24話 殺気
「……あの、どうかしました?」
「え、あ、いや……な、何でもないわ。そこ、退いてくれるかしら?」
「あ、はい。すいません……」
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
カノンはナイの言葉を聞いて慌てて一般客を装い、彼の横を素通りする。この時にナイと話していたヒナが対応を行い、その間にナイはカノンに背中を向けて歩き出そうとした。
しかし、カノンは思いもよらぬ形で暗殺対象と出会ってしまい、命を狙うのならば絶好の機会だった。カノンは立ち去ろうとするナイに視線を向け、腰に差している魔銃に手を伸ばす。
(まさかこんなに早く会えるなんて……でも、絶好の
カノンは街道を歩くナイに視線を向け、彼が十分に離れるまで待つ。その様子を見てヒナはカノンの行動に怪しく思うと、この時に彼女はヒナが腰に差している魔銃に視線を向けた。
ヒナは最初は魔銃を見ても正体が分からず、そもそも彼女が「銃」を見るのは初めてだった。しかし、カノンの雰囲気が変わった事とナイを見つめている事に気付き、嫌な予感を覚えたヒナはカノンに話しかける。
「お客様、どうかされましたか?」
「いいから黙ってなさい……怪我をしたくないなら離れなさい」
「えっ……!?」
ナイとの距離が十分に離れたと判断すると、カノンは魔銃を引き抜いて両手で構えた。ナイとの距離は既に10メートル以上は離れており、丁度射線上には人の姿はなかった。
奇襲を仕掛けるのならば絶好の機会だと判断したカノンは魔銃を構えると、ナイに目掛けて引き金を引こうとした。しかし、いちはやくヒナが危険を察してナイに声をかけた。
「ナイ君、危ない!?」
「えっ?」
「ちぃっ!!」
ヒナの言葉にカノンは舌打ちするが、ナイはヒナの声を聞いて咄嗟に振り返ると、そこには既に魔銃を構えたカノンの姿があった。カノンは標的が自分に気付いてしまったが、それでも構わずに彼女は引き金を引く。
(もう遅いわよ!!この距離なら外さないわ!!)
相手に気付かれようと構わずにカノンは魔銃を発射させ、火属性の魔石弾が銃口から射出された。
――魔銃から発射された弾丸はナイに目掛けて放たれ、カノンは敢えて狙いを彼の足元に絞る。頭部や胸元などの急所に撃ち込めば確実に殺せるが、敢えて足元を狙ったのは万が一にナイが回避行動に移った場合、弾丸を避けられた事を想定して地面に衝突する角度で撃ち込んだからだった。
仮にナイが避けたとしても地面に衝突させれば魔石弾は暴発し、砕け散った際に内部の魔力が暴発して爆発を引き起こす。それに巻き込まれれば人間なとひとたまりもなく、最低でも重傷、運が良ければ即死する。
確実な勝利を得るためにカノンは弾丸を発射させた。仮に普通の人間が相手なれば彼女の判断は決して間違ってはいない。しかし、相手は人の領域を越えた力を持つ存在だと彼女は知らされていなかった。
(――何だ、これ?)
自分に迫りくる弾丸に対してナイは冷静に考え、彼の視界ではまるでビデオのスローモーションのようにゆっくりと近づく弾丸の動きが見えた。実際には本物の拳銃の弾丸のように高速で近付いているのだろうが、現在のナイは弾丸の動きを正確に確認できた。
数々の視線を乗り越えた事でナイは極限の集中力を身に付け、そのお陰で窮地に達した場合は信じられない思考速度を発揮し、考えられるようになった。この力はSPを消費して覚える技能の類ではなく、心眼と同様の特殊な能力だった。
(これ、危険な気がするな……直接に触れたらまずいかもしれない)
迫りくる赤色の弾丸を見てナイは危険を察し、これを下手に受ければ無事では済まないと直感が告げていた。だが、ここで回避するのも危険な予感を抱き、ナイは咄嗟に右腕に装着している反魔の盾を利用する。
(ここだ!!)
ナイは強化術を発動させて肉体の身体能力を上昇させると、反魔の盾を装着した右腕を動かし、迫りくる弾丸をしたから押し上げる形で弾き返す。弾丸は半間の盾に触れた瞬間、軌道が変化して上空へ向けて移動する。
反魔の盾は外部から受けた衝撃を跳ね返す性質を持ち、これを上手く利用すれば衝突すれば砕け散って内部の魔力が暴発する魔石弾でも軌道反らす事はできる。しかし、軌道を反らすと言っても本物の弾丸並の速度で動く物体を弾くなど常人には真似できない。
並外れた思考能力と身体能力を持つナイだからこそできた芸当であり、弾かれた魔石弾は上空へ移動すると、派手に花火のように吹き飛ぶ。その光景を見たカノンは愕然とするが、その一方でナイは空中で爆発した魔石弾を見て冷や汗をかく。
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