第07話 聖女騎士団でも手に負えぬ相手

「それであんた、ここへ来た用事は何だい?」

「あ、えっと……実はアルトと一緒に迷宮都市に向かう事になったのでその事を報告しようと思って」

「迷宮都市……?」



ナイの言葉にテンは訝し気な表情を浮かべると、ここまでの事情をナイは簡潔に話す。話を聞き終えたテンは呆れた表情を浮かべ、彼女は面倒くさそうに頭を掻きながらも協力する事を伝える。



「なるほどね、そういう事ならヒイロとミイナは連れて行っていいよ。というか、あの二人は白狼騎士団だからね。そもそもあたしが許可を出す必要はないけどね……」

「ありがとうございます。なら、アルトには伝えておきます」

「うちの奴等も何人か同行させるよ。それにしてもあの王子様は古城の調査なんてまだ諦めていなかったのかい」

「テンさんもアルトが古城の事を調べているのは知っていたんですか?」

「まあね……一つだけ忠告しておくよ、あんたが強いのは知っているけど迷宮都市を甘く見るんじゃないよ。あの場所がどうして迷宮都市と言われているのかは知っているかい?」

「いえ……」

「あそこは魔窟なんだよ。魔物が何処からか現れるか分からない、道も複雑で似たような形の廃墟が延々と広がっている……方向感覚が狂わないようにせいぜい気を付けるんだね」



テンによると迷宮都市の名前の由来は言葉通りに「迷宮」の如く複雑な構造らしく、似たような形状の廃墟が延々と広がっているせいで方向感覚が狂わされるという。


この建物が似通っている理由は当時の建築法に問題があるらしく、他にも道が複雑なのは王都が他国からの侵入を考慮して敵に攻めにくいように複雑な街道を敢えて築き上げたと言われている。



「迷宮都市にはあたしも何度か挑んだ事はあるけど、あそこは一切の油断が許されない。都市内に生息する魔物は普通の野生の魔物とは違うんだ」

「違う?どんな風に違うんですか?」

「街中で戦う事にのさ。あいつらは常日頃から廃墟が広がる場所で暮らしている、だからこそ廃墟を利用した戦い方を熟知している」

「廃墟を利用した……?」

「まあ、口で説明しても分からないだろうね。ともかく、あの場所では決して油断するんじゃないよ。いくら強くなったと言っても他の人間を守りながら戦う以上は警戒心は怠るんじゃないよ」



テンはナイの胸元に拳を押し当て、迷宮都市に挑む場合は決して警戒心を緩めないように注意する。彼女は昔、まだ王妃が健在だった頃の聖女騎士団と共に迷宮都市に挑んだ事を思い出す。





――まだテンが10代前半だった時、王妃と聖女騎士団と共に迷宮都市に挑んだ。彼女達の目的は古城の調査のために出向き、そこで聖女騎士団は人造ゴーレムと遭遇した事もある。


人造ゴーレムと対峙した聖女騎士団は激戦を繰り広げたが、結局は撤退せざるを得ない状況に追い込まれた。当時の頃から世界最強の王国騎士団と謳われていた聖女騎士団だったが、そんな彼女達の力を以てしても古城の調査は果たせなかった。





そんな危険な迷宮都市にアルトとナイが出向く事にテンは不安を抱くが、彼女は不用意に王都を離れるわけにはいかなかった。まだ未確定の情報だが、闇ギルドの残党が集まっているという情報が届き、その対応のために聖女騎士団は王都を離れられない。



(人造ゴーレム……王妃様でもどうする事もできなかった相手、だけどこいつならもしかしたら……)



人造ゴーレムと実際に戦った事があるテンは彼等の恐ろしさをよく理解しており、彼女が尊敬する王妃でさえも人造ゴーレムを。魔法に対して絶対の耐性を誇る人造ゴーレムが相手ではどんなに強力な魔法剣でも相性が悪く、王妃の持つ「氷華」と「炎華」を以てしてもどうする事もできなかった。


だが、人造ゴーレムを倒せるとしたら魔剣の力に頼り切らず、圧倒的な破壊力を引き出せる剛剣の使い手ならば勝機はある。しかし、テン程の剛力の剣士でも人造ゴーレムを倒すには至らず、生半可な腕力の剣士ではどうする事も出来ないだろう。




――だが、ここにいるナイは生半可な力の剣士ではなく、恐らくは国内最強の剛剣の剣士である。彼の腕力を勝る人間が居るとすればそれこそゴウカぐらいであり、ナイならば王妃でもどうする事もできなかった相手を倒せる可能性は十分にあった。




自分が最も尊敬する王妃がどうしようもできなかった相手を、まだ16才の少年が倒せるかもしれないという自分の考えにテンは苦笑いを浮かべる。この時に彼女はマホの言葉を思い出し、確かに彼女の言う通りに知らず知らずのうちに「若者」は育っていた。



(あたし達のような旧世代の出番はそろそろなくなるかもね……)



テンは若者が育っている事を実感し、近い将来にこの国を支えるのは自分達ではなく、この国の若者達がその役目を担う事を予感した――

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