第09話 人造ゴーレム討伐隊
「聖女騎士団からは何人ぐらい借りれますか?」
「そうだね……人造ゴーレムが相手となるとそれ相応の実力を持つ奴じゃないと役に立たないだろうからね。ルナの奴はちょっと今は無理だけど、エリナなら貸してやれるよ」
「エリナさん?」
「おい、エリナ!!こっちに来な!!」
「え!?あたし、またなんかやっちゃいました!?」
走り込みを行う新人団員の指導をしていたのはテンだけではなく、他にも数名の王国騎士が参加していた。その中にはナイの顔見知りのエリナも参加しており、彼女は弓の名手で聖女騎士団ではエルマを覗けば一番の弓の使い手だった。
「ナイ、こいつの事は知っているね?生意気にも最近になって正式に王国騎士に昇格したエリナだよ」
「あ、どうも……」
「え、ナイさん!?久しぶりですね、どうしてここに?」
「やかましいんだよ、あんたは……悪いね、こいつはあんたのファンなんだよ」
エリナはナイが居る事を知ると慌てふためき、その様子を見てテンは呆れた表情を浮かべる。顔を合わせるのは初めてではないのだが、エリナはナイを前にすると緊張して普段よりも興奮して上手く話せない。
貧弱の英雄としてナイは有名になった頃からエリナは彼を尊敬し、こうして顔を合わせるだけで緊張した様子で上手く話せない。そんな彼女の背中を叩きながらテンは人造ゴーレムの討伐隊にエリナを加える事を勧める。
「こいつは一応はうちの騎士団の中でも二番目の弓の使い手でね。連れて行けば色々と役に立つよ」
「ええっ!?連れて行くってどういう意味ですか!?」
「言葉通りの意味だよ。ルナの代わりにあんたがこいつの仕事を手伝ってきな」
「あの……ルナさんに何かあったんですか?」
急にテンにナイの仕事を手伝うように促されたエリナは戸惑うが、そんな彼女に対してナイはルナの身に何かあったのかと不思議に思って尋ねる。するとテンは頭を掻きながらルナが仕事を手伝える状況ではない事を伝えた。
「ルナの奴はおたふく風邪を引いて今は寝込んでるんだよ」
「おたふく風邪!?それって子供がなる病気じゃ……」
「たまに大人でもおたふく風邪になるらしいんだよ。それで今のあいつは人前に出せるような状態じゃないんだ。本人はずっと部屋の中に閉じ込められて不満そうだけどね、今朝も外に出せと暴れて大変……」
「テン!!大変だ、ルナの奴が目を覚まして部屋の中で暴れているぞ!!」
「たくっ、言った傍からまたかい!?悪いけど話はここまでだ、そこのエリナは好きに使っていいからね!!」
慌てた様子で宿舎からランファンがテンに声をかけると、彼女は面倒くさそうな表情を浮かべてルナを取り押さえるために宿舎に戻る事にした。取り残されたナイとエリナは顔を見合わせ、とりあえずはナイはエリナに握手を求める。
「えっと……これからしばらくの間、よろしくね?」
「は、はあっ……わ、分かりました!!本当はよく分かりませんけど、ナイさんの役に立つのなら頑張るっす!!」
「うん、ありがとう」
ナイはエリナと握手すると彼女は緊張した面持ちで頷き、とりあえずはヒイロとミイナとエリナの協力を取り着いたナイはアルトの元に戻る事にした――
――その日の晩、ナイは白猫亭に立ち寄ると早速ではあるが出発の準備を行う。迷宮都市に向かうのは明日に決め、移動手段は勿論ビャクに協力してもらう。
白狼種であるビャクの脚力ならば全員を狼車(馬車)に乗せて移動しても迷宮都市までそれほどの時間は掛からず、恐らくは3日程で目的地に辿り着けるはずだった。どれくらいの間、迷宮都市を潜るのかは不明なので入念に準備する必要がある。
「旋斧と岩砕剣と反魔の盾は当然として……後は刺剣と魔法腕輪も忘れずにしないと」
普段から身に付けているとはいえ、念のためにナイは装備の確認を行う。ちなみにこの2年の間に新しい装備は加えておらず、昔と違って強くなったナイは強力な装備は必要としない。
「よし、これでいいかな……ん?何だっけ、この笛?」
ナイは荷物の中に小さな笛がある事に気付き、疑問を抱きながら笛を取り上げると随分と昔にクノから受け取った「犬笛」である事を思い出す。
この犬笛を吹けばシノビとクノが相棒としている黒狼種の「クロ」と「コク」を呼び寄せる事ができる。ちなみにこの犬笛は特殊な素材で構成され、普通の犬には聞こえないが魔獣種だけが反応する。
「そういえば返すのを忘れてたな……今度会ったら渡しておこう」
ナイが困った時はこの犬笛を吹いて自分達に助けを求めてくれと言われて貰った品物だが、現在のシノビとクノは「黒面」の組織を纏める立場なので忙しく、軽々に呼び出せる相手ではない。
今度二人と会う機会があったら返す事を決めてナイは犬笛を持っていく事にすると、部屋がノックされてモモの声が響く。
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