第06話 聖女騎士団の訓練とロランのその後
「うわぁっ……今日も大変そうだな」
「ん?何だい、誰かと思えばナイじゃないかい」
新人団員の指導を行っていたテンはナイの存在に気付くと、団員に走り込みをさせながら彼の元に向かう。最初に会った頃と比べても今のテンは生き生きとしており、やはり宿屋の主人よりも騎士団の団長の方が彼女の性に合っていた。
「テンさん、元気そうで何よりです」
「まあ、元気と言えば元気だね。あんたは最近顔を見せなかったね」
「ちょっと色々と忙しかったので……」
最近のナイは他の騎士団の訓練に参加したり、他にもアルトの魔道具の実験に協力したりなど色々とあって聖女騎士団の元へ訪れる機会がなかった。
ちなみに現在の指導を受けている新人の女性団員はここ最近に加入したばかりの者達であり、聖女騎士団に憧れて入ってきた若者達である。現在は若手の育成に力を注いでおり、テンは建物の周囲を走り回る新人団員を見て頭を掻く。
「たくっ、やっと新しい団員が入ったってのにどいつもこいつもひ弱でね。もう団員の3分の1は辞めちまったよ」
「そんなに辞めたんですか!?」
「全く、今残っている奴等もあんたを見習ってほしいね。そうだ、いっそのことあんたが聖女騎士団に入ってみるかい?うちは男子禁制だけど、あんたなら女装も似合いそうだしね」
「嫌ですよ!!」
テンはからかい混じりにナイを勧誘するが、聖女騎士団は他の騎士団と違って男性は入る事はできない。この理由は聖女騎士団は元々は王妃が管理する騎士団であったことが原因であり、王妃の傍に男性が近付く事を危惧した国王が彼女に頼んで男性の加入を禁じた。
聖女騎士団の現在の人員はバルを筆頭に過去に解散する前に所属していた団員が数十名、そして新しく入った新人団員が十数名であり、人数的には白狼騎士団の次に数が少ない。
だが、聖女騎士団は量よりも質を重要視しており、先日に行われた王都に在中する王国騎士団の合同訓練の際、模擬戦が行われた時も聖女騎士団が圧勝した。
「この間の模擬戦の時は凄かったですね、僕も見てましたけど……」
「ああ、あの時は中々楽しめたね。ドリスもリンもまた一段と腕を上げていた様だけど……けど、まだまだ私達には及ばないね」
黒狼騎士団と銀狼騎士団の副団長を務めるドリスとリンは2年前よりも更に腕を磨き、現在は実質的に彼女達が騎士団を管理している。黒狼騎士団の団長であるバッシュは身体が弱っている国王の代わりに政務を行うことが多く、銀狼騎士団の団長であるリノも最近は団長として活動しておらず、王女として兄のバッシュの手伝いを行う。
白狼騎士団の方は現在は聖女騎士団と共に活動する事が多く、実質的に吸収合併しているに等しい。もしかしたら近いうちに白狼騎士団は聖女騎士団に組み込まれ、アルトの専属の騎士団になる可能性もある。
「そういえばあんた、ロラン大将軍の所へ顔を見せているかい?そろそろあの人も出てくる気になったかい?」
「この間、面会に訪れたんですけど……やっぱり、監獄から出る気はないそうです」
「たくっ、相変わらず頑固な奴だね……」
ロランは現在は監獄に収監されているが、実を言えば彼がこれまでに残した功績を考慮すれば既に出所していてもおかしくはない。それなのに彼が監獄から未だに解放されていないのは彼の意思だった。
『俺は大罪を犯した……いくら国王陛下が許そうとも、俺は俺自身を許す事はできない』
ナイが面会に訪れた時にロランは自分はもう二度と表の世界に出る事はないと伝えた。彼は父親である
しかし、彼がこの国のために全力で尽くしてきた事自体は間違いなく、この国の大将軍として役目を果たしてきたのも紛れもない事実だった。それに彼は最後はアルトの説得を受けて父親を見限り、ナイ達と共に戦ってこの国を救った英雄だった。
「ロラン大将軍が戻れば少しは陛下も元気を取り戻すと思うんだけどね……はあっ、あんたでも説得は無理そうかい」
「はい……あ、でも看守の人に聞いたんですけど最近はゴウカさんと一緒に鍛錬する事が多いそうです。二人とも意外と気が合うみたいで……」
「あのゴウカと鍛錬!?そいつは意外だね……」
ロランは現在は一緒に収監されているゴウカと行動を共にする事が多く、どちらも国内でも指折りの武人であるため、共に鍛錬を行って武芸を磨いているらしい。
但し、囚人の身でありながら激しい鍛錬を繰り返すせいで看守は苦労させられており、最近では二人が鍛錬を行う度に器物破損や他の人間が巻き込まれないように注意しているとナイは看守から愚痴られた。
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