特別編第3話 《両国の脅威》

――アチイ砂漠にて巨人国からの積荷を運んでいた砂船が超大型の魔物に襲われてから時は流れ、巨人国はアチイ砂漠に出現した魔物の対処を余儀なくされた。


先に対応したのは巨人国の軍隊であり、巨人族用に設計された特別な大型砂船に乗り込んで軍隊は魔物の捜索を行う。しかし、一週間も捜索したが魔物の姿は発見されずに軍隊は引き返す。


砂船は普通の船とは違って動かすだけでも風属性の魔石を消費してしまうため、これ以上の捜索に風属性の魔石を無駄にすれば巨人国は大きな損害を被る。そこで巨人国側は王国側に協力を要請して風属性の魔石の提供を求める。


王国側としても巨人国との国交を脅かす魔物は無視できず、すぐに王都まで連絡が届くと国王は巨人国側の要求を呑む。さらに彼は自国の飛行船を動かして援軍をアチイ砂漠に送り込む事を決意した。



「アチイ砂漠?」

「そう、ふざけたような名前ですけど大陸内で最も過酷な環境で有名な場所なんです」



ナイは王城の魔道具の研究室にてイリアからアチイ砂漠で起きた出来事を知る。ちなみにナイがイリアの元に訪れたのは彼女の研究の手伝いをする約束をしていたからだった。



「私に聞いた事は内緒にしてくださいね、アチイ砂漠に起きた出来事はまだ一般人にも発表していませんから」

「はあ……それでアチイ砂漠に現れた魔物はなんていう名前なんですか?」

「魔物に襲われた砂船の残骸から奇跡的に生存者が発見されたんです。名前は確か、エイバノという老人ですね。その人以外は全員死んじゃったそうです」

「そ、そうなんですか……」

「エイバノという小髭族のお爺さんによると砂船を襲ったのは巨大な鯨のような姿をした魔物です。しかも全身がゴーレムのような外殻に覆われた超巨大生物らしいです。前にグマグ火山で現れたゴーレムキングよりも巨大な魔物だそうですよ」

「巨大な魔物……」



グマグ火山に出現したゴーレムキングは火竜をも圧倒する戦闘力を誇り、マジク魔導士の犠牲はありながらも倒す事ができた。だが、アチイ砂漠に出現した鯨のような姿をした超大型の魔物はゴーレムキングをも上回る巨躯の怪物だとイリアは語る。


イリアが聞いた情報は巨人国から派遣された使者からの話で少なくともイリアの目には使者が嘘を吐いているようには見えなかった。そもそも嘘を吐くのならばもっとマシな嘘を吐くはずであり、仮にも伝説のゴーレムキングをも上回る魔物が突然現れたといっても信じ切れるはずがない。


しかし、近年では火竜の復活やゴーレムキングの誕生、他にも様々な魔物の事件が多発している事もあるために国王は話を信じた。そして巨人国に協力する事を約束し、現在の新しい飛行船を利用してアチイ砂漠に軍隊を派遣する事を約束した。



「国王様も人が良いですよね、わざわざアチイ砂漠にまで出向いて魔物退治なんて……まあ、巨人国との国交のためには流石に放置はできませんね」

「イリアさんは魔物の心当たりはないの?」

「砂漠を泳ぐ鯨の魔物なんて聞いた事もありませんね。あ、でも古城に残っていた死霊の中に数百年前から伝わる伝説の魔物の図鑑があったんですよ。その中に確か砂鮫よりも巨大な魔物も描かれていたような……名前は確か、土鯨ですね」

「土鯨?」

「文字通りに土色をした鯨ですよ。まあ、実際の正体はゴーレムと大して変わりはありませんけどね」



イリアは古ぼけた書物を取り出すとそこには数百年前までは伝説として語り継がれていた魔物の資料がまとめられていた。どうやらこの本が魔物図鑑と呼ばれる代物らしく、図鑑には土鯨に関する詳細な情報も記されていたが、かなり古い書物なので所々汚れたり破れていて読めない箇所もあった。



「この図鑑に記されている魔物の殆どは大昔に存在だけは語り継がれましたが、今の時代には既に絶滅したと考えられている魔物が記されています。だから現在の時代には語り継がれていないし、私も土鯨なんて魔物は初めて知りましたよ」

「へえっ……」

「ですけど、和国を滅ぼした緑の巨人……なる存在はこの図鑑には記されていませんでしたね。恐らくは和国が滅ぼされる前の時代に記されたんでしょう」

「ダイダラボッチ……」



ナイは旧和国の領地で山の中に封じ込められていた超大型の人型の魔物を思い出す。外見はゴブリンキングと酷似しているがその体躯は桁違いに大きく、胸元の部分に巨大な剣のような建造物が突き刺さっていた。今現在は土砂で封じ込めているが、未だにあの場所は危険区として一般人の立ち入りを禁止している。


ダイダラボッチに関しての資料は記されていないが図鑑には土鯨なる存在が描かれ、使者からの話を聞いた限りではイリアはアチイ砂漠に現れた魔物の正体はこの図鑑に記された土鯨ではないかと考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る