魔物を見て最初に皆が思ったのは「ゴーレム」だった。しかし、これまでにナイ達が遭遇したゴーレムとは色が異なり、少なくともロックゴーレムやマグマゴーレムとは色合いが違う。
全身が黒色の岩石の外殻で覆われたゴーレムはリーナと向き合うと、拳を勢いよく振りかざす。通常のゴーレムは動きが鈍重なはずだが、今回のゴーレムは以前にナイが戦ったマグマゴーレムよりも細身で動きも素早い。
「ゴアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「危ない!?」
「い、岩を一撃で……!?」
リーナは咄嗟に跳んで攻撃を回避する事に成功したが、黒色のゴーレムが振り翳した拳は彼女の後ろに偶然に存在した岩を一撃で叩き壊す。その破壊力は凄まじく、ミノタウロスをも想像させる。
「なんて怪力だ!!それに動きも速い、もしかしたらゴーレムの亜種なのか!?」
「アルト王子!!興味を抱いている場合じゃありませんよ!?」
「皆、下がって!!ここは僕の螺旋槍で……!!」
攻撃を仕掛けられたリーナは咄嗟に反撃を繰り出そうと彼女が得意とする槍技で対処しようとした。しかし、ゴーレムの方は破壊した岩の残骸を握りしめると、リーナに目掛けて岩の破片を放つ。
「ゴラァッ!!」
「うわわっ!?」
「危ない!?」
「いててっ!?」
「くぅっ……!?」
ゴーレムが投げ放った岩の破片はリーナだけではなく、他の者にも破片が飛び散る。咄嗟にリーナは槍を振り回して破片を振り払い、ヒイロとミイナも各々の武器で防いだがナイはアルトを庇うために背中を向ける。
幸いにもナイは背中に旋斧と岩砕剣を装着していた事で破片は刃に弾かれたが、それでも当たった時の衝撃で彼は痛みを覚える。それに気づいたリーナはナイを傷つけたゴーレムに対して怒りを抱き、彼女は槍を高速回転させながらゴーレムに放つ。
「よくも僕のナイ君を!!」
「ゴアアッ!?」
「僕の!?」
さりげなくとんでもない事を口走りながらもリーナはゴーレムの胸元に目掛けて槍を放ち、回転を加えられた槍の刃先は見事にゴーレムの胸元の魔石に的中した。どうやら先ほどリーナが削り取ろうとした魔石の原石がゴーレムの「核」だったらしく、彼女の一撃でゴーレムの胸元の魔石は破壊されて動かなくなった。
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