30話 大爆発

「今度こそ終わりよ!!」

「くっ……!?」



ナイは下半身が凍り付いた事でどうする事もできず、咄嗟に背中の旋斧に手を伸ばす。しかし、既にカノンは空中に放り投げた魔石に向けて最後の魔石弾を放つ。


カノンは火属性の魔石に目掛けて魔石弾を発射させると、空中に浮かんだ魔石に魔石弾がめり込み、これに寄って二つの魔石の魔力が暴発する。爆発が発生するまで一瞬の間があり、その間にカノンはマントで全身を覆い隠して地面に伏せる。



(これで止めよ!!)



魔石が爆発すれば先にカノンが空き地内に散りばめた火属性の魔石の粉末も反応し、更なる爆発を引き起こして空き地内は一時的に爆炎に飲み込まれる。爆発すれば火竜の翼膜のマントを身に付けているカノンはともかく、いくらナイであっても爆炎に巻き込まれれば無事では済まない。


空中に浮かんだ魔石が罅割れて亀裂から赤色の光が放たれると、それを見たナイは咄嗟に背中の旋斧を引き抜いて前方に構える。その次の瞬間、爆発が発生して空き地内は爆炎に飲み込まれた――






――周囲が建物に取り囲まれた空き地に爆炎が燃え広がり、事前にマントで身を隠していたカノンも壁際の方まで転がり込む。いくら炎に強いと言っても爆発の際に発生する衝撃までは無効化は出来ず、彼女は痛みに耐えながらもマントの隙間から様子を伺う。


空き地内は爆発の影響で煙が舞い上がり、ほぼ全域に炎が燃え上がっていた。咄嗟にカノンは事前に用意していた風属性の魔石を装着した仮面を取り出し、それを身に付ける事で煙を吸い込まないように気を付ける。


この彼女が取り出した仮面は風属性の魔石を利用して仮面に新鮮な空気を送り込む魔道具であり、こちらも彼女が暗殺した人間から奪った特殊な魔道具である。仮面を取りつけている間は煙を吸い込まず、息も問題なく行えるのでカノンはマントから顔だけを出した状態で空き地を伺う。



(……確実に死んだわね)



空き地内はカノンが立っている場所以外は炎に包まれ、大量の煙が燃え上がっていた。大量の火属性の魔石を使用した甲斐はあり、確実に標的を仕留めたとカノンは確信する。



(後は魔剣と盾を回収すれば仕事は終わりね。でも、盾の方は私が頂いておくわ)



大臣からカノンはナイが所有する魔剣と盾の回収も依頼されているが、反魔の盾の性能を知った以上はカノンは大臣に渡すつもりはなく、自分の魔石弾を防ぐ手段を持つ防具をわざわざ渡す必要はない。


反魔の盾は魔銃の攻撃にも対処できる性能を持つと分かった以上、カノンはこの反魔の盾を回収して他の人間が手を出せない場所に封じる事にした。大臣には盾の方は回収に失敗したと報告し、魔剣さえ渡せば十分だと彼女は考える。今回の暗殺の目的はあくまでもナイの命を奪う事であり、魔剣と盾の回収は



(それにしても……おかしいわね、もうちょっと派手に爆発すると思ったんだけど)



炎が燃え盛る空き地の様子を見てカノンはある疑問を抱き、彼女の想像では作戦が成功した場合は周囲の建物が崩壊する程の爆発が発生すると予想していた。しかし、実際の所は爆発によって空き地は炎に包まれたが、周辺の建物は崩れていない事に不思議に思う。



(想定よりも爆発の規模が小さいけど……でも、どっちにしても始末した事に変わりはないわ)



予想よりも爆発の規模が小さい事にカノンは戸惑うが、いくら爆発の威力は落ちようと炎に包まれた空き地の中ではならば生きていけるはずがない。いくら英雄ともてはやされている人物だろうと、この燃え盛る炎の中で無事なはずがない。


だが、用心のためにカノンはナイの死体の確認しようと彼女は待ち続け、空き地内に燃え盛る炎が消えるまでじっと待ち続ける。魔石や魔法の類で生み出された炎は長時間は維持できず、やがて10秒ほど経過すると炎が消え始めていく。



(やっと消えたわね、後はあいつの死体から魔剣と盾を……!?)



炎が消えていく光景を確認してカノンはナイの死体を探し出そうとした時、彼女の視界に予想外の光景が映し出される。





――カノンの視界に映し出されたのは大剣を振り下ろした状態で目を閉じた状態のナイが立っていった。先ほどカノンの水属性の魔石弾によって凍り付いていたはずの下半身も元に戻っており、しかも彼が握りしめている大剣も異変が発生していた。





ナイの手元に握りしめられた旋斧は全体に赤色の光を纏い、そして彼の周囲の地面は焦げ付けていない。この事からナイの周辺は爆炎の被害が免れており、そして彼は目を開くとカノンに視線を向けた。



「ふうっ……流石に死ぬかと思ったよ」

「な、な、何を……何をしたのよ、あんた!?」



何事もなかったかのように無傷で立っているナイを見てカノンは動揺を隠しきれず、彼女は取り乱した様子で腰を抜かす。そんな彼女の反応を見てナイは少し前に起きた出来事を思い返す――

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