特別編 《王都での聖夜》
「――サンタクロース?何それ、魔物の名前?」
「いや、そうじゃなくてね。サンタクロースというのは勇者が来た世界に存在する有名な人物の名前だよ」
冬の季節にナイ達はアルトの元に呼び出され、彼から勇者の世界に存在するという「サンタクロース」なる人物を教えてもらう。
「勇者の残した伝承によるとサンタクロースという人物は子供達の家に忍び込み、無償で子供達が嬉しがる道具を置いて行くそうだ」
「えっ!?子供が暮らしている家に侵入してしかも勝手に道具を置いて出ていくの?」
「義賊みたいな感じですか?」
「そうそう、そんな感じだよ。それで実は王国でもこの時期になると貧しい子供達のために贈り物をするという習慣があってね。それで君達にも協力して欲しいんだ」
王都では勇者の残した話を参考に冬の季節でも一番寒い日に子供達が喜ぶ贈り物をするという決まりがあり、流石に王都に暮らす子供全員に贈り物をする事はできないが、孤児院などに暮らす親がいない子供達のために毎年贈り物を行う事をアルトは説明する。
王都には孤児院が幾つか存在し、その孤児院に毎年恒例に子供達のために贈り物を夜の間に送る風習があった。そこでアルトはナイ達にも協力を頼む。
「孤児院の子供達の喜ばせるために君達にも協力してほしい」
「協力するのはいいけど、具体的に何をすればいいの?」
「簡単な事さ、夜の間に孤児院に忍び込んで子供達が眠っている部屋に贈り物を届けてほしいんだ」
「それぐらいなら孤児院の方達でもできるのでは……」
「いや、子供達の中には夜にこっそり起きてサンタクロースに会おうと考える子もいるだろう。そんな子達の夢を壊さないため、ちょっとした工夫が必要なんだ」
「工夫?」
「ああ……名付けて空を飛ぶソリ作戦だ!!」
アルトの発言に集められた者達はまた彼が変な事を企んでいるのではないかと考え、実際にその日の晩に大変な苦労をさせられる事になる――
――作戦決行の当日、アルトは赤い服に付け髭を装着した状態で巨大なソリに乗り込み、そのソリを引く役目はトナカイではなく、トナカイのような赤い花と角を身に付けたビャクがソリを引く。
「すまないね、ビャク君。これが終わったら美味しい七面鳥を食べさせてあげるからね」
「ウォンッ……」
「ビャク、頑張ってね……」
孤児院の子供達の部屋の前までビャクはソリを引くと、ここで同行していたナイはソリから降りると手はず通りにソリの下に隠れてアルトの合図を待つ。
アルトだけを乗せたソリが窓に近付くと、中の方から派手な音が鳴り響き、興奮した様子の子供達が窓の元へ駆け寄る。どうやら全員が部屋の中で起きてサンタクロースを待ち構えていたらしく、サンタクロースに変装したアルトを見て子供達は興奮する。
「わあっ!!サンタさんだ!!」
「本当にサンタさんが来てくれたよ!!」
「ほら、言っただろ!?今日あたりにサンタさんが来るって!!」
「はっはっはっ、子供達よ元気にしていたかい?今日はたくさん贈り物を持って来たぞ〜」
子供達は窓越しにサンタに変装したアルトを見て興奮するが、頃合いを見計らってナイは「隠密」の技能を最大限に発揮させ、ソリをしたから持ち上げる。
(せぇのっ!!)
隠密の技能で存在感を極限にまで消したナイがソリを持ち上げると、子供達はまるでソリが勝手に浮き上がったようにしか見えず、ナイの存在を認識できなかった。これが優れた武人ならばナイの存在を見破る事もできたかもしれないが、孤児院に暮らす子供達は普通の人間なのでナイの存在は感じ取れない。
「わあっ!?そ、空を飛んでるぞ!!」
「サンタさん、凄い!!」
「ほ、本物だ!!本物のサンタさんだ!!」
「はっはっはっ!!皆、メリークリスマス!!」
「めり……?」
ナイの協力の元、アルトは子供達を喜ばせる事に成功すると彼等のために用意していたプレゼントを渡していく。その様子をナイはソリの下から眺めて笑みを浮かべるが、ここでくしゃみをしてしまう。
「くしゅんっ」
「うわっ!?だ、誰だ今のくしゃみ?」
「サンタさんじゃないよね?」
「何処から聞こえたんだろう……」
「は、ははっ……それはうちのトナカイ君のくしゃみじゃよ(←動揺のあまりに口調も変になった)」
「ウォンッ!?」
危うく正体がバレそうになったが、どうにかアルトの誤魔化しによって子供達に気付かれる事はなく、ナイ達は聖夜にプレゼントを渡す事に成功した――
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