第014話 迷宮都市の安全地帯

「マホ魔導士はリーナと会ったのは何日前ですか?」

「ちょうど今から前じゃ。そういえば儂が送った手紙は無事に届いたか?」

「手紙?あの手紙はマホ魔導士が送ったんですか?」

「そうじゃ、儂が風の精霊に頼んで送って貰ったんじゃ」

「さ、流石は魔導士様……凄いっす!!」



ナイの元に届いた例の手紙はマホが風の精霊とやらを利用して送り付けたらしく、リーナとは一週間も前に分かれた事を告げる。彼女はイリアに頼まれて手紙を送ったらしく、二人が姿を消した後に彼女は猪頭団の力を借りて二人の捜索を行っていた。



「リーナとイリアが消えた後、儂等もずっと迷宮都市を探索して二人を探しておるのだが……どうやらあの二人は地下道を潜り抜けて古城に向かったようじゃ」

「地下道?この街にも下水道があるんですか?」

「いいや、下水道ではない。どうやらこの街の地下には古城の王族が万が一の場合に抜け出すための秘密の通路があったようでな。そこを利用してイリアとリーナは古城へ向かった様じゃが、既にその通路は天井が崩壊して瓦礫で埋まっておる」

「魔導士の力でどうにかできないのですか?」

「無理じゃな、そもそも通路が崩壊した原因はどうやら侵入者対策として罠が仕掛けられておったようじゃ。あの二人はまんまとその罠に引っかかり、出られなくなったようじゃな……」



マホによるとイリアとリーナが抜け出せなくなった理由は秘密の通路の罠に引っかかり、二人が潜り抜けた後に通路が崩壊したのはただの偶然ではないらしい。しかし、それならば疑問に残るのはどうやって古城内に取り残されたイリアがマホに手紙を渡したかである。



「マホ魔導士はあの手紙を受け取って王都に送ってくれたんですよね?それならどうやって手紙を受け取ったんですか?」

「流石の儂でも迂闊に古城に近付く事はできん。しかし、人造ゴーレムを潜り抜けて手紙を儂の元に送り届けた者がおる」

「えっ!?いったい誰ですか!?」

「うむ、それはな……この者のお陰じゃ」

「どうぞ」



猪頭団の団長のイノが小さな箱を取り出すと、その箱の蓋を開いてナイ達に見せつける。なんのつもりかとナイ達は不思議に思いながらも箱の中身を覗き込むと、そこには小さな鼠型の魔獣がチーズに嚙り付いていた。



「チュチュッ(うまうまっ)」

「ひいっ!?ネ、ネズミ!?」

「違う、これは……灰鼠?」

「あれ、この子……もしかしてテンさんのお母さんの所のネズミさん!?」

「その通りじゃ、このネズミはただのネズミではない。あの情報屋ネズミが飼育していたネズミじゃ」



箱の中に代われているネズミの正体はテンの養母であり、王都で情報屋を営んでいたネズミという名前の老婆が飼育していた灰鼠という魔獣だった。この灰鼠を魔物使いのネズミが使役して操り、何処にでも潜り込める灰鼠を利用してネズミは王都の情報収集を行っていた。


だが、ネズミは現在は王都から姿を消して消息不明であり、噂ではシャドウに始末されたと囁かれていた。そして彼女に従っていた灰鼠達も王都から姿を消したと聞いているが、その内の1匹を実はイリアが内密に狩っていた事が判明する。



「どうやらこのネズミはイリアがこっそりと飼育していたらしくてな。あの手紙もこのネズミが運んできたんじゃ」

「そ、そうだったんですか……」

「人造ゴーレムも流石にネズミに対しては手を出さん。だから古城から手紙を運び込む事ができたようでな。その手紙を儂が風の精霊の力を借りてお主の元に送り届けたんじゃ」

「なるほど……そう言う事だったんですか」

「君、偉いね〜」

「チュチュッ(照れるぜ)」

「ぷるぷるっ(やるな)」

「ウォンッ(ネズミにするには惜しいぜ)」



モモは指先でネズミの頭を撫でると少しくすぐったそうな表情を浮かべ、プルリンとビャクが褒めるとネズミは気恥ずかしそうに頭を掻く。かなり人間臭い動作をするネズミを見てナイは随分と頭がいいなと感心する。


マホが手紙を送り届けたのはリーナとイリアが姿を消してから二日後の話であり、ネズミが手紙を運んできた事で全てを察したマホは王都のナイの元へ手紙を送る。その後はナイの元に手紙が届き、色々と準備をしたうえでナイ達は二人が消えてから丁度一週間後に到着した。


既に二人が古城へ突入してから一週間も経過しており、恐らくは水も食料も尽きているだろう。しかし、まだ二人が生きている可能性は残っている以上は放置できず、ナイはマホに二人がいる古城への行く道を教えてもらう。



「マホさん、古城まで案内してもらえますか?」

「……人造ゴーレムに挑むつもりか?」

「はい、どうかお願いします」

「や、止めておけ……あいつらは化物だ、人間の敵う相手じゃないぞ」



ここで猪頭団の団長のイノが怯えた表情を浮かべてナイを引き留め、ここで隠れ住んでいる彼等は人造ゴーレムの恐ろしさを嫌という程理解していた。

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