外伝第9話 巨像兵
「こ、これはいったい……ま、まずい!?」
「王子!?」
「早く離れてください!!」
アルトのペンダントはオリハルコンの巨像の額に嵌め込まれ、それを見たドリスとリンはアルトを離れさせる。額にペンダントが嵌め込まれた瞬間に巨像が徐々に震え出し、やがて兜の目元の部分が青く光り輝く。
「ドゴォオオンッ!!」
『うわぁあああっ!?』
巨像兵が動き出したのを見て宝物庫の前に集まっていた騎士達は悲鳴を上げ、即座に武器を抜いて巨像兵と向かい合う。
額に王家のペンダントを嵌めた事で巨像兵は起動したらしく、ゆっくりとアルトの方に視線を向けた。この時にアルトは骸骨騎士の事を思い出し、全員下がらせて自分が対応する事を告げる。
「皆、下がるんだ!!これは王家が作り出した物ならば僕を襲わない可能性もある!!」
「で、でも外にいた人造ゴーレムはアルト王子を襲いましたよ!?」
「……お、襲われそうになった時は助けてくれ」
骸骨騎士は王族には手出しできないように仕込まれていたが、王城を守護していた人造ゴーレムの類はアルトを相手に容赦なく襲い掛かった。しかし、この巨像兵が保管されている場所は王城内の宝物庫であり、外で古城を守っていた人造ゴーレムとは形も役目も異なる。
恐らくはこの宝物庫の守護役として放置されていたと思われる巨像兵に対してアルトは近づき、敵意がない事を示すために両腕を広げる。するとアルトを見た巨像兵は動きを止め、しばらくの間はじっと彼を見つめて動かなくなった。
「ドゴンッ……」
「……ぼ、僕は君達を造り出した王族の子孫だ。言葉は……分かるかい?」
「ドゴンッ……?」
アルトの言葉を聞いて巨像兵は首を傾げ、その様子を見てどうやらある程度の意思疎通はできるらしく、巨像兵は額に嵌め込まれたペンダントに触れてアルトを見下ろす。
「ドゴォンッ……」
「こ、これは……」
「ひ、跪いた!?」
巨像兵は何かを察したようにアルトの前に跪くと、その光景を見ていた者達は驚く。一方でアルトは巨像兵の額に嵌め込まれた自分のペンダントを確認してある推論を立てる。
「ど、どうやら僕のペンダントの魔力で動いているようだ。そのペンダントには僕の魔力が宿っているはずだからね、きっとそれで僕を主人か何かだと思っているんだろう」
「えっ……アルトのペンダントは魔石なの?」
「正確に言えば聖光石と呼ばれる魔水晶だよ。伝説の聖剣エクスカリバーにも使用されている魔水晶だ」
王国の王族だけが所持を許されるペンダントは「聖光石」と呼ばれる希少な聖属性の魔水晶であり、アルトは自分が所有するペンダントの魔力を吸い上げて巨像兵が動き出したと予測する。
アルトのペンダントには彼の魔力も混じっており、そのために巨像兵はアルトを自分の主人だと思い込んだらしい。恐らくは他の王族がペンダントを嵌めればその人物に従うと思われ、とりあえずは危害を与える様子はない事にアルトは安心した。
「ちょっと君……名前がないと不便だな。ドゴン君と呼んでいいかい?」
「ドゴンッ」
「う、頷いた……」
「こちらの言葉を理解できるようですわね……ちょっと可愛く見えてきました」
あまりの巨体に圧倒されるが巨像兵はアルトの言葉に素直に従い、とりあえずは独特な鳴き声をする事からアルトは「ドゴン君」と呼ぶことにした。
ドゴンはアルトの言葉を理解し、彼の指示に対しては絶対忠実に行動する。試しにアルトがいくつかの命令を与えるとドゴンは素直に従い、アルトの意思で自由に動かせる様子だった。
「どうやら完全に僕の言う事なら何でも聞くみたいだね」
「凄いです、アルト王子……ですけど、宝物庫の財宝は何処にあるんでしょうか」
「そこが一番気になる所だが……」
宝物庫の中には巨像兵のドゴン以外には特に何も見当たらず、宝物の類は保管されていなかった。ここまで来て何の収穫も無しとは拍子抜けしてしまうが、駄目元でアルトはドゴンに宝物庫にあった財宝の事を尋ねる。
「ドゴン君、君はここにずっといたんだろう?なら、ここにあった宝物は何処に移動したのか教えてくれるかい?」
「ドゴン?」
「宝物だよ、金貨とか魔石とか……何だったら武器でも防具でもいい。何か心当たりはないかい?」
「ドゴォンッ!!」
アルトの言葉を聞いてドゴンは自分の胸元を強く叩き、その行動を見てアルトは彼が何か知っているのかと思ったが、突如としてドゴンの胸元の部分が割れて左右に開かれる。
――ドゴンの胸元の甲冑部分が左右に分かれると、ドゴンの体内から大量の金貨や宝石が放出されて地面に散らばる。その光景を見たアルト達は唖然としてしまい、宝物庫の床に大量の金貨と宝石の山が出来上がった。
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