26話 カノンの誤算
「――はあっ、はあっ……し、死ぬかと思ったわ」
どうにか爆発から逃れたカノンは既に街道を離れ、彼女は路地裏を通り抜けた先に存在する空き地に辿り着いた。この場所はナイがミイナ達と初めて出会った場所であり、彼女は空き地に辿り着くと自分が身に付けていたマントを見て口元に笑みを浮かべる。
「流石は火竜の翼膜で作り出されたマントね……これがなければまずかったわ」
カノンが身に付けていたマントはただのマントではなく、遥か昔に作り出された火竜の素材が利用された魔道具だった。このマントは火竜の死骸から回収された翼膜を利用し、それをマントにして作り出した代物である。
元々このマントはカノンの所有物ではなく、ある人物の暗殺依頼を受けた際、その人物が家宝として大切に保管していた代物をカノンは盗み出した。外見は古ぼけたマントにしか見えないが、火属性の魔力に対して強い耐性を誇り、これを身に付けていれば火竜の吐息でも耐え切れると伝わっていた。
火竜のマントを身に付けていたお陰でカノンは火属性の魔石を利用した爆発から難を逃れる事ができた。このマントで全身を覆っていたので魔石から発生した火属性の魔力を防ぐ事に成功し、事なきを得たがもしもマントを身に付けていなければカノンの命はなかった。
(仕切り直しね……あんな化物だなんて聞いてないわよ)
カノンはマントを振り払い、とりあえずは爆発の際にこびり付いた汚れを落とすと、彼女はナイの事を思い出して腹立たしい気持ちを抱く。まさか自分の魔銃を正面から弾き返されるなどとは思わなかった。
(大臣の奴が盾を欲しがった理由も分かったわ。あれが反魔の盾……まさか、私の魔石弾まで弾き返すなんて)
ナイが使用した反魔の盾の事を思い返し、もしもあの盾がなければカノンにも十分に勝機はあった。あの盾さえなければカノンはナイを仕留められると考え、同時に反魔の盾の性能を知った事で盾を狙う理由が増える。
(あんな物、大臣なんかに渡してたまるもんですか……あれは何としても手に入れる必要があるわね)
自分の魔銃の攻撃を防ぐ事ができる防具があるなどカノンは許せるはずがなく、大臣の依頼ではナイの反魔の盾も回収する様に命じられているが、カノンは反魔の盾を他の人間に奪われたらまずいと考えた。
絶対の信頼をおいていた魔銃を防ぐ防具が存在した事にカノンは焦りを抱き、どんな手を使っても彼女は反魔の盾を奪って人の手の届かない場所に封じる必要があると考えた。そのためにはカノンはナイから反魔の盾を奪う計画を立てる必要がある。
(あの男……只者じゃないわ、私の魔石弾が視えていた)
ナイとの戦闘を思い返すだけでカノンは身体が震え、魔銃から放たれた魔石弾をナイは確かに目で捕らえ、反魔の盾で弾き返した光景を思い出す。高レベルの人間は一般人とは比べ物にならない身体能力や動体視力を得る事はカノンも知っているが、これまでに彼女が戦ってきた相手の中で魔石弾を目で捕らえた人物などいない。
(あいつ、いったい何者よ……いえ、誰であろうと関係ないわ)
心を落ち着かせるためにカノンは魔銃を握りしめた状態で銃口を額に押し付け、彼女は心を落ち着かせるときはいつも魔銃を自分の身体に当てて考える。少しでも引き金を引けばとんでもない事態に陥るが、敢えてカノンは自分を窮地に追い込む事で冷静さを取り戻す。
獣人国一の暗殺者であると自負しているカノンは仕事を行う際、どんな失敗を犯したとしてもずるずると考え込まず、気持ちを切り替える事に専念する。やがて心が落ち着いた彼女は銃口を額から離すと、魔銃を腰に戻して頬を叩く。
「よし……とりあえず、あいつの情報収集が先ね」
気持ちを切り替えたカノンは標的であるナイの事を調べるために行動を移す。事前に大臣から色々と情報は教えてもらっているが、今一度ナイの情報を調べ直す事を決めて彼女は行動に移った――
――だが、カノンは気付いていなかった。空き地に逃げ込んだ彼女を監視する存在が近くにいた事、そしてその人物は建物の屋根の上で路地裏を歩くカノンを見て様子を伺っていた。
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