第016話 迷宮都市の古城

「――あれが古城、ですか」

「そうじゃ。この旧王都の象徴であり、かつては王国の王城じゃ」

「す、凄い……今の王都の王城よりも大きいのでは?」

「わあっ……すご〜い」



マホの案内の元、ナイ達は王城に向けて出発して遂に視界に王城が入る距離まで辿り着く。迷宮都市の王城は王都の王城と比べても壮大さを感じさせ、ナイがこれまでに見てきたどんな建造物よりも巨大な建物だった。


旧王都がまだ迷宮都市と呼ばれる前の時代、この都市には十万人を超える人間が暮らしていたと言われている。しかも暮らしていたのは人間だけではなく、多数の種族が暮らしていたいう。


魔物に滅ぼされる前はこの旧王都が王国の中心であり、巨大な城は王国の象徴その物だった。しかし、国の象徴だった城も現在は人間が居なくなった事で朽ち果てかけていた。



「儂の祖母によればかつてこの場所は世界で一番多くの種族が暮らす平和な場所だと聞かされておった。しかし、繁殖期を迎えた魔物の襲撃によって1年も持たずにこの王都は放棄されてしまったと聞いて居る」

「た、たった1年で……」

「昔の時代は今よりも魔物の対抗策が少ない時代だったからのう……ほれ、ここが教会じゃ。この場所だけは魔物が近付かないから身体を休める事ができるぞ」



古城への道中、マホは迷宮都市に存在する陽光教会の建物がある場所も案内してくれた。現在はこの建物に在中しているのはリーナと共に捜索に赴いた冒険者達であり、彼等も王都に帰れずに教会に引きこもっていた。



「今は皆は疲れて眠っているが、建物の中にはリーナと同行した金級冒険者が数名休んでおる。彼等も二人を助けようと古城の周辺を捜索しておったが、流石に体力の限界を迎えて今は休ませておる」

「そうだったんですか……」

「そうそう、冒険者の中には儂の弟子のガロもおるぞ。覚えておるか?」

「えっ……ガロ君?」



マホによると今回の迷宮都市の魔物の生態系の調査にはガロも参加していたらしく、なんと彼は何時の間にか金級冒険者にまで昇格を果たしていた。冒険者になったばかりの頃は問題ばかり起こしていたが、他の冒険者と接して行動するようになってから人間的に成長し、そして現在では見事に金級冒険者にまで昇格を果たしたという。


ナイはガロと初めて会った時から一方的に突っかかってこられたが、ガロは会う度に確かに人間的に成長しており、そんな彼が今では金級冒険者に昇格したという話を聞いて少し嬉しく思う。



「あのガロ君が金級冒険者か……凄いですね」

「うむ、冒険者活動を始めてから1年そこらで金級冒険者に昇格を果たす者はそうはいない。あのリーナでさえも金級冒険者になるまでは2年もかかった聞いておるからな、流石は我が自慢の弟子じゃ」

「そ、それは凄いですね……たった1年で金級冒険者になるなんて……」

「でも、リーナさんは子供の時から冒険者だったんですよね?なら、子供の時にたった2年で黄金級まで上り詰めたリーナさんの方がまだ凄いんじゃないすか?」

「むうっ……それを言われるとな」



ガロは約1年で金級冒険者に昇格したが、リーナの場合はまだ12才の時に冒険者になって2年で金級冒険者に昇格を果たした。ガロの年齢はナイと同い年なので彼は16才で金級冒険者に昇格した事になる。



「そういえばエルマさんとゴンザレス君は元気ですか?最近は二人とも姿を見なかったような……」

「エルマは今は聖女騎士団に正式に復帰し、ある任務に取り掛かっておる。ゴンザレスは武者修行に出ておる。3人共もう儂が面倒を見る必要はないほどに立派に成長した……少し、寂しい気はするがな」

「そうだったんですか……」

「どうじゃ?お主等も儂の弟子にならんか?今ならば歓迎するぞ」

「えっ!?マジっすか!?魔導士様の弟子にしてくれるんですか!?」

「はははっ、冗談じゃ」



マホはずっと自分に付き従っていた3人の弟子達が独り立ちした事に寂しく思い、半ば冗談でナイ達に弟子の勧誘を行う。だが、会話の途中でマホは何かに気付いた様に足を止め、彼女は杖を天に翳す。



「待て……これはまずいな、風の精霊が騒いでおる」

「えっ……精霊?」

「あ、兄貴……まずいっす、あたしも嫌な予感がします」

「どうしたんですか急に?」

「何か感じるの?」



急に立ち止まったマホは杖を空に掲げて眉をしかめ、彼女の隣を歩いていたエリナも何かに勘付いた様に弓矢を構える。しかし、他の者達は特に怪しい気配など感じず、慌ててティナは自分が抱えていたプルリンに尋ねる。



「え、えっ?プルリンちゃんは何か感じる?」

「ぷるんっ?」

「ビャク、臭いは?」

「スンスンッ……クゥ〜ンッ?」



ナイはビャクに臭いを探らせるが、彼も特に怪しい臭いも気配も感知しない。しかし、エルフであるマホとエリナだけは何かを勘付いたように臨戦態勢へと入ると、他の者たちも二人の反応を見て只事ではないと判断して一か所に集まって警戒した。

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