第017話 ゴーレムの襲来

感知能力に長けているはずのプルリンも嗅覚に優れているビャクも反応してはいないが、マホは何かを感じ取ったのか目を閉じて杖を掲げる。この時に彼女の耳が微かに動き、見えない誰かに話しかけられている様子だった。



「ふむっ……精霊が囁いておる、どうやら既に儂等は見つかっておるようだな」

「精霊、ですか?」

「あたしも感じるっす……風の精霊が警告してます」

「ほう、若いのにそこまではっきりと精霊の言葉を聞き取れるのか」



マホだけではなく、異変を感じ取ったのはエリナも同じらしく彼女は警戒心を抱いた様子で弓矢を構えた。しかし、ナイ達は精霊の言葉どころか存在も感じられないので戸惑う。


エルフであるエリナとマホは普通の人間には感じ取れない存在も感知する事ができるらしく、二人は「風の精霊」と呼ばれる存在から危険が迫っている事を教えて貰った様子だった。



「どうやら既に敵はここにおるようじゃな……」

「えっ!?ここに!?」

「ど、何処にいるのですか!?」

「落ち着け、騒ぐのではない。まずは周囲を観察するのじゃ」

「観察……」



マホの言葉を聞いてヒイロは慌てふためくが、ナイはマホの言う通りに「観察眼」の技能を発動させて周辺の様子を伺う。この時にナイは何時の間にか自分達が妙に瓦礫が多い場所を歩いている事に気付く。


迷宮都市の全域が廃墟が広がり、中には建物が崩壊した場所も多い。だからこそ街道に瓦礫が塞がっていても特におかしくはないのだが、この時にナイは瓦礫の中で奇妙な形をした物を見つける。



(あの瓦礫は……まさか!?)



咄嗟にナイは瓦礫の一つに狙いを定めて刺剣を引き抜き、剛力を発動させて瓦礫に目掛けて投擲する。この時のナイの行動に他の人間は驚くが、ナイが投げ放った刺剣は瓦礫に的中した瞬間に



「なっ!?まさかっ……」

「ナ、ナイ君!?急にどうしたの!?」

「どうして瓦礫なんかに短剣を……」

「そうか、そういう事だったか……お主等、不思議に思わんのか?ナイが投げたのはミスリル製の短剣じゃぞ。ナイの力ならば鋼鉄の塊であろうと突き刺さる……それなのに弾かれた」

「えっ……ま、まさか!?」



マホの言葉を聞いた者達は驚愕の表情を浮かべてナイが攻撃を仕掛けた瓦礫に視線を向けると、瓦礫だと思われた物体に人面が浮き上がり、やがて瓦礫は人型へと変形して立ち上がる。




――崩壊した建物の瓦礫に擬態してナイ達に待ち伏せていたのは人造ゴーレムである事が発覚し、マホ以外の人間はここで初めて人造ゴーレムの姿を確認する。




人造ゴーレムの外見はロックゴーレムやマグマゴーレムとは大きく異なり、全長は2メートル程度で並の人間よりは大きいが、巨人族と比べると随分と小ぶりだった。だが、普通のゴーレムと異なる点は全身が灰色で覆われており、一見すると岩の塊のように見えるがロックゴーレムのような土気色ではない。


しかも他のゴーレムと大きく異なる点は人造ゴーレムの両腕には刃のような物が収納されており、人造ゴーレムはナイ達に向かい合うと両腕から水晶のように光り輝く刃を取り出す。



「ゴルルルッ!!」

「くっ!?」



人造ゴーレムは自分に向けてミスリルの短剣を投げ飛ばしたナイを狙い、彼に目掛けて突っ込むと両腕から出現させた刃で切りつけようとしてきた。それを見たナイは咄嗟に背中の旋斧と岩砕剣に手を伸ばすが、その前にヒイロとミイナが動いた。



「危ない!!」

「ていっ!!」

「ゴガァッ!?」



ヒイロとミイナは人造ゴーレムの左右から各々の魔剣を放ち、ヒイロは烈火に炎を纏わせてミイナは如意斧の柄の部分を伸ばして叩き付ける。だが、二人の攻撃に対して人造ゴーレムは両腕の刃で容易く弾き返す。



「ゴルゥッ!!」

「きゃあっ!?」

「くぅっ!?」

「ミイナちゃん、ヒイロちゃん!!大丈夫!?」

「このっ!!喰らえっす!!」

「ふむ……スラッシュ」



簡単に人造ゴーレムはヒイロとミイナの攻撃を弾き返すと、それを見たエリナが咄嗟に矢を放つ。彼女の矢はエルマと同様に風属性の魔力を宿し、更にマホも彼女と同時に風属性の砲撃魔法を放つ。


風の魔力を纏った矢とかまいたちのように鋭い風の斬撃が人造ゴーレムの肉体に的中し、派手に人造ゴーレムは後方へと押し返される。しかし、エリナの矢もマホの攻撃魔法を受けても人造ゴーレムの肉体に傷はつかず、それどころか二人の攻撃を正面から打ち消す。



「ゴルルルッ!!」

「そ、そんな馬鹿な……マホ魔導士の魔法を受けて無傷だなんて!?」

「やはり、この程度の魔法は喰らわんか……」

「これが人造ゴーレム……強い」

「皆、退いてぇっ!!」



エリナとマホの攻撃を受けても無傷だった人造ゴーレムに対してティナが駆けつけると、彼女はプルリンを抱えた状態で正面に立つ。その直後に彼女は左右からプルリンを押し寄せると、プルリンは大量の水を人造ゴーレムに目掛けて吐き出す。

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