特別編第6話 《新型飛行船》

「さてと……そろそろ戻ろうか」

「ウォンッ!!」



ビャクと共にのんびりと過ごしたお陰で少しは気が晴れたナイは起き上がると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「あ、ここに居ました!!ナイさ〜ん!!」

「やっと見つけた……ずっと探してた」

「えっ?ヒイロにミイナ?どうしたの急に……」

「ウォンッ?」



ナイが声のする方向を振り返ると白馬に跨ったミイナとヒイロの姿が視界に入り、どうして仕事中の二人が王都の外にまで出向いているのかと疑問を抱く。


二人は白馬から降りるとナイの元に駆けつけ、若干興奮した様子でヒイロはナイの腕を掴む。ヒイロの行為にナイは戸惑うが彼女は焦った様子で話しかける。



「ナイさん、急いで工場区の方に来て下さい!!」

「ど、どうしたの急に?」

「ハマーン技師がナイを呼んでる。飛行船を飛ばすのにどうしてもナイの力が必要みたい」

「僕の……?」

「ウォンッ?」



二人の話によると現在は工場区に働く鍛冶師の代表となったハマーンがナイを呼び出したらしく、何が何だか分からないがナイは二人に付いて王都へと戻る――






――工場区内に存在する造船所には飛行船「フライングシャーク号」と、新型の飛行船が並んでいた。新型の飛行船はフライングシャーク号と同程度の大きさだが、違いがあるとすれば新型の飛行船には砲台が設置されていた。


新型の飛行船の名前は「スカイシャーク号」と呼ばれ、こちらもフライングシャーク号と同様に外見は鮫の形を模している。大きな違いがあるとすれば鮫の口元の部分には砲台が設置され、こちらにはイリアとハマーンが作り出した「魔導大砲」という兵器が搭載されている。


魔導大砲は魔石を砲弾として発射する兵器だが、新型の飛行船には大型の魔導大砲が搭載されており、空の上から攻撃する事が可能だった。魔導大砲の威力は上級砲撃魔法にも匹敵するため、凄まじい破壊力を誇るので魔物退治に役立つと思われた。


ナイが案内されたのは造船所の新型の飛行船の甲板でそこには既にハマーンが待ち構えていた。彼はナイが訪れると困った表情を浮かべて話しかける。



「おう、やっと来たか坊主……実は困った事が起きてな、坊主に力を貸してほしいんだ」

「困った事……ですか?」

「ああ、お主の力を借りたい。というよりもお主の力がどうしても必要なんじゃ」



ハマーンの言い回しにナイは不思議に思ったが、とりあえずは彼からは話を伺う。ハマーンは最初に新型の飛行船の完成が間近な事を説明した。



「この新型の飛行船は旧式の飛行船の構造を把握して俺なりに改造を加えて作り上げた飛行船なんだが、こいつの動力は旧式と同じく火竜の経験石を使ってる」

「前に僕達が倒した火竜の経験石を使ってるんですよね?」

「ああ、その通りだ。だが、旧式の方と比べて新型の飛行船の経験石は扱い方がちょっと難しくてな……火属性の魔力を送り込む調整が難しいんだ」

「はあっ……」



新型の飛行船は旧式の飛行船と同様に火竜の経験石を動力源として利用し、今現在は飛行船を動かすために必要な魔力を送り込む調整を行っている。しかし、想定以上に調整は難しくて上手くいっていない事をハマーンは伝える。



「この飛行船を動かすには大量の火属性の魔石が必要なんだが、うちの方は在庫が切れかかってるんだ。だから坊主にも新しい魔石を調達して貰いたくてな」

「えっ……魔石ですか?」

「ああ、ちょっと危険だが坊主にグマグ火山に向かって欲しい。あそこならもう火竜は存在しないから良質な火属性の魔石が取り放題のはずじゃ」

「グマグ火山……」



ナイはグマグ火山と言われてかつて王国騎士団とマジク魔導士と共に火竜やゴーレムキングと戦った火山である事を思い出す。前の時は火竜の生息地として火山の周辺には野生の魔物は見かけなかったが、移動の途中でゴーレムに襲われた事も思い出す。


ハマーンによれば現在のグマグ火山は火竜が死亡した事で火山周辺の生態系が変化したらしく、火竜の生存していた時は火山付近には魔物は殆どいなかったが現在は野生の魔物が住み着いて迂闊に近づけない状態になっているという。



「火属性の魔石を餌にしていた火竜がいなくなった火山なら火属性の魔石も取り放題じゃ。だが、今のグマグ火山には野生の魔物が出没するようになったから並の人間には任せられん。そこでお主に魔石の採取を頼みたい」

「それはいいですけど……僕一人で向かうんですか?」

「いや、我が弟子……アルト王子から許可は取ってある。白狼騎士団とリーナの協力は取り次いでおる。ついでに他にも何人か同行させるらしいから安心してくれ」

「ああ、なるほど。そういう事ならいいですよ」



既にアルトにも話を通っている事を知ったナイはそれならば問題ないと思い、ハマーンの頼みを引き受ける事にした。

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