特別編第7話 《再びグマグ火山へ》
「それにしても新型の飛行船……凄いですね、名前はあるんですか?」
「う、うむ……国王が亡くなった王妃様が名付けたフライングシャーク号をもじってスカイシャーク号と名付けたぞ」
「スカイシャーク号……」
新型の飛行船は国王の提案で「スカイシャーク号」という名前が付けられ、旧式と同様に新型の飛行船も鮫の姿をした塗装が行われる。
スカイシャーク号は旧来のフライングシャーク号と異なり、空を移動するだけではなく、戦闘にも利用できるように色々と改造が施されている。鮫の模様の口元の部分には魔導大砲が設置されており、正面からの敵を攻撃できるようになった。
この魔導大砲はかつてフライングシャーク号がゴブリンキングに襲われた時、イリアはまた飛行船が大型の魔物に襲われた時を想定して設計した兵器である。砲弾の代わりに魔石を発射するためにかなりの出費だったが、これを使えばゴブリンキングのような怪物にも確実に致命傷を与えられる。
「前に空賊に襲われた事もあったからな。空を移動するとはいえ、決して安全とは限らんから色々と機能を搭載しておるぞ」
「それで完成まで時間が掛かったんですか?」
「うむ……予定よりも大分遅れてしまったが、これで魔力の調整が上手くいけば今度こそ飛ばす事ができるはず」
新型の飛行船は当初は1年で製作される予定だったが、予想以上に時間が掛かってしまった。その分に旧式の飛行船よりも性能面は高く、仮に大型の魔物が現れても対処できる兵器が搭載された。
「この飛行船ならばゴブリンキングやゴーレムキングだろうと戦う事ができる。まさか生きている間にこれほどの乗り物を作り上げる事ができたのは技師冥利に尽きるのう」
「飛行船を動かすのに必要なのは魔石だけなんですね」
「うむ、後は火属性の魔石を火竜の経験石に送り込む調整だけじゃからな。尤もその調整が一番難しいが……」
この世界の飛行船は浮上する際は風属性の魔石を利用して「風力」で船を浮かせ、その後は飛行船の内部に搭載した火竜の経験石を動力源として利用し、飛行船の後部に搭載された噴射機から火属性の魔力を放出させて加速する。
細かい調整は難しいが飛行船はこの世界においては最速の乗り物である事は間違いなく、飛行船を利用すれば王都から遠く離れたアチイ砂漠まで数日で到着できる。仮に馬で移動すればアチイ砂漠まで数か月の時は掛かるが、飛行船ならばたった数日で辿り着けるという話にナイは驚きを隠せない。
「飛行船……早く乗りたくなってきました」
「ならば頑張ってグマグ火山から火属性の魔石を取ってきてくれ」
ナイの言葉にハマーンは笑みを浮かべて彼の肩を叩き、ナイは一刻も早く飛行船を動かすために飛行船の燃料に必要な火属性の魔石の回収の準備を行う――
――翌日の早朝、ナイはビャクの背中に乗ってグマグ火山へと向かう。彼以外にも白狼騎士団のミイナとヒイロ、そして何故かアルトも同行していた。彼は先日に古城内で発見された「巨像兵」のドゴンに乗り込んで後に続く。
「ドゴンッ、ドゴンッ♪」
「おっとと……ドゴン、外に出れて上機嫌になったのは分かるがもうちょっとゆっくり歩いてくれ」
「すっかりアルトに懐いたね」
「ぷるるんっ」
今回の旅にはアルトも「ドゴン」と名付けた巨像兵を連れて同行し、このドゴンはアルトの王家のペンダントを装着した事で完全に彼の僕と化した。
白狼騎士団は他の騎士団と比べて人数が少ないために戦力が低いと思われていたが、この巨像兵が追加された事で他の王国騎士団にも劣らぬ戦力と化す。それに人造ゴーレムであるドゴンならば人間にとっては過酷な環境のグマグ火山でも問題なく行動できる。
ちなみに今回の面子はアルトと白狼騎士団の他に黄金級冒険者のリーナも加わり、彼女は自然にビャクに乗り込んだナイの背中に抱きつく。以前よりもリーナはナイに積極的に接しており、彼に後ろから抱きついて胸を押し付けてくる。
「ナイ君、アチイ砂漠には観光名所もあるみたいだよ。もしも大型の魔物を倒して時間が余ったら一緒に見に行かない?」
「う、うん……あの、リーナ。さっきから胸が……」
「き、気にしなくていいよ。落ちないようにしっかりと抱きつかないとね……」
ナイに指摘されたリーナは頬を赤らめながらも彼から離れず、胸を押し付けてくる。ナイはリーナの行動に戸惑うが拒否する事はできず、改めて彼女の事を女の子だと意識してしまう。
今現在のナイはリーナとモモから好意を伝えられたが未だに二人とも返事ができていない。ナイにとってはモモもリーナも大切な存在で選びきれず、むしろ二人もナイの気持ちを理解して敢えて返事をはっきりと聞かない節もあった。
※ビャク「ウォンッ(人の背中でいちゃつかれると困る……)」(´・ω・)
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