特別編 《祖父と孫》

――まだナイがアルと一緒に暮らしていた頃、冬の季節の中でも一番寒い時期にナイは高熱を出して倒れてしまった。怪我の類ならば回復薬や薬草(三日月草)でどうにかできるが、病気の等の場合は回復薬は当てにならない。


アルは必死に看病を行ったがナイの熱が下がる様子はなく、このままではまずいと思った彼はイチノにいる医者のイーシャンの元まで彼を連れ出そうと考えた。しかし、当時の冬は一段と雪が積もっており、馬で移動する事も困難な状態だった。



「ナイ、しっかりしろ!!僕の事が分かるか?」

「ううっ……」

「駄目だ、熱が引かない……このままだと持たないぞ」



ナイを心配したゴマンが彼の家に訪れ、必死にナイに声をかけるが既にナイは意識を失って声も聞こえない状態だった。このままではナイは助からないと思ったアルは覚悟を決めたような表情を浮かべる。



「……ゴマン、ナイの事は任せたぞ」

「爺さん!?何を言ってるんだよ、何処へ行くつもりだ!?」

「今のナイを助けるには特別な薬草が必要だ……そいつを採取してくる」

「や、薬草って……今、何時だと思ってるんだよ!?それに外は吹雪なんだぞ!?」



既に時刻は夜を迎え、更に今夜は吹雪で普通ならば山に登るどころか家の外に出るのも危険な状況だった。しかし、アルはナイを救うために彼はゴマンに任せて外へ出向く。



「いいか、ゴマン!!俺が戻ってくるまでナイを頼むぞ!!」

「ま、待てよ爺さん!!ならせめてこれを……」

「盾……ああ、ありがとよ」



ゴマンは止めても無駄だと悟ると、彼はアルに「反魔の盾」を渡す。冬の時期を迎えたと言っても山の中には魔物もいるため、アルはゴマンが自分の家から勝手に持ち出した反魔の盾を受け取る。


彼にナイの事を任せてアルは山へと向かい、解熱効果の高い特別な薬草を採取するために山へと向かった――





――吹雪の中、アルは雪に覆われた山道を登り、途中で何度も足を滑らせて転びそうになったが彼は山頂へ向かう。彼が求める薬草は山頂に存在し、彼は黙々と山頂へ向けて移動する。



(くそっ……この道で合ってるのか?)



吹雪のせいで碌に眼も開ける事ができず、自分が本当に山頂に向けて移動しているのかも怪しく、それでもアルは足を止めない。愛する子供を救うためならば彼はどんな犠牲を払ってでも薬草を採取するつもりだった。



(待っていろよ、ナイ……!!)



アルは山頂へ向かって歩いていると、不意に彼は気配を感じ取って後方を振り返る。すると、そこには数匹のゴブリンがアルを追いかける姿があった。



『ギギィッ……!!』

「ちっ……こんな時に限って邪魔するんじゃねえ!!」



迫りくるゴブリン達に対してアルは悪態を吐き、彼はゴマンから受け取った反魔の盾と手斧を取り出す。ゴブリンなんかに構っている暇はないのだが、ゴブリン達は雪山の中にわざわざ入ってきた獲物を逃すつもりはない。


ゴブリン達はアルに徐々に迫り、その様子を見たアルは手斧で彼等と戦おうとした時、ゴブリン達の背後から狼の声が響く。



「ウォオオンッ!!」

「ギィアッ!?」

「ギャウッ!?」

「ギャアアッ!?」

「うおっ……お、お前は!?」



ゴブリン達の背後から襲い掛かったのは「ビャク」であり、どうやらアルの後を付いて来ていたらしく、ビャクはアルに襲い掛かろうとしたゴブリン達に噛みつく。だが、この当時のビャクはまだ子供であり、ゴブリンの1匹がビャクを蹴り飛ばす。



「ギイイッ!!」

「キャインッ!?」

「ビャク!!くそっ、待ってろ……すぐに助けてやる!!」

「クゥンッ……ウォオンッ!!」



ビャクが蹴飛ばされたのを見てアルは咄嗟に彼を助けようとしたが、すぐにビャクは起き上がるとアルに向けて鳴き声を放つ。その態度にアルは戸惑うがビャクの意図を察する。



(お前、まさか俺に先に行けと言ってるのか?)



この場所までビャクがアルを追いかけてきたのは彼の手助けのためであり、そのためにビャクはゴブリン達を相手に襲い掛かった。その事を知ったアルはビャクの心意気を無駄にせず、ここは彼に任せて先に進む事にした。



「すまん、ビャク……先に行くぞ!!」

「ウォオオンッ!!」

『ギィイイッ!!』



今はゴブリンに構っている暇はなく、アルはこの場をビャクに任せて自分は山頂へと向かう――






――夜明けを迎えた頃、徹夜でゴマンはナイの看病を行っていたが一向に戻ってこないアルの身を心配する。



「だ、大丈夫かな爺さん……もう夜が明けたのに」

「う、ううんっ……」

「ナイ……だ、大丈夫だからな。きっと爺さんは戻ってくるからな」



ナイの手を握りしめながらゴマンはアルが戻るのを待つと、不意に出入口の扉が開け開かれる。驚いたゴマンは扉の方向を振り返ると、そこには大量の薬草と全身が返り血塗れになったビャクが立っていた。



「はあっ、はあっ……ま、待たせたな」

「クゥ〜ンッ……」

「じ、爺さん!?」



アルは山頂に生えていた薬草の回収に成功し、ビャクの方もゴブリン達を倒す事に成功して戻ってきた。だが、二人とも疲労の限界を迎えたらしく、家の中に入った途端に倒れ込む――






――その後はゴマンは村の大人を呼んできてアルの介抱を行い、ナイの方はアルが採取した薬草を調合した薬を飲んだ事で無事に快復する。ビャクの方は特に大きな怪我はなく、ナイとアルが寝込んでいる間はゴマンが面倒を見てくれた。


ちなみに反魔の盾をゴマンが勝手に持ち出した事は彼の父親が激怒したが、アルが事情を説明すると息子が他人のために反魔の盾を持ち出した事に感動し、それ以降はゴマンが反魔の盾を持ち出す事を正式に許可してくれた。


この一件でビャクはアルとナイの命の恩人ならぬ恩犬という事で他の村人にも受け入れられ、彼は可愛がられるようになった――

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