32話 16才

――王都へ訪れてから時は流れ、遂にナイは16才の誕生日を迎える。15才の時は白猫亭にて誕生会が開かれたが、16才の時はアルトの提案で彼の屋敷で誕生会が行われた。


貧弱の英雄と呼ばれるナイと親密な関係を結ぼうと今回は王都内の貴族も参加し、盛大な宴が行われてしまった。わざわざナイの誕生日を祝うためだけに遠いイチノからも迎えが送られ、ドルトンやイーシャン、そしてヨウやインまでも迎えられる。



「ナイ……立派に成長しましたね」

「ヨウ先生……また会えて嬉しいです」

「私もですよ」



ヨウとの久々の再会にナイは素直に喜び、ヨウの方も無事に生きているナイを見て安心した。しかし、彼女の隣に立つインは気まずそうな表情を浮かべてナイと向き合い、彼に謝罪の言葉を口にしようとした。



「ナイ、私は今まで貴方に酷い仕打ちを……」

「インさんも来てくれたんですね、ありがとうございます」

「い、いや……それよりも私は貴方に」

「二人に紹介したい人たちがいっぱいいるんです!!一緒に来てください!!」



これまでインはナイの事を忌み子という理由で冷たく当たってきた事を謝罪しようとしたが、彼女が謝る前にナイは嬉しそうに王都の友人たちに二人を紹介しようとした。そんなナイの反応を見てインは戸惑い、ヨウは微笑みながら彼女の肩を掴む。



「ここはナイの言う通りにしましょう」

「で、ですが私は……」

「謝罪など後ででもできます。さあ、行きましょう」



インとしてはナイに謝罪を行いたいが、ここは彼の気持ちを優先して二人はその後にナイが王都で作り上げた友人たちを紹介してもらう――





――とりあえずは誕生会に集まったナイの友人たちの紹介を終えた後、ヨウとインは少し疲れた表情を浮かべて会場の隅に移動する。ナイの方は今度はドルトンとイーシャンと談笑し、久々に出会えた事に嬉しそうな表情を浮かべていた。



「……変わりましたね、ナイは」

「そうですね。以前よりも明るくなりました」

「あんな笑顔……私は初めて見ました」



インはナイが笑顔を浮かべる光景を見るのは初めてであり、彼女が知る限りでは教会で世話をしていた時のナイは一度も笑った事がない。ヨウもナイが自然と笑える事ができた事に安堵する。


教会に居た頃のナイは父親を失った事で意気消沈し、精神的にも追い詰められていた。そんな彼だからこそヨウは放っておくことができず、本来ならば教会の教えでは隔離対象の彼を教会に留めて世話をした。



「ナイは立派に成長しました。それにあの子は貴女の事を憎んではいません」

「ですが私のした事は……」

「ナイが謝罪を必要としないのであれば謝る必要はありません。その代わりにあの子が困った時、我々が力になってあげましょう」

「そ、そういわれても……私達に何ができるのですか?」

「大切なのは気持ちです。言葉よりも行動で示すのです」



ヨウの言葉を聞いてインは戸惑い、今のナイのために自分達ができる事と言われても彼女には考えもつかない。しかし、ヨウはナイの姿を見てある事を思い出す。



「そうですね……なら、こういうのはどうでしょうか?」

「えっ……!?」



インはヨウの提案を聞いて驚愕の表情を浮かべ、彼女は躊躇するがナイのために役立つのであればと納得する――






「――ナイも16才か……アルが生きていればお主の成長を喜んでいただろうに」

「16才か……なら、もう子供扱いはできないな」

「そんな……今まで通りにしてください」



ナイはドルトンとイーシャンと笑い合い、もしも養父のアルが生きていれば16才を迎えたナイにどのような反応を示すのか想像する。長年の付き合いであるドルトンの予想では立派に成長した息子を見て感涙するだろうと予想する。



「アルの奴はああ見えても涙もろいからな……今のお前を見たら感動のあまりに泣き叫ぶかもしれん」

「そ、そこまでか?いや、まあ確かにあいつならそうかもしれないが……」

「爺ちゃんと二人は長い付き合いなんですよね」

「うむ、儂が冒険者をやっていた時から一緒に組んでおった。そういえばアルの弟もお主を祝いたいと言っておったぞ」

「あ、そうだったんですか……」



アルにはニイノで暮らす弟の「エル」が存在し、彼ともナイは面識があった。エルはアルのように鍛冶師を営み、彼の息子とも会った事がある。


ドルトンによるとエル親子はイチノに引っ越して復興作業を手伝い、現在のイチノは以前よりも発展しているらしい。一時期はゴブリンの軍勢のせいで街が崩壊しかけたが、現在では元通りに戻ってきているらしい。

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