第012話 迷宮都市
――道中は特に何事も問題は発生せず、遂にナイ達は目的地である迷宮都市へと辿り着く。迷宮都市は現在の王都と比べると規模は小さいが、それでも都市と呼べるほどの広さを誇り、正に廃墟の都市と化していた。
都市を取り囲む防壁のあちこちが崩れており、当時に魔物に襲われて都市内部まで侵入された事は安易に想像できた。一応は大きな堀や高度15メートルはありそうな防壁で守られていたようだが、当時の時代に繁殖していた魔物達はこの程度の防備では防ぎきれなかったのだろう。
昔の王国は今ほどに魔物に対抗する技術は発展しておらず、魔物除けの魔道具の類も殆ど存在しなかった。国の都が魔物に落とされるなどとんでもない出来事だが、都市が滅んだ後も魔物達はこの場所を離れる事はなく住み続けている。
野生の魔物がどうして人間の築いた都市に住み続けているのかは不明だが、現在の迷宮都市は独自の魔物の生態系が発展しており、その調査のためにリーナたちも出向いているはずだった。しかし、リーナは途中でイリアと合流して彼女の仕事を手伝い、現在はイリアと共に古城に閉じ込められているはずだった。
彼女達を救うためにもナイ達は古城へ向かう必要があるが、アルトは到着早々に古城へ向かう前にまずは安全な場所の確保のために地図を取り出す。
「よし、まずは迷宮都市の中でも安全な区域に移動しよう」
「安全?ここは魔物の巣窟ではないのですか?」
「確かにこの都市の殆どの場所が危険区域といっても過言じゃないが、実はある一画だけ人間が暮らせる場所があるんだ」
「それは何処?」
「教会だよ。この教会付近には魔物が立ち寄る事はない」
「なるほど、教会か……」
如何に強い力を持つ魔物であろうと教会には近づけず、実際にイチノがゴブリンの大群に襲われた時でさえもヨウが管理する教会に避難した人々は難を逃れた事をナイは思い出す。
厳密に言えば魔物達が教会に近付けない理由は教会を立てる際に必ず用意する石像が関係している。陽光教会では教会を作り上げる際には彼等が崇拝する陽光神の女神像を造り出す事が義務付けられており、この女神像は強力な魔除けの効果を持つ造り物であり、その効果は凄まじく大昔から魔物達は教会だけは近づく事ができない。
「この街に赴く冒険者は教会を拠点にして活動している。きっとリーナとイリアも立ち寄っているはずだ、もしかしたら彼女達の仲間も滞在しているかもしれない。そこで情報を収集しよう」
「なるほど……確かに抜け道の事も気になるし、話を聞きに行こうか」
「御二人の手紙を送ってくれた方もいるかもしれませんしね」
アルトの言葉を聞いてナイ達は納得し、まずは情報収集のために教会がある区域に向けて出発する。しかし、その道中でビャクとプルリンは何かに気付いた様に身体を震わせる。
「グルルルッ……!!」
「ぷるぷるぷるっ……」
「あれ、プルミンちゃんどうしたの?トイレ?」
「ぷるんっ(ちゃうわっ)」
「あいたっ!?」
唐突に震え始めたプルリンにモモは不思議そうに尋ねると、プルミンは耳の様な触手を伸ばしてモモの頭を軽く小突く。ちなみにスライムは排泄機能はなく、プルミンは皆に危険が迫っている事を伝える。
「ぷるぷるっ!!」
「……どうやら何かを感じ取ったようだね」
「魔物でしょうか……」
「えっ!?まだ入ったばかりなのに!?」
「分からない……でも、嫌な予感がする」
「ナイがそういうのなら間違いない」
ナイ達は非戦闘員のモモとアルトを置いてナイ、ヒイロ、ミイナは外に出る。エリナは狼車の上に移動して周囲を警戒する様に弓矢を構えると、この時に彼女は近くにある大きな建物の屋上に人影を発見した。
「あそこの建物の屋上に人がいますよ!!」
「人?魔物じゃないのかい?」
「いいえ、あれは間違いなく人間です!!今は隠れてますけどはっきりと見えました!!」
エリナの言葉を聞いてナイは建物の屋上に視線を向けると、彼女の言う通りに屋上にいた人物は身を隠したのか姿は見えない。だが、相手が魔物ではなくて人間が自分達の様子を伺っていた事にナイは疑問を抱く。
そもそもこの場所は危険区域で一般人の立ち入りは禁止されており、中に入れるのは特別に許可を貰った冒険者ぐらいである。しかし、仮に正規の冒険者であるならばわざわざ隠れる必要などない。
「そこの君!!聞こえているんだろう!?僕達は国から派遣された調査隊だ!!ここに証文もある、君が冒険者であるのならばすぐに出てくるんだ!!」
「……出てきませんね」
「ということは……」
アルトが試しに狼車から身を乗り出して証文を取り出して告げても屋上に隠れている人物は現れず、すぐにナイ達は警戒態勢に入った。そして数秒後に建物の中から10人近くの男達が現れ、全員がオークの毛皮を纏っていた。
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