29話 カノンの罠
「待て!!」
「待てと言われて待つ奴なんていると思ってるの!?」
逃走しながらもカノンは挑発するようにナイに語り掛け、そんな彼女の言葉を聞いてナイは眉をしかめる。カノンはナイが作戦通りに自分の後を追いかけてきた事に笑みを浮かべる。
路地裏を抜けるとカノンは空き地に辿り着き、すぐにナイが追いつくがここで彼は疑問を抱く。わざわざ逃げ場がない空き地にカノンが赴いた事にナイは警戒心を抱き、周囲の様子を「観察眼」を発動させて注意深く伺う。
(罠を警戒しているわね……でも、ここへ来た時点で私の勝ちよ!!)
カノンは空き地に罠がないのかを確かめるナイを見て笑みを浮かべ、この時に彼女は魔銃を構えた。ナイは自分に向けて魔石弾を撃ち込むつもりかと思ったが、彼女が狙いを定めたのはナイではなく、彼が通り抜けた路地裏の左右の建物の屋上部分に向けて発砲する。
「くたばりなさい!!」
「うわっ!?」
建物に目掛けてカノンは魔石弾を2発発射させると、建物に衝突した魔石弾が爆発して建物の上の部分が崩壊し、瓦礫が路地裏に降り注いで唯一の出入口を塞ぐ。その光景を見てナイは驚き、これでお互いの退路は絶たれた。
空き地にナイを誘い込む作戦を思いついた時にカノンが仕掛けた罠、それは空き地ではなく空き地を取り囲む建物の方に彼女は罠を仕掛けた。この建物に取り囲まれた空き地はたった一つしかない路地裏を通り抜けるしかなく、この路地裏を塞げば逃げ道はない。
(これでお終いよ……!!)
出入口さえ封鎖すればナイには逃げ道はなく、彼女は隠し持っていた小袋を取り出す。それはカノンが時間をかけて削り取った火属性の魔石の粉末が入っており、それをナイに向けて彼女は中身を放つ。
「喰らいなさいっ!!」
「うわっ!?」
火属性の魔石の粉末がナイに目掛けて放たれ、普通の人間ならば反応は出来なかっただろう。しかし、ナイは持ち前の反射神経で咄嗟に瞬動術を発動させ、空き地の隅へと移動して粉末を回避する。
しかし、粉末を直に浴びようとそうでなかろうとカノンにとってはどうでもいい事であり、彼女は空き地内に火属性の魔石の粉末を散りばめさせる。その様子を見てナイは嫌な予感を覚え、すぐに彼女の行動を止めようと背中の旋斧に手を伸ばす。
「いい加減に……!?」
「これで終わりよ!!」
カノンは武器を手にしたナイを見て魔銃を構えると、この時にカノンが装填したのは火属性の魔石弾ではなく、雷属性の魔石を削り取って作り出した魔石弾だった。
「喰らいなさい!!」
「うわっ!?」
魔銃から雷属性の魔石弾が発射された瞬間、銃口から電撃が発射された。火属性の魔石弾は何かに衝突した際に魔石が砕けて暴発するが、雷属性の魔石弾の場合は発射された後に電撃を帯びた状態で放たれる。
傍目から見ればカノンが銃口から電撃を放った様にしか見えず、しかも火属性の魔石弾よりも弾速に優れ、普通の人間ならば決して反応はできなかった。しかし、常人離れした反射神経を持つナイはどうにか右手の反魔の盾を構えて攻撃を防ぐ。
「くぅっ!?」
反魔の盾で咄嗟に電撃を帯びた魔石弾を受けると、弾丸を弾く際に電撃も拡散され、この時に雷光によってナイは視界を一瞬だけ封じられてしまう。その隙を逃さずにカノンは即座に次の魔石弾を撃ち込む。
「喰らいなさい!!」
「うわっ!?」
ナイが視界を封じられたのを見て即座にカノンは水属性の魔石弾を撃ち込み、弾丸はナイの足元に的中した瞬間、地面が凍り付いてナイの下半身が氷漬けになってしまう。
水属性の魔石弾は火属性の魔石弾と同様に衝突して砕けた瞬間に魔力が暴発し、広範囲に魔力が拡散する。水属性の魔力は冷気を生み出し、その冷気によってナイは下半身が凍り付いて動けなかった。
「しまっ……」
「これで終わりよ!!いくらあんたでも……これには耐え切れないでしょ!?」
動けなくなったナイに対してカノンは懐に手を伸ばし、マントの下に隠し持っていた最後の火属性の魔石を取り出してナイに目掛けて投擲した。
――空き地には事前に火属性の魔石の粉末が大量に散りばめられており、更に火属性の魔石にカノンが火属性の魔石弾を撃ち込んだ場合、空き地内で強烈な爆発が発生するのは明白だった。
カノンの考えた作戦は逃げ場の少ない空き地内にナイを呼び寄せ、更に唯一の出入口を塞ぐ事で退路を断ち、そこからナイを動けないようにすると大量の火属性の魔石を利用して爆発を引き起こす。
当然だが爆発が発生すればカノンも無事では済まないが、彼女は火属性の魔法攻撃に対して絶対の耐性を誇るマントを身に付けており、この火竜の翼膜から作り出されたマントならばどんな爆発にも耐えられる。
自分の勝利を確信したカノンはナイに目掛けて放り込んだ魔石に視線を定め、魔銃から最後の魔石弾を発砲しようとした。仮にナイが反魔の盾を利用して防ごうとしても、空き地全体を覆い込む爆発ならばいくら反魔の盾でも防ぐ事はできない。
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