特別編第4話 《土鯨》
「陛下は飛行船を利用してアチイ砂漠に向かい、そこで巨人国の軍隊と合流して砂船を動かすのに必要な風属性の魔石を渡します。巨人国では風属性の魔石は簡単には手に入りませんからね、だから王国の協力が必要なんです」
「そうなんだ?」
「アチイ砂漠を越えるためには砂船はどうしても欠かせない乗り物なんです。だから王国から風属性の魔石を定期的に提供してもらってたんですが、砂船を作り出すために必要な特殊な木材は巨人国でしか入手できません。つまり、アチイ砂漠に暮らす人々の生活を支えているのは王国と巨人国というわけです」
「へえ、砂船か……」
イリアによればアチイ砂漠は過酷な環境下ではあるが大勢の人間が暮らしており、彼等の生活を支えているのは「砂船」を利用した商業だと語る。本来は人が暮らすには厳しい環境のアチイ砂漠ではあるが、砂船を利用する事で王国と巨人国の商業を支える事で砂漠の人々は生活を保っていた。
王国と巨人国としても砂船のお陰で両国の商業が捗り、そのお陰で二つの国は友好的な関係を築く事ができた。しかし、アチイ砂漠に現れた魔物が再び両国の商業を繋ぐ砂船を破壊されればどちらの国にも大きな被害を被り、砂漠の人々も危険に晒される。だからこそアチイ砂漠に現れた「土鯨」を放置する事はできない。
「土鯨を確実倒すには王国と巨人国が力を合わせる必要があります。両国は同盟国同士ですし、お互いに力を合わせるのは当然なんですが……」
「何か気になるんですか?」
「今回の国王の申し出をあちらが受け入れるかどうかですね。アチイ砂漠は基本的には巨人国の領地として扱われています。アチイ砂漠に暮らす人々も巨人族が大半を占めていますし、仮に王国の軍隊を派遣すれば巨人国側も警戒するでしょう」
「あ、なるほど……」
表向きはアチイ砂漠は巨人国の領地として扱われているため、仮に王都から飛行船で王国の軍隊を乗せて移動する場合は巨人国の領地に他国の軍隊が介入する事になる。
王国と巨人国は同盟国ではあるがそれでも他の国の軍隊を巨人国側が受け入れてくれるかどうかは分からず、しかし砂船を動かすためには王国側の協力は必要なのでイリアの見立てでは十中八九は巨人国側も王国軍の介入を認めると考えていた。
「アチイ砂漠では王国軍と巨人国軍の共同で土鯨の捜索を行い、討伐を開始する事になるでしょう。ですけど、協力すると言っても安心できませんね」
「どうしてですか?二つの国の軍隊が力を合わせれば問題だってすぐに解決できそうですけど……」
「そんな簡単にいけばいいですけどね。今回の土鯨の討伐は両国の軍隊の競争となります。表向きは共同で動くかもしれませんが、王国軍も巨人国軍もお互いの力を借りずに土鯨を討伐しようとするでしょう」
「えっ!?でも、一緒に協力した方がいいはずなんじゃ……」
イリアの言葉を聞いてナイは不思議に思うが、今回の事態は国の面子が関わる事をイリアは予測していた。重要なのはアチイ砂漠が巨人国の領地である事が問題な事を説明する。
「アチイ砂漠は仮にも巨人国の領地ですよ?そんな場所に他国の軍隊が入り込んでしかも問題を引き起こした土鯨を討伐したらどうなります?巨人国は自国の領地の問題を他国に解決された事になって面子を潰されます」
「あ、なるほど……確かにそれは問題そうですね」
「問題どころか大問題ですよ。だから巨人国側も今回の協力の要請はあくまでも風属性の魔石を王国側から提供してほしいと伝えたんです。ですけど、陛下は王国軍を派遣する事にしました。その理由は分かりますか?」
「えっと……」
ナイはイリアの話を聞いてどうして国王はわざわざ王都の戦力を割いて大量の魔石を消費する飛行船も利用し、アチイ砂漠に軍隊を向かわせて土鯨を討伐させようとする理由を自分なりに考える。
最初に思いついたのは「土鯨」の存在を恐れて確実に倒すためではないかとナイは考えた。土鯨を放置すれば両国の生産物を運び出す砂船が危険に晒され、そうなれば両国の商業が上手くいかずに結果的にどちらの国も大きな被害を被る。しかし、それだけが軍隊を派遣する理由になるとはナイは思えなかった。
イリアの話を思い返しながらナイはアチイ砂漠が巨人国の領地である事を思い出し、もしかしたらだが巨人国の領地で起きた問題を王国軍が解決する事で王国は巨人国に大きな貸しを作る。そう考えると今回の遠征の目的は王国が巨人国の優位に立つための作戦ではないのかとナイは悟った。
「もしかしてですけど……土鯨を討伐する事で王国は巨人国に貸しを作るためですか?」
「だいたい合ってますね。補足すると陛下の目的は巨人国に恩を売って今後の両国の関係を王国側が優位に立たせようとしてるんですよ」
ナイの予想は的を得ていたのかイリアは拍手を行い、彼の考えた内容は間違ってはいないこと細かい説明を付け加える。国王がわざわざ王都の軍隊を派遣する最大の理由は巨人国に恩を売る事で両国の関係を改善するためだとイリアは告げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます