特別編第2話 《砂漠に現れた脅威》
砂船の後方の異変に気付いたのは船の後部にて新しい風属性の魔石を運んでいた船員だった。この船員は最近に入ったばかりの船員であり、彼は船の後方から何かが近付いてくるのを見て驚きの声を上げる。
「せ、先輩!!後ろから……船の後ろから何かが近付いてきます!!」
「何だとっ!?魔物か?」
「わ、分かりません……でも、どんどん近付いています!!砂の中を潜ってるみたいです!!」
新入りの船員の言葉に他の者たちも異変に気付いて船の後方を確認する。すると確かに砂煙を舞い上げながら砂中を移動する存在を確認した。
砂船は後部にも風属性の魔石を搭載しており、魔石を利用して風圧を発生させる事で移動を行う。つまりは後方に移動すれば風圧によって大量の砂が舞い上げられるため、やがて砂の中に潜り込んでいた存在が風圧によって砂をかき分けられて姿を現す。
『シャアアアアアッ!!』
「ひいいっ!?」
「な、何だぁっ!?」
「こ、こいつは……砂鮫だぁっ!?」
姿を現したのは海に生息する「鮫」のような形をした魔物だった。この砂漠に生息する固有種の魔物の1体でもあり、名前は「砂鮫」と呼ばれる魔物である。
砂鮫は名前の通りに鮫のような外見をしているが実際の所はゴーレムと同様に全身を砂や砂利で練り固めた外殻で覆われている。普通の鮫よりも一回り程は大きく、ゴーレムと異なる点は体内ではなく額の部分に核が存在した。
「せ、船長!!砂鮫です!!砂鮫の群れが船に……!!」
「何だと!?そんな馬鹿な……」
基本的には砂鮫は狂暴な種ではあるが基本的には臆病な性格で自分達よりも大きい存在には手を出す事はない。従って砂船などの大型船には近づく事もないのだが、何故か砂鮫は船の後を追いかけてきた。
鈍重なゴーレムと違って砂鮫は砂漠ではまるで海を泳ぐ鮫のように移動する事ができる。彼等の核は良質な地属性の魔石であるため、学者は砂鮫は地属性の魔石の力を利用する事で砂の中を自由に移動できるのではないかという説もある。
「船長!!どんどんこっちに近付いています!!このまま街に戻ると大変な事に……」
「ちっ……おい、誰か運転を代われ!!」
「うわわっ!?」
エイバノは自分の目で確かめるために傍に立っていた船員に舵を任せると自分は船の後部に移動する。いったい何が起きているのか自分の目で確かめるために彼は船の後部を確認すると、それを見たエイバノは違和感を覚えた。
(何だこいつ等……船を襲う様子がないぞ)
砂船の後を追いかける様に現れた砂鮫の群れであったが何故か船との距離が縮まっても襲い掛かる様子はなく、それどころか船を避けて先に進む個体も存在した。その事に違和感を覚えたエイバノは船員に命じる。
「確かこいつらは地属性の魔石が好物だったな……おい、積荷の中に魔石があっただろう。それを一つ投げ落とせ!!」
「えっ!?いいんですか?大切な荷物を……」
「依頼人には俺が説明しておく!!いいから早く投げやがれ!!」
「は、はい!!」
エイバノの命令を受けて船員の一人が積荷の中から魔石が入った木箱を持ち出すと、中に入っていた地属性の魔石を取り出す。それをエイバノの言われた通りに砂鮫の群れに向けて投げ飛ばす。
砂鮫にとっては地属性の魔石は大好物で普通ならば魔石を目にした瞬間に嚙り付く。しかし、何故か砂鮫の群れは投げ込まれた地属性の魔石を無視して移動する。
「あ、あれ!?食いつかない……」
「そんな馬鹿な、奴等が魔石に反応しないなんて……」
「こいつは……俺達を追いかけているんじゃない!!見ろ、自分達の方から避けていきやがる!!」
船員は地属性の魔石に反応しない砂鮫の群れに戸惑うが、エイバノはいち早く砂鮫の狙いが船ではない事に気付く。そして彼の言う通りに砂鮫の群れは船を通り越してしまう。
「せ、船長!!奴等何処かへ消えましたよ!?」
「た、助かったのか……」
「……いや、違う。あいつらは逃げたんだ」
「逃げた?俺達の船からですか?」
エイバノの言い回しに船員達は疑問を抱くが、彼は顔色を青ざめて砂鮫の群れが逃げた方向と逆方向に視線を向ける。そんな彼の態度に他の船員も振り返ると、そこには一際大きな砂丘が存在した。全員が視線を向けた途端に砂丘の内部から巨大な物体が出現した。
――オアアアアアアッ!!
広大な砂漠におぞましい鳴き声が響き渡り、砂丘を崩壊させて姿を現したのはかつてナイ達が退治した「ゴーレムキング」をも上回る巨体の怪物だった。その外見は「鯨」を想像させ、全身がゴーレムや砂鮫のように土色の外殻に覆われていた――
――後日、街に戻る予定だったはずの砂船が戻ってこず、疑問を抱いた街の人間は調査を行う。そして彼等は砂漠の中に無惨にも破壊された砂船の残骸と船員の死体を発見した。
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