第08話 精霊薬の伝説

「ところであんたら迷宮都市には何人で向かうつもりだい?ヒイロとミイナは置いておいて……他に誰か参加する予定はあるのかい?」

「えっと……アルトからはリーナに同行を頼むように言われたんですけど、そのリーナはもう迷宮都市の魔物の生態系の調査に出向いているらしいです。それと今回の古城の調査はアルトだけじゃなくてイリア魔導士の依頼でもあるんです」

「イリア魔導士かい……こう言ったらなんだけど、あたしはあの娘が苦手でね」



立場的にはイリアは実はテンよりも上の地位にあるため、自分よりもずっと年下の少女を上司として気を遣わなければならず、しかも性格的にテンはイリアの事を苦手としていた。


イリアは魔導士というよりは薬師として優秀な人材であり、そもそも彼女が魔導士の称号を与えられたのは宰相が裏で手を回したからである。だが、イリアは滅多に使い手がいない支援魔法を扱え、能力的にも優れているので宰相亡き後も未だに魔導士の座に居続けている。



「あの娘が裏切ったお陰で宰相を追い詰める事ができる様になったのは認めるけどね……何の罰も与えずに自由にさせているのはどうかと思うけどね」

「でも、イリアさんの作った薬のお陰で大勢の人が助かってますし……」

「それはまあ、理解しているけどね」



テンとしてはイリアが特に大きな処罰を受けていない事に疑問を抱き、彼女も宰相の指示に従っていたとはいえ、これまでに白面の暗殺者達を操るための毒薬を作り出していた事は紛れもない事実だった。


しかし、その毒薬の解毒薬を作り出したのも彼女であり、それに王都に流通する上級回復薬はイリアの考案で作り出された代物である。この上級回復薬のお陰で王都に訪れる商人も増えて経済も発展している。


尤もイリアの師匠であるイシの方はこれまで犯した罪を償うため、彼は自ら監獄に入った。イシのこれまでの功績を考えればその気になれば監獄行きは免れたが、彼は医者としてのけじめをつけるために自ら監獄に入った。



「イシの奴は元気にしてるのかね。あんた、何か知っているかい?」

「この間、ロランさんの面会に行くときに会いましたよ。今は模範囚として特別に監獄の医療班に配属したそうです」

「へえ……そいつを聞けて安心したよ」



イシは現在は囚人でありながら監獄内では医療班に配属され、現在は看守や囚人が怪我や病気をした時に治療を行う仕事を与えられている。城で働いていた時は不貞腐れて碌な仕事を行っていなかったが、今は心を入れ替えて真面目に仕事をしているらしい。



「イシ医師は真面目に更生しようとしてるのに、弟子の方は何のお咎めもなしで好き勝手動いているのがどうにもあたしは納得できないね……」

「でも……イリアさんは悪い人じゃないと思います。ただ、自分に正直というか……」

「そうかい、まあ別にあたしとしては悪さしなければどうでもいいけどね」



ナイはイリアの事は悪人だとは思わず、良くも悪くも彼女は自分に対してだけは正直な人間だと思っていた。イリアがそもそも魔導士になったのは自分の研究に専念するためであり、彼女の人生の最終目標は「精霊薬エリクサー」を作り上げる事である。




――精霊薬とはこの世界にかつて実在したと言われる伝説の秘薬であり、この薬を飲めばどんな怪我も病気も感知する事ができると伝えられていた。しかも場合によっては使者を蘇らせる効力まであると言われ、その名前と効能だけは今の時代でも伝わっていた。




しかし、実際の所は現在の時代には精霊薬が残っておらず、そもそも本当に存在するのかも怪しく思われていた。一説によれば勇者が作り出した薬と言われているが、勇者が死んだ後は精霊薬の製造方法は失われ、現在ではもう精霊薬は一つも残っていないと思われる。


イリアの目的は失われた精霊薬を自分の手で作り出す事であり、その過程で彼女は通常の回復薬よりも効能が高い上級回復薬を作り出している。実際に精霊薬が存在するのかどうかは不明だが、イリアは精霊薬を作り出すために彼女は手段を選ばない。




どうしてイリアが迷宮都市の古城の調査を行おうとしたのか、その理由はナイに送り込まれた手紙にも記されていた。彼女はかつて勇者が存在した時代に作り出された古城ならば勇者に関する記録も残っているかもしれず、そこに勇者が作り出した精霊薬の製造法に関わる秘密も掴めるかもしれないという理由で彼女は迷宮都市へ赴く。


彼女にとって予想外だったのは想像以上に迷宮都市が危険な場所であり、そして古城に入り込むためには人造ゴーレムを突破する方法を見つけ出さなければならない。そこで彼女は貧弱の英雄であるナイに力を借りたいと助けを求めてきたのだ。

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