第二部 大迷宮編

第01話 これからの事

――ナイが16才の誕生日を迎えてからしばらくした後、王都の復興は完全に終了した。シン宰相が引き起こした白面や火竜の騒動の際に被害を受けた建物の修復は終わり、飛行船に関しても修理を終えて造船所へと戻す事に成功する。


これでひと段落ついたかに思われたが、次の問題はナイに対する処遇だった。ナイは現在は復興の手伝いという名目で王国騎士団と共に活動していたが、実を言えば彼は正式に王国騎士に加入したわけではない。


事件が起きる前は仮入団という名目でナイは黒狼騎士団や銀狼騎士団に加入した事もあったが、事件が起きた後は色々とあって復興作業の手伝いという名目で王国騎士団に協力していたが、別に彼本人は王国騎士になったわけではない。


ナイの実力と功績を考えれば彼が望めば王国騎士になる事は容易く、実際に黒狼騎士団や銀狼騎士団からも勧誘されており、ちなみにアルトが率いる白狼騎士団も彼が成人年齢を迎えた時に正式に王国騎士団と認められている。そのためにアルトからもナイは白狼騎士団に加入しないのか誘われていた。




現在の王国はシン宰相の息子にして大将軍でもあり、同時に王国騎士団の中でも最強を誇る「猛虎騎士団」の団長を務めたロランは囚人として収監された。そのために猛虎騎士団は実質的に解散状態に陥り、騎士達は国境に送り返されて守備を任せている。


ロランは確かに大罪を犯したシンの息子ではあるが、彼はアルトの説得で父親を見限って事件の解決にも尽力した事で死罪は免れた。しかし、だからといって全ての罪がゆるされたわけではなく、現在は元黄金級冒険者のゴウカと共に監獄に収監している。


表向きは宰相としてこの国を支え続けたシン、大将軍にして猛虎騎士団の団長を務めたロラン、そして最強の魔導士であるマジクを失った現在の王国は人材不足であった。そこで王国側としては有能な人材が喉から手が出る程に欲しいため、貧弱の英雄であるナイの勧誘を行う。



「はあっ……また手紙か」



白猫亭の一室にてナイは机の上に山積みされた手紙を見てうんざりとした表情を浮かべ、その手紙の殆どは王都内の貴族からの手紙だった。前回の誕生会以来、ナイと顔を合わせた貴族から手紙が連日のように送り届けられた。


手紙の内容はナイに対して王国貴族たちが自分の屋敷に招き、この機会にお互いに仲を深めたいという旨が記されていた。普通ならばナイのようなに貴族がわざわざ手紙を送る事など有り得ないが、世間の間ではナイはもう一般人とは認識されていない。



「どうすればいいんだろう……」



ナイは王都へ赴いた目的は自分がしたい事を探すために訪れたという理由もあり、この王都に訪れてから色々な事があったが、未だに自分が何をしたいのかナイには分からなかった。



(王国騎士、冒険者、傭兵……う〜ん、どれもぴんとこないな)



送りつけられた手紙の中には王族からの手紙も含まれ、アルトだけではなくバッシュやリノからの手紙も含まれている。バッシュは前々からナイの事は気に入っている節があり、顔を合わせる度に自分の騎士団に加入する様に勧誘してくる。


リノの場合はナイはあまり認識はないが、恐らくは副団長のリン辺りが彼女を説得して手紙を書かせたのだろう。普通の人間ならば王族からの勧誘の手紙を受け取った時点で恐れ多い事だと考えるだろうが、ナイは3人の手紙を見ても心が決まらない。



(騎士なんて柄じゃないし……やっぱり、狩人が一番に性に合うかな)



ナイは色々と考えた末に自分が一番向いている職業は子供の頃から行っている「狩人」の職業ではないかと考えるが、この王都では狩人という職業はない。魔物や動物を狩って欲しければ冒険者に頼むのが当たり前の事である。



(いったいどうすればいいんだろう。流石にそろそろ返事を書かないとまずいよな……)



王族や貴族からの手紙を何時までも無視するわけにもいかず、とりあえずは1枚1枚の手紙の内容を確認して返事を書こうとした時、この時にレナは意外な知り合いの手紙を発見した。



「あれ……これ、イリアさんからの手紙?」



手紙の中には何故か魔導士のイリアの署名がされた手紙が含まれており、不思議な事に彼女の手紙は王都からではなく、別の街から送り込まれていた。



「何だこれ……迷宮都市?」



手紙の内容を確認すると彼女は現在は王都を離れているらしく、王国内の領地に存在する「迷宮都市」と呼ばれる場所に滞在している事が発覚した。そして手紙の内容は彼女が迷宮都市に訪れるまでの経緯が記されていた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る