特別編第5話 《王国と巨人国》
「恐らくは陛下の目的は王国軍が土鯨の討伐を果たした場合、巨人国としては自国の領地内に発生した魔物を他の国の軍隊の力を借りて討伐した事になります。そうなれば巨人国の沽券にかかわります」
「うん……それが大問題なんですよね」
「そうですね、自国の問題を他の国に解決してもらうなんて恥でしかありません。しかし、これがあくまでも協力体制を敷いた上での行動ならば話は別です。あくまでも他国の力を借りただけならば面子は保てますし、それに竜種級の魔物ならば複数の国家が力を合わせて対処する事は珍しくもありません。重要なのは両国の軍隊の片方だけが魔物の討伐を果たさなければいいという事です」
今回の問題は土鯨の討伐の際に両国の軍隊がどのように動くかであり、仮に王国軍が単独で動いて土鯨の討伐に成功すれば巨人国側は自国の領地の問題を王国軍に解決してもらった事になる。
当然だが他国の軍隊が他の国の領地に出向いて問題を解決したとなれば巨人国の面子は丸潰れとなって他の国から侮られてしまう。巨人国は自国の問題を解決できずに他国に力を借りて助けてもらったなどと他の国々に知られれば大問題になってしまう。
「巨人国側としてはなんとしても自分達の国の軍隊だけで土鯨の討伐をしようと試みるでしょう。しかし、王国にわざわざ魔石の提供を申し込んできた以上はあちらも土鯨の討伐に関しては上手く進んでいないようですね」
「じゃあ、国王陛下が軍隊を派遣する理由は巨人国の軍隊が土鯨を討伐する前に王国軍だけで土鯨を討伐させるためなんですか?」
「そういう事になりますね。勿論、他にも色々と理由はありますよ。例えば魔石を提供したしても巨人国軍が土鯨を発見して討伐するまでの間、ずっと王国は魔石を提供し続けなければなりません。そうなると王国としても出費が重なりますし、それに巨人国側が本当に土鯨の討伐に積極的なのかどうか見極める必要があります」
「見極める?何を?」
「巨人国側がわざと土鯨の討伐を行わず、王国から砂船を動かすための風属性の魔石だけを回収していないかどうかを確かめるんですよ」
「…………」
イリアの話を聞いてナイはそんな事があり得るのかと思い、既に土鯨のせいで大型の砂船が破壊されて船員もたった一人を除いて皆殺しにされた。そんな状況にも関わらずに巨人国側は今回の問題を利用して王国から魔物の討伐という大義名分の元で魔石を提供してもらうなど有り得るのかと思った。
しかし、国の問題というのは簡単な話ではなく、王国側としても巨人国軍が土鯨を確実に討伐できる保証がなければ延々と魔石を提供し続けるわけにもいかない。そこで国王はアチイ砂漠の現状と巨人国の問題を解決して恩を売るために軍隊を派遣する事を決意する。
「王国側として一番に都合がいいのは飛行船を利用してアチイ砂漠に生息する土鯨を発見し、巨人国軍の力を借りずに討伐する事です。勿論、表向きは両国の軍隊が協力して倒した事にして巨人国の国としての面子を守ります。そうすれば他の国々に巨人国が侮られる事はありませんし、巨人国にも大きな恩を売って今後の両国の関係は王国が優位に立つでしょう」
「なんか……政治って難しい話だと思いました」
「善意だけでは政治は治められません、ナイさんにとっては世知辛い話ですけどね」
今回の国王の提案した軍隊の遠征は決して巨人国を救うためだけの考えではなく、あくまでも自国が他の国の優位に立つための援軍派遣という事になる。それでもアチイ砂漠に現れた土鯨が脅威の存在であるため、それを取り除けば大勢の人間を救う事に繋がるのも事実だった――
――イリアとの話を終えた後、彼女の魔道具の実験は延期となった。イリアもこれから色々と忙しくなるらしく、ナイは今日の所は城を後にしてビャクと共に王都の外へ出向く。
悩み事がある時はナイはビャクを連れて王都の外に赴き、誰も人がいない場所でビャクと共に過ごす事が多い。昔と違ってナイの周りには大勢の人間がいるため、こうしてビャクと二人きりでいる時間は最近は滅多になかった。
「何だか……やるせないな」
「ウォンッ?」
草原にてナイは寝そべったビャクに背中を預けて空を見上げ、今回の王国軍の遠征に関して色々と考える。当然ではあるが今回の土鯨の討伐にはナイも援軍として派遣される事は確定していた。
イリアと話す前は巨人国の領地で危険な魔物が現れ、その討伐のためにナイは全力を尽くすつもりだった。しかし、国同士の関係と問題を聞かされた後になるとナイはどうにもやるせない気持ちを抱く。
最初はアチイ砂漠に王国軍が派遣されるのはアチイ砂漠に暮らす人々を脅かす危険な魔物を排除し、大勢の人間を救うための作戦だとナイは信じていた。だが、イリアの話を聞かされた後だと複雑な思いを抱く。
(結果的には人を救う事には違いないのは分かってるけど……何だかなぁっ)
国同士の思惑はどうであれ両国の軍隊がアチイ砂漠の魔物の討伐に出向く事は事実であり、仮に魔物の討伐に成功すればアチイ砂漠に暮らす大勢の人々は救われる。そう考えれば少しは気が晴れる気がした。
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