33話 イチノ方面の異変
「イチノの方は変わりはありませんか?」
「特にないな……ゴブリンの姿も見かけなくなったし、魔物の数も減ってきておる」
「え、そうなんですか?」
「ああ、何故だか知らないがイチノ方面では魔物が殆ど姿を見せなくなったんだ。他の街では魔物をよく見かけるんだが……」
二人の話によると現在のイチノの周辺五地域は何故か魔物が減少しており、滅多に姿を見せなくなっていた。赤毛熊の時のように強力な魔物が現れ、それを恐れて魔物が数を減らした可能性もあるらしく、現在は冒険者が調査しているという。
「冒険者が魔物が減った原因を調査しているらしいが、今の所は特に報告は上がっていないな」
「魔物が姿を見せなくなったのはどれくらい前なんですか?」
「半年……いや、もっと前からか?詳しい事は覚えていないが、イチノに魔物が現れないせいで大勢の人間が押し寄せているんだよ」
「うむ、皆も魔物が少ない地域の方が安全だと分かっているからな。まあ、軍勢に襲われた時に大分街の人間も亡くなったからな。人が増えればそれだけ復興が進む……素直に喜ぶべきかどうか分からんがな」
「そうだったんですか……」
ナイは二人の話を聞いて不思議に思い、既に何か月も前からイチノの周辺では魔物が姿を見せなくなった事に不安を抱く。赤毛熊やゴブリンキングの件もあるため、現地の人々も魔物が姿を見せなくなった事に不安を抱いて連日調査を行っているらしい。
イチノの事は気がかりなナイは一度街に戻るべきかと考えたが、現在のイチノは復興と同時に人が多く集まって以前よりも活気を取り戻していた。それにゴブリンの軍勢の襲撃を受けた後にイチノでは警備も強化され、以前の様に急に襲われる事はないはずだった。
(魔物が姿を見せない……か)
またイチノで何か問題が発生したのかとナイは不安を抱き、そして彼は自分が暮らしていた村の事を思い出す。現在のナイが育った村は誰一人として村人は暮らしておらず、そろそろ墓参りに向かいたいと思ったナイはイチノへ向かう事を決心しようとした時、後ろから誰かがナイの身体を抱きしめる。
「こら、こんな所で何してんだい!!」
「うわっ!?」
「主役のあんたが盛り上がらないでどうするんだい、ほらこっちに来な!!酒を飲め、酒を!!」
「ちょ、ちょっとテンさん!!飲み過ぎよ!!」
「テ、テンさん!!ナイ君も苦しそうだよ!!」
急にナイに絡んできたのは酔っ払ったテンであり、相当に酒を飲んでいるのか大分身体がふらついていた。そんなテンに対してヒナとモモは慌てて駆けつけて落ち着かせようとするが、そんな二人にテンは酒瓶を片手に語り掛ける。
「ひっくっ……こんな祝いの席で、思いつめた顔をする奴を見たら気分も悪くなるだろ。ほら、あんたも飲みな!!」
「いや、お酒はあんまり……」
「何だい、あんたも飲めないわけじゃないだろ!!ほら、一気に飲みな!!」
「だ、駄目ぇっ!!ナイ君が苦しがってるよ!!」
「モモ!?」
テンはナイに口元に無理やりに酒瓶を突っ込ませようとするが、その間にモモが割って入ると、彼女が変わりにテンの酒を飲んでしまう。
「んぷぅっ!?」
「うわっ!?な、何してんだいあんた!?」
「モモさん、大丈夫!?」
「ま、まずい……モモは酒に酔うと大変な事になるのよ!!」
モモはテンの酒を飲んだ途端、彼女は一気に酒瓶の中身を飲み干してしまい、その光景を目にしたヒナは顔色を青ざめる。ナイは無理やりに酒を飲まされたモモを心配して彼女に近付くと、モモは目つきを鋭くさせてナイの顔面を掴む。
「ナイくぅんっ……ちゅ〜♡」
「んむぅっ!?」
「きゃあっ!?ナ、ナイ君!?」
「ぶほぉっ!?」
「ぬあっ!?ど、どうしたリーナ!?」
唐突にモモは怪しい瞳をしながらナイの顔面に口づけし、その様子を食事しながら遠目で見ていたリーナは口の中の食べ物を吹き出してしまう。
突如としてモモがナイに口づけした事に周りの者達は驚く中、ナイの方は戸惑いながらもモモを引き剥がそうとするが、どういうわけかナイの怪力を以てしてもモモは離れない。
(な、何だこの力……!?)
必死にナイはモモを離れさせようとするが、モモは子犬がじゃれつくようにナイの身体に抱きつき、決して離れようとはせずに唇を離すと今度は頬に口づけする。
「ちゅっ、ちゅっ……ナイ君、好きぃっ……」
「モ、モモ!?ちょ、ちょっと……」
「モモちゃん!?な、何してるの!?ほら、ナイ君が恥ずかしがってるから離れて!!」
「あ、リーナちゃん……」
ナイがモモと口づけする光景を見てリーナも慌てて駆けつけると、そんなリーナに対してモモは何故か彼女にも怪しい瞳を向け、リーナに対して飛び掛かる。
「リーナちゃんもちゅ〜♡」
「んむぅううっ!?」
「リーナァッ!?」
モモはリーナに対しても口づけを行い、その様子を見ていたアッシュは度肝を抜かす。そんな二人の姿にヒナは頭を抑え、モモの変貌ぶりの理由を話す。
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