特別編第9話 《グマグ火山の火口》

――グマグ火山の火口付近は麓よりも更に熱気が高まり、肌を晒すだけで火傷を引き起こしかねない程だった。そこでナイ達はアルトが事前に用意した特別製のローブを着込み、魔石の採掘を開始する。



「このローブは火属性の耐性がある魔物の素材から作り出したんだ。どうだい、暑くはないだろう?」

「そ、そうですね……これならなんとかなりそうです」

「これもイリアさんが作ったの?」

「正確に言えば僕とイリアが作った代物だよ」



アルトが用意したローブは彼とイリアが共同で造り出した代物で今の所は名前は付けていないが、このローブを身に付けている限りは熱で火傷を負う事はない。


火口付近に到着するとナイ達が見たのは地面や岩壁など至る所に埋まった鉱石を発見する。この鉱石こそが火属性の魔石の原石であり、火竜がいなくなった事で魔石を搾取する存在が消えた事で火山のあちこちに魔石が大量に誕生していた。



「す、凄い数の魔石ですね……」

「これだけあればいくらでも持って帰れるね」

「あれ、でも火属性のは魔石は熱や衝撃を加えると爆発するんじゃなかった?」

「それは加工済みの魔石の話さ。魔石の原石なら砕けても暴発する事はないから安心してくれ」

「へえ、そうなんだ」



アルトによれば火属性の魔石の原石は強く叩いて壊したとしても、内部の火属性の魔力が暴走して爆発する事は起きないらしく、ナイ達は安心して採掘を行う。



「ナイ君、ミイナ、君達の怪力には期待しているよ。ドゴンも頑張ってくれ」

「うん、分かった」

「怪力と褒められても嬉しくない……私なんてナイと比べたら非力な女の子」

「私の2倍ぐらいの大きさのピッケルを軽々と持ちながらよくそんな事が言えますね……」



白狼騎士団どころか王国騎士団の中でもミイナはテンやルナやランファンに次ぐ怪力の持ち主で有り、ヒイロが手にしたピッケルの倍ぐらいの大きさのピッケルを片手で持ち上げて採掘を行う。


ナイはミイナと同様にピッケルを持ち上げると、適当に岩壁に向けてピッケルを叩き込む。すると彼が身に付けている「採取」の技能のお陰か、岩壁を掘り起こすと一際大きな火属性の魔石の原石が発見された。



「あ、見て!!この岩の中に大きな鉱石が埋まってるよ!!」

「えっ?あ、本当だ……凄い、ナイ君!!」

「これは随分と大きいな……掘り起こすのに時間が掛かりそうかい?」

「どうかな、ちょっと分からない……うわっ!?」

「ドゴンッ!!」



ナイの背後にドゴンが近付くと、彼は拳を握りしめて岩壁に向けて叩き込む。すると岩壁が一気に崩れ落ちてナイが発見した魔石の原石を一気に掘り起こす。


岩壁に埋まっていた火属性の魔石の原石はかなり大きく、火竜の経験石ぐらいの大きさはあった。その原石をドゴンは持ち上げると嬉しそうにアルトの元へ運ぶ。



「ドゴン♪」

「あ、ああ……僕のために持ってきてくれたのか。ありがとう、ドゴン君」

「ドゴゴンッ!!」

「すっかりアルト王子に懐きましたね、あのゴーレム……」

「それじゃあ、麓の方に残してきたビャクとプルリンの所に運んでもらえる?下手に落として壊したら困るし……」

「ドゴン!!」



アルトに褒められたドゴンは子供のように嬉しがるが、そんな彼にナイは残してきたビャクとプルリンの元まで火属性の魔石の原石を運ぶように頼む。ちなみにビャクもプルリンもあまりの火山の熱気に火口まで近づく事ができず、途中で置いて来た。



『ぷるぷるっ……(←萎んでやつれる)』

『ウォンッ……(へたばる)』



スライムは熱に弱いために火山に辿り着いた途端にプルリンは萎んで小さくなってしまい、このままでは蒸発して消えかねないので連れて行く事はできなかった。白狼種のビャクも寒さには強いが暑いのには弱いのでプルリンと共に火山の麓で皆の帰りを待っていた。


二人が心配なのもあってナイはドゴンにビャクとプルリンの元に戻る様に指示すると、ドゴンはアルトに伺うように顔を剥ける。するとアルトはナイの代わりに命令を与える。



「ナイ君の言う通りにしてくれ。麓まで降りてビャク君とプルリン君の面倒を見てくれ」

「ドゴン!!」

「……あくまでも命令に従うのはアルト王子だけなんですね」



ドゴンはゴーレムではあるが明確な意思を持ち、アルトの命令だけは素直に従う。ドゴンは巨大な火属性の魔石の原石を持ち上げて麓にまで降りていくのを確認すると、アルトは他の者に声をかけた。



「僕達もある程度の魔石を採掘したら帰ろう。ここに長居するのは危険な気がする」

「そうですね、ですけど報告によればこの火山に火竜以外の魔物が住み着いたと聞いてますが……今の所は見当たりませんね」

「あれ?そういえば……」

「……この熱で魔物達も逃げたとか?」



ヒイロは火山に到着した時から報告にあった魔物の姿が見えない事に疑問を抱き、結局は火口にまで辿り着いたにも関わらずにそれらしき魔物の姿は見えなかった。

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