第02話 迷宮都市
――イリアからの手紙の内容を確認した後、ナイはアルトの屋敷に赴いて彼に手紙の内容を話す。アルトはナイから受け取った手紙を確認して呆れた表情を浮かべる。
「迷宮都市、か……全く、最近姿を見せないと思ったらそんな場所に行っていたのか」
「アルトは迷宮都市の事を知ってるの?」
「ああ、実際に僕も何度か立ち寄った事がある。だが、あそこは正確に言えば都市じゃない」
「都市じゃない?どういう事?」
「一言で言えば廃墟さ、迷宮都市は元々は旧時代の王都だったんだが」
「旧時代……?」
アルトの話によれば現在イリアが滞在している「迷宮都市」は元々は遥か昔に栄えていた都だったという。現在の王国の王都が作り出される前、かつては別の場所に王都が存在した。
迷宮都市とはいってみれば王国が建国されてから最初期に作り出された王都であり、別名は正式名称は「旧王都」とも呼ばれている。だが、ある時に王都を破棄しなければならない事態に陥り、別の場所に新たに都市が作り出された。それこそが現在の王都であるとアルトは語る。
「迷宮都市は元々は昔の時代の王都だったんだ。だけど、ある時に問題が起きて都市を捨てて新しい場所に都市を移す事になったんだ」
「どうして?都市を捨てるぐらいの問題って……」
「理由は簡単だ。迷宮都市に魔物が現れたのさ」
「魔物が……?」
王国の記録によれば迷宮都市内に魔物の大群が乗り込んで都市は壊滅状態に陥ったらしく、生き残った王族と人々は都市を脱出して新しい場所に都市を作るしかなかったという。
魔物が現れたのならば冒険者や軍隊を派遣して倒して貰えばいいのではないかと思われるが、実は当時の時代にはまだ冒険者という職業は存在せず、それに魔物に対抗する手段も碌に無かったためにどうする事もできなかった。
「魔物は一定の周期で大量発生する事は知っているね?」
「そういえば爺ちゃんが言ってたような……」
この世界に存在する魔物は一定の周期で大量繁殖し、数を増やす事は一般人の間でも知られていた。実際にナイがまだアルに拾われたばかりの頃は魔物など殆ど見かけず、この数年の間に魔物は一気に数を増やした事になる。
当時の王都は魔物の大量繁殖によって都市にまで被害が及び、遂には都市に魔物の大群が攻め込んできて別の場所に新しい都市を建設する以外に方法はなかった。当時は今の時代よりも魔物に対抗する手段は確立しておらず、どうする事もできずに都市を放棄するしかなかった。
「魔物の繁殖期が過ぎた頃には迷宮都市内の魔物も大分数を減らしたんだけど、もうその時には新しい都市が出来上がっていたから旧王都は放置されたんだ。だけど、迷宮都市内の魔物が全滅したわけじゃない。今の時代でも魔物達は住み着いているよ」
「え、そんな場所にイリアさんが……」
「大方、僕と同じように迷宮都市内に生息する魔物の素材が目当てだろうね。あの都市に生息する魔物はそこいらの野生の魔物よりも素材の価値が高いからね」
イリアからナイに送り込まれた手紙は要約すれば「暇なら素材回収の仕事を手伝ってください」という内容だった。彼女は迷宮都市内でしか採取できない素材回収のためにわざわざ出向いたらしく、しかもアルトに無断で出て行ったらしい。
「手紙によればイリアさんの目的は良質な魔石らしいけど……」
「ああ、そういえば迷宮都市にはゴーレムも存在したね。イリアの目的はゴーレムを倒して経験石を回収する事か……そういえば昔からの言い伝えでは旧王都に存在する古城、つまりは急時代の王国の王城には隠し財産があると言われてるよ」
「え、隠し財産!?」
「まあ、実際の所は隠し財産が本当にあるかどうかは怪しいけどね……僕も昔の記録を調べた限りでは王城に隠し財産があるなんて記録は残ってなかったよ」
人々の間では旧王都、現在では「迷宮都市」と呼ばれている場所に存在する古城(元王城)には秘宝が隠されており、それを目当てに迷宮都市に挑む冒険者や傭兵は後を絶たない事もアルトはナイに伝える。
最も実際に旧王都の古城にそのような隠し財産があるという記録は残っておらず、これまでの歴史上で秘宝を見つけ出した人間はいない。アルトも実際に何度か迷宮都市に足を踏み入れたが、隠し財産の手掛かりも掴めなかった。
「王都の古城は迷宮都市内でも危険な場所だからね。現在は立ち入り禁止区域に指定されているよ。入れるのは高階級の冒険者か、王国騎士か魔導士ぐらいだね」
「立ち入り禁止?どうして?」
「迷宮都市の古城には魔物が侵入してきた時の対策のため、城内に人造ゴーレムを配置されているんだ」
「人造ゴーレム……?」
初めて聞く名前のゴーレムにナイは不思議に思うと、アルトは古城に存在する特殊なゴーレムの説明を行う。
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